事後処理
「シキか、わかったぜ。とりあえずもう一回礼を言っておく、ありがとな。」
そういってガルクは礼と一緒に頭を下げた。ほかのパーティーメンバーも礼を言いながら頭を下げてくる。
「いいってことだ。俺もここら辺の地理に疎くて誰かと合流したいと思ってたところだからな。ちょうどよかったよ。」
それに対して俺は正直に本音で返しておく。敬語?もう自分では新しい世界で生まれ変わったと思ってるからな。さっき名前を名乗ったところからやめた。これからは自分の思うままに生きるしな。
「そう言ってくれるとありがたいんですが、サンドワームを相手にちょうど良かったで済ませるとは…シキさんは一体何者なんですか?」
と、ルークが少し笑顔をひきつらせながら聞いてくる。そんなにやばいやつだったのか?あのミミズ。一撃で倒せたぞ。まあ、ザ・デストロイやほかの装備、果ては俺がチートすぎるだけかもしれないが。
「何者と言われてもな。俺はシキだ。自由で気ままな自由人さ。ま、どうでもいいことだけどな。」
とりあえずそうおどけておく。あまり下手に受け答えしてぼろが出てもまずいし。
「そういうのはいいじゃないっすか。で、シキってランクどのくらいなんすか?サンドワームをあっさり殺せるくらいだから、もしかしたらA、いや、ひょっとするとSランクとか?」
ギルがまたランクの事を話題に挙げた。いや、さっきからランクってなんのことだよ。いや、前世?で異世界トリップものを読みまくってたからなんとなく予想はつくけどさ、あまり憶測やそういったものを過信しすぎてぼろが出ても困るってのに。
「いや、俺はおそらくこことは別の大陸から来たんだ。もといたところでちょっといろいろとあってな。」
「別の大陸から?航海技術はそんなに発達してたかしら?一般的にはそれほどの航海技術はないらしいって話だし…。」
やば。大陸がここ一つだけじゃないってことは助かったが、この世界の航海技術ってそんなに低いのか。
「俺はあっちではとある魔法研究所で警護とかをしてたんだが、そこで空間転移系の魔法を研究しててな。その実験に巻き込まれたんだ。」
「なるほど。でも、ここが別の大陸だってどうやって知ったんですか?」
ルーク君よ、そういうあらを探すような発言は止めようぜ。いちいちつじつま合わせなきゃいけないじゃないか。さっきの発言といい、何気に俺の説明困難で致命的な部分をついてきてるぜ。
「それは…俺のいた大陸は南の方にあって、年がら年中ここよりも暑いんだよ。生えている植物もどうやらあまり知らないものばかりらしいし、それでここが別の大陸だって思ったんだ。」
「なるほど、それなら納得だ。ということはこの大陸の知識もほとんど無い状態ということか?」
おお、ナイスだガルク。この流れなら聞きたいことが聞けるな。いやあ、昔よく読んでたトリップ小説の言い訳がこうもうまくいくとは、感謝感謝だな。
「そうしてくれると助かる。何せ右も左もわからないうえに常識がまるまる無いんだ。だから誰かにあっていろいろ聞いておきたかったんだよな。」
「そうか。なら後で聞きたいことを答えてやるよ。でもその前に…おおい旦那!もう大丈夫だから出てきなって!」
ガルクは馬車の隅で布にくるまっていたものに声をかけた。そういえばさっき探査には10人の人間が引っかかったよな。ここにいる5人(さっき旦那と呼ばれた布も含む)以外にも誰かいるのか?馬車はこれとあともう一台あったから、そっちに何人か乗っているんだろうか。
「ほ、本当だな?もう出ても問題ないんだな?」
布がしゃべった。中からいかにも成金でぶいぶい言わせてますという言葉がぴったりな、太った男が出てきた。はっきり言っていい印象を抱けない。顔も整っているとは決して言えず、はっきり言って醜いといっても差し支えない。
「まったく、高い金を出してお前らを雇ったのに、いつまでかかってるんだ。これだから冒険者とやらは信用ならんのだ。」
布から出てきたらいきなりディスってきやがった。さっきまでのおびえようが嘘のようだ。やっぱり見た目とたがわずに性根まで腐っているようだ。
「その点に関しては申し訳ないな、旦那。結果的には助かったが、それはこのシキがたまたま通りかかってくれたからだ。下手したらここで全滅もありえたかもしれん。」
ガルクがパーティーを代表して報告する。それに対しておっさんは、
「ふん、情けない。やはり冒険者は信用ならないな。ということは依頼不達成ということで、報酬は払わなくてもいいわけだな。」
「そんな!確かにさっきはまずかったけど、それ以外なら全部つつがなく依頼を果たしていたはずよ!」
シエラがおっさんに食って掛かる。なるほど、こいつらは依頼人と雇われって関係か。おっさんがしぶしぶ雇ったらしいから、まだ見ていない5人の補充か、もしかしたらそいつらも同じようにこのおっさんが雇ったのかもしれん。
「やかましい!大体、今回の輸送には今の魔物の件以外何もなかったではないか。しかもそいつらを自分たちの実力で倒せてすらいないのに、よくもまあ依頼達成とか言えたもんだ。とにかく、今回の依頼は不達成だ。」
「そんな…」
