プロローグ2
前回よりは長くなりました。これからもこの文字数でやっていけるかが心配ですが、できるだけ頑張ります。
どういうことだ?
いきなり自分が真っ白な空間に一人でいるのに気が付いて俺、木村俊樹は混乱していた。
「おいおい…どうなってるんだよ。俺はさっきまで学校にいたはずなのに。」
そう、俺はさっきまで普通に高校の校舎にいたはずなのだ。あの時は確か、もともと移動教室だったんだけど、人と話すのがあまり得意でない俺は、だれかと話しながら移動するということが好きではなくて一人で早めに教室を出たけど時間になっても誰も来なかったから恥を承知で一度教室に戻ろうとしていたところだったのに。
…別に人と話せないとかじゃないんだけどな。ただ、小さい頃から近所や親戚に同年代のやつがいなくて周囲には大人とかの年上ばっかりがいたから、その人達に遊んでもらっているうちに自然と同年代との距離感というか、話題とかが分からなくなっていったんだよな…。おかげで年上と話すことには抵抗や緊張がほとんどないけど。
話が逸れたな。とにかく、特にこれといってこんな変な状況に巻き込まれる要素なんて何一つなかったはずだ。それなのに…。
「いや、巻き込まれる要素があったのじゃよ。」
どきっ!とした。いきなり誰もいない空間で声をかけられたらそりゃそうなるさ。
ふりむくとそこには、かなりの存在感をもった全身白づくめのじいさんが一人立っていた。正直周りの空間と色が同じでわかりにくい。それにしてもなんだ?このじいさんの、神聖というかなんというか、この圧迫されそうな感じは?ていうかさっき、俺が考えたことにそのまま答えなかったか?
「混乱しておるようじゃのう。無理もない。あと、ワシはお主の心が読み取れる。不快に思ったならやめるがの。」
何言ってるんだ?このじいさん。心が読める?いや、確かにさっきから俺は一言も発してないのにこのじいさんは俺が心の中で感じた疑問に答えている。そうなると一応信じるしかないけど、一体このじいさんは何者なんだ?でもまあ、とりあえず
「そうですか。正直心を読まれるというのはあまりいい気分ではないので止めていただけるとうれしいです。でも、まだあなたが誰なのか分からない以上、頭から信じているわけではないということはわかってください。」
一応、失礼なことは言ってないよな。年上の人の言っていることは大事だったり、聞くべきことかもしれないけど、だからと言って全部バカ正直に鵜呑みにする必要もない。自分の考えを伝える。これ、大事。
「わかっておるよ。言うとおり、お主の心を読むのは止めた。こちらから多大な迷惑をかけた以上、これ以上お主を不快にさせるのは、礼儀に欠けておる。今は信じてくれなくても構わん。いきなりすぎてなにがなんだかわからんだろうからの。無理もない。」
なんとか相手を怒らせずにすんだようだ。結構話の分かるいいじいさんっぽい。あれ?でもまてよ、今…
「あの、今俺に多大な迷惑をかけたって言いましたよね。どういうことですか?俺とあなたがここにいることに関係あるんですよね?」
そういうと、じいさんは一変して、すまなさそうな、憐れむような表情と視線を向けてきた。どういうことなのか、聞こうとする前に、
「そうじゃのう、こちらとしては本当にお主に対してすまないことをしたとおもっておる。説明させてもらうとの、まず単刀直入に言うと、お主は死んだのじゃ。」
…何言ってんだ、このじいさん。俺が?死んだ?じゃあなにか、ここは死後の世界で、このじいさんはあの世への案内人かなんかか?いやいやいや、ふざけてる。やっぱりこのじいさんは信じられんな。怪しすぎる。
「まあ、正確には世界からはじき出されて消滅してしまった…いや、しかけていたのじゃがの。
お主の表情から察するに、ワシが何を言っているのかさっぱりなようじゃな。気持ちはわかる。だがの、これは疑いようのない真実なのじゃ。
まずはワシが人間ではないということの証明から始めようかの。証拠は…そうじゃな、天界にあるアカシックレコードからお主の来歴を持ってきた。いま見せるから、自分で確かめるがよい。およそ人間には調査不可能なことまで書いてあるからの。これを見れば信じるじゃろうて。ゆっくり読むといい。」
そういってじいさんは手のひらから光る球体を出したかと思うと、それを分厚い紙の束に変えた後、俺に渡してきた。何枚あるんだこの紙束。100枚や200枚なんかじゃ足りないぞ。一体こんなものどこから出したんだ?
