仲間ゲット
「だいたいこの辺か?…とと、いたいた。」
探査にひっかかったマーカーを追って移動してきた俺は草むらからその戦いを目撃していた。ちなみにここに来るまでに新しい魔法を作っておいた。その名も隠蔽。よくMMOのスキルとかで見かけるやつだな。ただこれのすごいところは意識的に隠すレベルを変えられるところだ。気配を消すのは基本で、その気になれば自分が発している音すらも隠すことができる。ただ、姿が透明になるわけじゃないから堂々と目の前にでれば普通にばれる。
「一匹はでかいクマか。んで、もう一匹の方はキツネみたいなやつだな。あのクマ以外はキツネってことはあのおっきいのが親ってとこか。」
おっきい方のキツネは毛色が黒く、目は金色で体の大きさは大型犬くらいで尻尾が四本生えている。小さい方のキツネはそれぞれ一本ずつだ。クマの方は二本足で立った状態で大きさはトラックを縦にしたくらいの大きさがある。クマらしく体つきは相当良くて、特に両腕を手甲のように覆っている鱗とその先から伸びている鋭い爪が特徴的だ。
体格差だけで言えばキツネは絶望的だが、クマのほうも相当疲弊してるからおそらく力押しではなくてテクニック型の攻撃をするのだろう。二匹とも満身創痍といった様子で、息を荒げている。だが、体格差か体力差のせいかキツネの方が消耗が激しい。
ここまでだったら自然界でも普通に見られる光景だろうけど、ちょっと今回のケースはおかしい。別に取り立てておかしいかって言われたらそれ程でもないんだが…
「あの一匹だけ毛色がおかしいな。」
そう、大きな親キツネが庇っている四匹の子キツネの内、一匹だけ毛色が白色のやつがいる。他のキツネはみんな黒色なのにその一匹だけが白色で、ちょっとした怪我もしている。毛色が白だから目立つだけか…?
「そろそろ決着はつきそうだな。この分だとクマの辛勝ってとこか。うまいこと漁夫の利が狙えんな。」
クマとキツネの決着がついてクマが油断したところで横からズドン!で終わる。小さい方のキツネはまあいいや、どうせ狩っても大した金にならないだろうし。
「さっさと決着をつけるんだぞ~、俺の稼ぎのために。…んあ?あのキツネ何してやがる?」
気づくとキツネはクマを警戒しながらもその四本ある尻尾を動かして他の子キツネ達を掴んでいく。
「逃げるつもりか?体ボロボロなのによくやるよ。子ども抱えてたんじゃ助からないだろうに。」
俺だったらこのシチュエーションは絶対に一人で逃げるな、仲間見捨てて。だって自分の命が一番大事だし他のやつを生贄にすればいいなら話は簡単だ。
「まいったな~、あのクマの様子じゃスキをつかれたらとらえられないだろうから追いかけてってまた狩るのかよ、面倒臭え。」
と、俺がとらぬ狸の皮算用ならぬキツネとクマの皮算用をしていると、
「おいおい、なんでまたあの一匹だけあんなに高く上げてんだ?逃げるんだったら低くした方が…。っておい!まさか!」
そう、毛色の白い一匹だけを親キツネが他の子キツネに比べて高々と上げている。その尻尾の動きは明らかに逃げるための動きではなく、投げつけるときのそれだ。目はしっかりとクマと逃走経路を見ていて、タイミングをうかがっている。クマの方は何をしているのかいまいちといった顔で警戒はしつつも怪訝そうな様子だ。そうやって俺が見入っているとついに…
「あ!あのやろう、やりやがった!」
そう、親キツネは高々と上げた尻尾で掴んでいる子キツネをクマの顔面めがけて投げやがった!