シエラがうなだれる。ほかのメンバーも同じようにがっかりしているが、あのおっさんの言う通りなら確かにあのおっさんの言い分もわかるし、今回の依頼は不達成というのもわからないでもない。
まあ、言ってるのがあのおっさんだから納得できるかといわれたら素直に納得もできないが。
「仕方ねえよ、シエラ。確かに今回俺たちは護衛としての役目を果たせなかったっていうのは確かだしな。今回はあきらめようぜ。」
ガルクがシエラをフォローする。やっぱり一流って感じのする奴は違うな。心情はどうあれ、客観的に考えて今回は自分たちに非があるということを悟ったらしい。
「分かればいいのだ、分かれば。…おお!そうでした。貴方、シキさんとおっしゃいましたかな?先ほどはありがとうございました。おかげさまで商品も無事で、依頼料も払わなくてよくなりました。どうでしょう、私どものもとで護衛として雇われませんか?」
おっさんがこっちを向いたと思ったらガルク達に向けた態度とは180度変わって、媚びるような感じで話しかけてきた。正直言って変わり身の早さが本当に気に食わない。あのミミズの強さがどれほどかはよくわからないが、仮にもさっきまで自分を守ろうとした奴らの前で護衛を新しく雇おうとするとは、怒りを通り越して呆れてしまう。
「護衛か。ところでおっさ…いや、あんたは何の商売をしてるんだ?さっき輸送とか言ってたが。」
「ああ、そうでした。そのことをまだ伝えてませんでしたな。私の名前はシュセンといいます。実は私どもは奴隷の販売をやっておりましてな。私はそこの頭目なのです。」
奴隷か。この世界では合法なのか?俺個人としてはあまり奴隷に対して偏見や嗜虐趣味といのもないけど、かといって奴隷商人許すまじって感じで奴隷解放するほど嫌いでもないけどな。
「そうか、さっき聞こえたかどうか分からないが俺はほかの大陸から来ていて分からないんだが、ここでは奴隷は合法なのか?」
「それはもちろんでございます。奴隷にはさまざまな種類がいますが、どれも労働力や愛玩用、あるいは奇特な趣味の対象としてもたくさんの需要があります。」
奇特な趣味ねえ。どんなんだかある程度想像はつくが、やっぱりこの世界でも奴隷は悲惨な運命を辿るようだな。そうならないように気を付けよう。
「ということはさっき商品といっていたのは奴隷か。もう一台ある馬車の中身が全部そうなのか?」
「ええ、今回は掘り出し物の奴隷をオークションで競り落とした帰りでしてな。5人仕入れて帰る途中だったのですが、あの冒険者どもが使えませんで…まったく、あんなでかいだけのミミズにすら勝てないとは、ギルドにはとんだハズレを引かされてしまいました。」
あ、だめだこいつ。もうだめだ。一瞬、『仕事なんだから嫌なこと(このおっさんのもとで働く、というかこのおっさんを守ったり、このおっさんと毎日面突き合せたり…)は目をつぶって安定した収入というのもいいか』とか思っちゃったけど、だめだ。絶対に俺はこのおっさんと相いれない。
「そうか、いろいろ聞いてしまった後で悪いんだがその話は断らせてもらうわ。それよりか今回の報酬のことなんだが…」
「ち、さんざ聞いて期待させた挙句にこれか。ちょっと腕が立つからって調子に乗りおって。報酬?悪いがお前が勝手に助けただけだ。例え銅貨1枚だって払う気はないぞ。」
断った途端シュセン…もうおっさんでいいや。おっさんがガルク達に向けたのと同じ態度を向けてきた。やっぱり雇われるなんてまっぴらだな。このおっさんの下で働いている連中が不憫に思えてきた。
「なに、別に金を払えといっているわけじゃない。さっきのガルク達の依頼なんだが、達成にしておいてくれないか?」
「何を馬鹿なことを。さっきのを聞いていただろう。あんたにもあいつらにも報酬なんて払う気は…」
「報酬は払わなくていい。ただ依頼達成ってことにしておけばいい。」
そう。いきなり報酬なんて言い出したのはこういうわけだ。さっきこのおっさんは『ギルド』と言っていた。それが俺が思っているような討伐や採集、護衛といった仕事をするトリップ小説にありがちなものだとしたら、依頼不達成というのはあまりいいものではないだろう。
「そうか。金を払わなくていいというならそれでいい。おい、お前ら!一応依頼は達成ということにしておいてやる。だが、金は絶対に払わんぞ。」
「分かった、それでいい。シキ、ありがとな。」
「報酬がないのは残念っすけど依頼失敗するよりはましっすね。」
「そうですね。報酬なしで、しかも依頼不達成よりはましですよ。」
「私はまだ納得してないけどね。」
それぞれがそれぞれの反応を返す。シエラよ、そんなに納得できないか。…できないだろうな。何せ依頼主があの態度だし、あのおっさんだし。
「これでいいならわしはあっちの馬車に戻るぞ。お前ら、せいぜいトーラムまで仕事をするんだな。」
邪魔者はいなくなった。あーあ、清々した。さて、俺は俺でこいつらから情報という名の報酬をもらうとするか。
ろくに進展のない話しになってしまいました。
説明回って自分的には嫌いじゃないんですけど書きたい話は他にあるので早く書きたいですね。
今のペースでは何時になることやら(-_-;)