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ドットムートの騎士  作者: sularis
子供時代
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子供時代~4

「っ!?あなた!!その子は何ですか!?」

 セシルを見たお母様の反応は、やっぱりこうなったか、としか言いようのないものだった。

 馬車の中でどう説明するかあれこれ考えていたお父様だったけど、完全にお母様の剣幕に飲まれてしまっている。馬車の中で立てていた計画とか予定とか、あれじゃ全部パーかも知れない。

 屋敷の執事もメイド長も、もひとつおまけにリバースも、お母様のあまりの剣幕のすごさに目を丸くしてるだけで、しばらく役に立ちそうにはなかった。

「っきぃぃぃぃぃ!

 浮気ね!?どこか余所に女を作ってたのね!?」

 まあ、お父様は決して潔癖じゃない。ほんと、たまーーにだけど、浮気もすることがある――とお母様が言っていた。ほんとかどうかは知らないけれど、時々それでものすごい夫婦喧嘩――というか、お母様による一方的なお父様への折檻が始まることもあった。

 今も、どこからか取り出した巨大なハリセンを左手に、革の鞭を右手に持ち……ああ、フィリーの教育上良くないから、さっさと避難しないと。

 フィリーは玄関ホールの二階への階段を上がったところにいた。お母様の叫び声を聞いて慌てて飛び出してきたんだろう。その横にはフィリー付きのメイドのグレイスがあたふたしていた。

「セシル、ついておいで」

 例に漏れず、お母様に折檻されようとしているお父様の様子を、目をまん丸にして見つめていたセシルを呼び寄せ、一緒に二階へと上がる。

「あ、お兄様……?」

 僕を見つけたフィリーは、多分、一階で起きてる惨劇に事について訊きたかったんだと思うけど、僕の後ろに付いてきていたセシルを一目見て、軽く言葉を失った。

 その隣では、グレイスも目を皿のように見開いて、フィリーとセシルを交互に見比べている。

「フィリー、こちらはセシル。今日からフィリー付きの使用人に加わるんだよ」

 そして、セシルにもフィリーを紹介しようと後ろを向くと、セシルもフィリーの顔をまじまじと凝視していた。まあ、話は聞いていても驚いたんだろう。

「セシル。こちらがフィリー。僕の妹だよ。君にはグレイスと一緒に、フィリーの身の回りの世話をして貰うことになる」

 二人に互いを紹介し終えたあたりで、やっと3人が動き出した。

「お兄様、それはいいんですけど、セシルさん、というの?いったいどこから連れてきたんですか?」

 そう詰め寄ってきたフィリーの後ろでは、グレイスが目をきらきら輝かせながら、好奇心一杯にこちらを見ている。

「僕じゃないよ。お父様の部下のリバースという人が連れてきたんだ」

「リバース?どなたですか?」

「ほら、あの人だよ」

 玄関ホールでお母様に折檻され始めているお父様の周りをあたふたしているリバースを指し、「あ、まずいもの見せちゃたかな」と僕が思う間もなく、

「確かにリバース様がおられますね。ささ、お嬢様、ここは冷えますのでお部屋の方に戻りましょう。リスステル様とセシルさんもどうぞこちらに」

 玄関ホールの様子を一瞬早く見て取ったグレイスが、フィリーの身体をくるっと180度回転させ、部屋の方へと押していってくれた。

 ほんと、見事な手際だ。

 とりあえず、僕もセシルを連れて、フィリーの自室へと向かった。



「つまり、皇国の兵に両親を殺されたセシルさんをリバースさんが連れて帰ってきて、それをお父様がお引き取りになられたんですね?」

 グレイスにセシルの世話を頼んだ後、僕の説明を聞いたフィリーが小声でそうまとめた。その視線は僕の方じゃなくて、グレイスに連れられてセシルが消えていった扉を指していた。

 ちなみに、何日もお風呂に入ってなかったセシルはかなり汚かったみたいで、僕に世話を任されたグレイスに、使用人用のお風呂に連行されていった。しばらくは戻って来れないと思う。


「それで、わたしに似てるからわたしの側に置くって……単純すぎませんか?」

 気のせいか、微妙にフィリーの機嫌が悪い。

 とりあえず、言い訳を……

「でも、お父様やお母様の側に置くのはイヤだよね?」

 これは僕も、お父様やお母様をとられた気持ちになりそうでイヤだったし、フィリーもそれは同じだったみたいで、

「……イヤです」

 と素直に頷いてくれた。

「僕の側に置くのは、なんかフィリーに世話して貰ってるみたいで落ち着かないし……」

「…………たし……ます」

「え?何?聞こえなかった」

 何かフィリーが言ったような気がしたから、何を言ったのか訊いてみたら、

「それは問題ですねって言ったんです!」

 と顔を真っ赤にして怒られた。

 さっきは違うことを言ってた気がするんだけど、そこには触れない方がいい気がしたので、話を続ける。

「だから、ほら、やっぱりフィリーの側に置くしかないとおもうんだ」

 これで納得して貰えるかなと思ったのだけど……なんか、さっきより機嫌が悪くなってる気がしないでもない。

「フィリー?」

 顔色を伺おうとすると、

「分かりました。仕方ないから、それでいーです!」

 と怒鳴られた。


 それからフィリーのご機嫌を取って、何とか良くなってきた頃。


「お嬢様、失礼します。グレイスです」

 グレイスが戻ってきた。

 フィリーの許可を貰って入ってきたグレイスの後ろには、スカート姿になった……セシルだよね?

「さ、セシルも恥ずかしがらずに、リスステル様とフィリー様に見て頂きなさい」

 そうグレイスに前に押し出されてきたのは、確かにセシルだった。

 まぁ、フィリーが横にいるからセシルだと分かるだけで、何も知らなかったら、使用人の子供の服を着たフィリーと間違うかも知れない。

 きれいになったセシルは思っていた以上にフィリーによく似ていた。

「やっぱり、驚かれました?

 使用人のみんなもすっごく騒いでましたもの」

 それはそうだと思う。

 フィリーはしばらく驚きで固まっていたみたいだけど、何とか立ち直るとセシルの所まですたすたと歩いて行った。

 そして、慌ててグレイスの後ろに隠れようとしたセシルの右手を捕まえて、

「あなた、気に入ったわ!ずっと私の側にいなさい!これは命令です!」

 ……エセ双子の誕生かも知れなかった。



 一応その後どうなったかというと、お父様を思う存分にいたぶり、しばき倒し、痛めつけ、トドメに庭の池に放り込んだお母様がフィリーの部屋に駆け込んできて、

「今日からあなたも私の娘です。だから、私のことはお母様とお呼びなさい。いいわね?」

 と言ったらしい。


 こうして、僕の妹が一人増えたのだった。

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