「コ――――ン!」
「グルアア!」
投げられた子キツネはかなりの力で投げられたのだろう、骨が折れるような音を立てながらクマの顔面にぶつかった。
そのスキに親キツネは他の子キツネを抱えたまま、投げつけた子キツネを振り返りもせずにそのままいづこへと逃走した。
「あのクソキツネなんてことしやがる!ってそんな場合じゃねえ!」
「グガアアアアアアアアアアア!」
ここまで必死になって戦ってきてようやく弱らせた得物が逃げしかも顔面に攻撃を食らったのだ、クマの方は怒り心頭といった感じで、動けない子キツネの方に向かって大きく唸り声をあげながら突進していく。傷ついた子キツネの方はろくに動くこともできないでいる。
「くそ、いくっきゃねえ!ここで見捨てるのはさすがに後味が悪すぎるっての!」
今思えば白い子キツネだけ外傷が目立っていたのはおかしい。最初は単に目立たないだけかと思ったが今改めて思い出してみると他の三匹に比べて動きが緩慢だった気もする。おそらく最初から他の子キツネほどかばってもらってなかったんだろう。
「最初から捨て駒、じゃなけりゃいらない子ってやつだったってことかよ!クソ、ふざけやがって!」
俺は虐げられたやつの気持ちが分かる。弱肉強食の自然界と比べると見劣りしてしまうが、それでもやはり何の罪もなくただ周りと違うってだけでバカにされて、ひどい目にあってきた。だからこそあの親キツネは許せないし、あの見捨てられた子キツネをかばうことに俺は躊躇しない。
俺は強化した脚力で一気に草むらから飛び出し、クマと子キツネの間に入って腰からザ・シールドを引き抜いて俺とクマの間にシールドを作って、子キツネをかばう。
「グオオオオオ!」
シールドの強度に耐えきれなかったのだろう、クマは弾かれて、唸り声をあげながら後ろに下がる。こっちも踏ん張った時に足と手にきたけど大したことはない。もちろん後ろの子キツネも無事だ。
「コ…ン?」
「つらかったな、もう大丈夫だ。すまねえな、助けに入るのが遅れて。」
子キツネが顔をこちらに向けながら弱弱しく鳴く。その動作だけでもう辛そうだ。畜生、あのクソキツネただじゃすまさねえぞ!
「グオオオオオオオオ!」
振り返って正面を見るとクマがこちらに向かって唸り声を上げている。さっきのが利いてもう少し動けないかと思っていたが、どうやら怒りで一時的に痛みを忘れているらしい。さっきのクソキツネとの戦いよりも動きが早い。
「お前も可哀想にな、あんな終わらせかたされてさ。怒るのもわかるぜ、でもな…。」
そういいながらも俺は腰からザ・ミミックを抜いて剣先をクマに向けて構える。子キツネの状態は悪そうだ。ここは一気にいこう。
「俺は、俺の都合でこいつを助けるしお前を殺す。あのクソキツネへの怒りをひとまずお前ではらさせてもらう。」
「グガアアアアアアアアア!」
俺の言葉を聞いて激昂して襲い掛かってくるクマ。悪いがグズグズしてやれないんだ。
「貫け!ミミック!」
俺はミミックを槍の形にしてそのまま突っ込んでくるクマの脳天をめがけて刀身を伸ばした。一瞬でクマの脳天に突き刺さると、クマは体を痙攣させながらもその場に崩れ落ちた。
「後でちゃんと相手してやるから待ってろよ、せめてもの礼儀だ。剥ぎ取った後に埋葬くらいはしてやるよ。」
剣を両方鞘に収め、クマの死骸に声をかけながら俺は振り向き、子キツネの様子を調べた。
「コン…コ…」
「いい、無理にしゃべろうとするんじゃねえ。今から治してやるから。」
容体は思ったよりも悪かった。骨はところどころ折れてて、しかも元からあまり餌をもらえてなかったのか体も野生とはいえ心なしか痩せている。
「まったく、いやになるぜ。ここまでされている奴を見るのは…。とりあえずは怪我の治療だな。新しく回復魔法作るか。」
そう、今この子キツネに必要なのは迅速な治療だ。ドラ〇エのヒールを思い浮かべて回復魔法を作る。効果はケガの治療と病気、疲労の回復だ。
「完成。治せ、ヒール!」
俺の手から緑色の光が発せられて子キツネを包み込む。みるみる傷が塞がっていき、呼吸もだんだん落ち着いてきて規則正しくなってきた。
数分経たないうちに弱弱しかった子キツネは完全に回復して、自分の足で立てるようになった。
「大丈夫か?痛いとことかないか?」
「コン!コンコン!」