とりあえず読んでみると、そこには俺に関する全てが書かれていた。氏名、性別、年齢、生年月日はもちろんのこと、生まれたときの身長や体重、幼少期のエピソードはもちろんのこと、最近の、絶対に誰も知らない話や癖、行った場所まで書いてあり、果ては詳細な家系図まで書いてある始末だ。およそ人間にできることじゃない。一応、けっこうな数を読んでみたけど、幼少期のエピソードはともかく、物心ついてからのことはある程度覚えているから、これらが嘘ではないことがわかる。
「どうじゃ?納得できたかの?」
一段落して半ば放心状態になっていると、じいさんが話しかけてきた。
いや、完敗っすわ。認めよう。このじいさん、絶対に人外の何かだ。神とか言っても信じるね。
「はい、納得できました。つかぬ事をお伺いしますが、あなたは…」
「ワシは神じゃ。そして今回、お主に謝罪しなければならなものでもある。」
そうか、神様か…って神様!?いや、さっき信じるって言ったけど、本当にそうだったのか。ってまたこの神様聞き捨てならないことをいわなかったか。
「そうですか。あの、それで、俺に謝罪とは一体…」
「そうじゃの、まずは何があったか説明せねばなるまい。まずの、ワシのいる天界は人間界の上位世界で、人間が死んだ後にその魂を管理、輪廻の輪に乗せるのが仕事なんじゃが、人間界と天界を隔てる時空壁と呼ばれるものがあるんじゃが、それがある天使の管理ミスで一気に壊れてしまっての。さっきまでその修復にあたっておったのじゃが、壁に空いた『穴』に吸い込まれた人間が一人おったのじゃ。あと少しのところで修復が完了できたのじゃが…力及ばず、その人間はその『穴』に吸い込まれ、時空の狭間に投げ出され、そこで存在が消滅するはずだったんじゃが、そうなる前にワシらが保護して今こうしてここにいるというわけじゃ。」
…その吸い込まれた人間ってやっぱり俺だよな?そんなことに俺が巻き込まれるなんて…。正直このままじゃくじけそうだ。
「では、俺をもとの世界に帰してください。」
「それはできんのじゃ。一度世界からはみ出たものは、二度と元々いた世界には戻れぬのじゃ。その世界を捨てたという風にみなされての。じゃからお主は元いた人間界に戻ることはできないんじゃよ。」
なんてこった。いきなりわけのわからないことに巻き込まれて、もう二度と帰れないなんて!ふざけてやがる!
…でも、話を聞く限りだと、この神様が悪いってわけじゃないんだよな。悪いのは…
「では、そのミスをした天使ってのはどうなるんですか?まさかそのまま厳重注意とかじゃないですよね。」
そうだ。そのミスった天使が悪い。この手でどうにかしてやりたい。
「それはもちろんじゃ。これほどのことを引き起こしたのじゃからもちろん、その存在の消滅をもってつぐなわせた。そのなれの果てがこれじゃ。」
そういって神様は手のひらの上にこれまた光り輝く球体を出した。さっきの紙のときの球体の光よりもずっと輝いている。こいつが俺をこんな目に…。
「不快なのはわかるがの、今のこれはただのエネルギー体じゃ。人格も何もない、天使を作っていただけでこれ自体にはなんの罪もないんじゃ。分かってくれんかのう。」
分かったよ、分かりましたよ。確かにただのエネルギーじゃ殴ってもなににもならないしな。ここは無理やりだが、納得しておいてやろう。
「分かりました。ちょっとしこりはあるけど、納得しておきます。」
「そうか、すまないの。お主が聡いもので助かったわい。での、お主のこれからなんじゃが、確かに元いた世界に帰すことはできん。じゃが、別の世界になら、送ることができるんじゃ。その際、お主の願いをかなえるために、このエネルギーを使ってお主の要望をできる限り叶えようという話になっての。どうじゃ?今までとはまったく違う世界じゃが、行ってみる気はないかの?ワシらもできる限りのことはしよう。言ってはなんじゃが、これはかなりの特例なのじゃよ。なにせ、天使のエネルギーを使えるということじゃからの。」
「天使のエネルギーを使えるって、そんなに珍しいことなんですか?」