興奮した様子で子キツネは俺に近づいて来て俺の周りをしばらく回ったかと思うと、俺の匂いを嗅いだ後にすり寄ってくる。どうやらケガはもう大丈夫なようだ。
「そのようすならもう大丈夫そうだな。待ってろ、今飯食わせてやるから。」
俺はさっき殺したクマに近づくと適当にナイフを作り、クマの肉厚の腹に食い込ませる。かなり固くて最初は手間取ったが、皮を開くと後は簡単だった。血の匂いが辛いが、今はそんなことは言ってられない。
「コーン…」
食べたそうな顔をしながら子キツネは俺のことを見ている。しかも「キュルル」とご丁寧に腹まで鳴らしてだ。心配しなくてもくれてやるって。
肉を削いで子キツネの前に投げてやる。子キツネは食べてもいいか迷うようなそぶりをしながらも、目だけは絶対に目の前の肉から目を離そうとしない。よほど腹が減ってたのか、大喰らいのどっちかだな。なんとなく前者のような気がするが。
「遠慮すんな、食えよ。お前のためにやったんだぜ。」
「コン!」
許しが出るや否や肉にがっつき始めた。それはもう幸せそうに、一心不乱に目の前の肉にかぶりついていく。いやー癒される。これで顔が血まみれでなければもっと癒されたんだろうが、この際贅沢は言わない。
「よくよく見てみるとお前かわいいな、さっきまで他のことで手一杯だったからわからなかったけど。」
こう、一心不乱に餌にかぶりついている光景は本当に庇護欲を誘う。本当に毛色が白じゃなければ血が目立たなくてよかったのに!そしたらもっと癒されたのに!
「後で体も洗わなきゃだな。腹減ったし俺も肉食うか。」
俺もクマから肉を削ぎ、魔法で火を起こしてその辺の木の枝に肉をさして火で焼いていく。そうすると肉の焼けるいい匂いがしてきた。焼くのを待つ間、子キツネにまた肉を与えてやると、たった今食い終わったにも関わらずそっちにもがっつき始めた。ここまで食ってくれると助けた甲斐があって嬉しい。
「焼けたか…おお、こりゃ確かにうまい!これならがっつきたくもなるな。」
俺の分の肉も焼けたので食ってみると多少の生臭さはあるものの、それを補って余りあるうまさが口の中に広がった。噛むたびに肉汁がしみだしてきて簡単にかみ切れる。塩や胡椒がないのが惜しい。
しばらく俺と子キツネの肉を食うだけの時間が流れ、一人と一匹は無言で食いまくる。
「ふー、食った食った。」
「コンコン!」
どうやら子キツネも満足したようだ。そういえばこいつって結局なんなんだ?鑑定で見てみるか。
ランクフォックス
HP:100
MP:1300
備考:魔力を大量に保持して生まれた影響で毛色が変色している
「コン?」
「お前…そうか、そういうことか…。」
どうやら生まれつき魔力が大量にありすぎて毛色が変色してしまったらしい。だから他のキツネに比べて色が白いのか。人間でもこういうことはあるだろうし、この世界なら忌子とか田舎の方の村ではあるかもしれん。この子キツネはそういう意味じゃ忌子ってやつに入るんだろう。あのクソキツネが捨てたのもこれが理由か。ふざけやがって、自分の子どもだろうに!
「お前、これからどうする?行くところはあるのか?」
「コーン…。」
自分で言ってて白々しい。いつの時代もこういう周りと違ったやつは突き放されるし、ましてやこの子キツネに頼りにできるような知り合いがいるわけもない。
「お前さえよかったら俺と一緒に来ないか?大丈夫、俺はお前にひどいことはしない。約束する。」
「コーン…コンコン?」
「ああ、ホントだ。心配しなくていい。」
「コン!コンコン!」
俺の方に向かって子キツネが駆け寄ってくる。足元に来ると体を摺り寄せてきた。ヤベ、これ結構くるな、めっちゃかわええ。これで血がついてなきゃなあ。
それでも俺は子キツネとしばらく戯れていた。やたら俺の顔を舐めてたな。まったく不快じゃないってわけじゃないが、今は子キツネのやりたいようにさせた。それにしてもやばい。なにがやばいって、いちいち動きがかわいいからそれだけで目の保養になる。
「うし、じゃあそろそろ行くか。ついてこい。」
「コン!」
子キツネは助走をつけて器用に俺の体を駆け上がって、俺の肩に乗る。ナ〇シカの主人公のようになっていることだろう。そのままにしておいて、俺は足を進める。
モフモフっていいですよね。そういうのを抱いて寝てみたいです。