「本来ならば、例えこちら側のミスであっても、他の世界に送り出しこそすれ、願いを叶えるなどということはしないのじゃよ。天界の者が人間の願いを直接叶えるということは本来ならしてはならないのじゃが、今回はこの事態を引き起こした天使のデリルへの罰が、エネルギーに戻してその存在を消滅させることだったんじゃ。そして、せっかくじゃからお主への贖罪にそのエネルギーを使ってもいいのではないかという話になったのじゃよ。」
なるほど。ていうかそのまま放り出されるところだったのか。ということは天使のエネルギーがないとその身一つで何もわからない場所に行かなくてはならないのか。なんか、すぐに死にそうだな。
とにかくそういう判断を下してくれた天界の人たちに感謝だ。そのデリルってやつには同情の余地はないけど。
さてと。そうと決まればまずはどんな世界に行くかだな。
「別の世界とは、どういうところなんですか?」
「いろいろあるからの、お主の行きたい世界を言ってみなさい。探そう。」
行きたい世界か。行く世界も選ばせてくれるなんて至れり尽くせりだな。なら、俺の趣味の一つで、すっごいあこがれていた世界があるんだけどな。聞いてみよう。
「では、文明レベルは中世ヨーロッパくらいで、剣とか魔法とかがある世界ってありますか?」
「ふむ、少し待っておれ。…あったな。それに該当する世界が。行く世界はそこでいいかの?では次は願いじゃ。なんでも言ってみるといい。」
願いか。この場合はトリップ特典だよな。そうだな、ここはやっぱり王道のあれでしょ。
「では、なんでも作り出せる能力をください。魔法でも、武器でも、道具でも俺が想像したら作れるような能力です。使える回数に制限はなしで。あとは、行く世界の言語の理解と読み書きができるようにして下さい。」
ちょっと欲張りすぎたかな。最初のやつなんて神の所業だし。
「ふむ、後ろのやつはもちろんじゃがの、最初のやつは新たな生命を作り出すことや世界を作ることはできんぞ。せいぜいが作った魔法の効果で生き物を合成したり亜空間を作ったりするくらいじゃが、いいかの?」
やはり世界を根本から揺るがすようなことはできないようになってるのか。まあ、仕方ないか。でも、生き物の合成って、合成獣ってやつじゃないか。むしろそっちの方が面白そうだな。
「わかりました。それでいいです。」
「そうか。なら決定じゃな。ほれ、こっちに来なさい。」
そういって神様は例のエネルギー体を俺に押し付けた。するとどんどん中に入っていった。それと同時にこれから行くという世界の言語が少しずつ頭に入ってくる。
「終わったぞ。気分はどうじゃ?」
「いい感じです。言語の方はばっちりで。能力に関しては特に何も感じませんけど。」
「使おうと思えば使えるから安心しなさい。ところで、そろそろ飛ばそうと思うのじゃがいいかの?あと、その世界に飛ばすともうほとんどワシからの交信は無いと思ってくれ。あまり世界に干渉できないのが神じゃからの。行く場所に希望はあるかの?」
「そうですね…。多少人里から離れた、周りに魔物や人間がいないような森や林に転移してもらえますか。あっちに行ってから能力の確認をしたいので、誰もいないほうが都合がいいんですよ。」
「わかった。では送るぞ。最後に、本当にすまなかったの。こちらのミスで、あちこち振り回す羽目になってしまって。」
俺の足元に魔法陣のようなものが現れた。これで新しい世界に飛ぶんだろう。
「いえ、いいんですよ。悪いのは神様やほかの天使たちじゃないんでしょう?新しい人生を楽しみますよ。」
「そう言ってもらえるとすごく助かるの。では、幸せな人生を。」
その言葉を最後に、俺は新しい世界に飛ばされた。異世界か。正直わくわくしているな。誰も俺を知らない世界で、最強の力を持って一人で生活する…すっげえ嬉しい!あこがれだった、何も縛られず、誰とも交流をしないで生きることだって可能なんだ。人と話すのなんて、結構苦痛の部類に入ってるんだ、俺は。さっきのショックなんてなんのその!
これからはぼっちで生活するぞ!誰がなんと言おうとそうするんだ。自由気ままに、その時の気分だけで。生きてやるぜ。
こうして、一人の人間が新しい世界に出現した。