表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドットムートの騎士  作者: sularis
国王時代
30/30

終演

 グランス皇国――今はもうグランス直轄領だが――から帰ってきた俺は、今後についての最低限の指示を宰相に出した後、休息のためだと称してグラスティ公爵邸にやってきていた。

 結局あちらで一晩過ごす羽目になってしまったが、一昨日に引き続き俺が訪れた事で、屋敷はちょっとした騒ぎになっていた。



「グランス皇国を潰してきたからな」

 公爵の執務室で、用意させた軽食をつまみながらマクシミリアンにそう言うと、

「冗談、ですよね?」

 ……まあ、あっさり信用してもらえるとは思っていなかった。

「近日中には正式に発表する。統治のために必要な人員の選抜は宰相に任せてあるし、明日か明後日にはそいつらを派遣する手筈になっている」

 公爵家の領地などの状況報告書に目を通しながら、俺はそう答える。

 さすがにそれで俺の言っている事が冗談ではないと分かったのか、マクシミリアンの顔に驚愕が広がる。

「まさか……いや、しかし……」

 珍しく動揺している彼を、俺は興味深げに観察していた。

 数百年どころか、千年以上も戦い続けていると言われているのである。それが突如終わったと言われて、実感を持てる人間などそうはいないだろう。

 どうやら、何をどうやってそうなったのか、非常に興味があるようだが、マクシミリアンは無闇に好奇心を俺にぶつけてこないだけの分別はしっかり持ち合わせている。

 だが、正直その視線は多少は気になるし、何よりこの後に用意する書類を書くところは見られたくはない。

「さて、まとめないといけない書類もあるんだ。しばらくは一人にしてくれないか」

 そう言ってマクシミリアンを部屋から追い出した俺は、書類の作成に没頭した。



 その夜。

 俺は一人寝室にたたずんでいた。

 既にこれから起きる事への、これから俺がなす事への準備は全て整っている。既に部屋の明かりも大半を落とし、部屋は十分薄暗くしてあった。

 言うまでもなく、今夜、俺のところにやってくるであろう女神を迎えるためだ。

 事実、深夜にもまだ早い時間帯に、女神はやってきた。

「私の可愛い陛下……思った以上の成果でしたね」

 そう言いながら、俺の後ろから抱きしめてくる。

「あの憎きレイフェルがまさかこうも簡単に滅んでしまうなんて……」

 俺が何も言わずにワインを傾けていると、俺の頬に顔を寄せ、

「レイフェルも思っていた以上に力を失っていた……そういう事でしょうか」

 俺の反対側の頬を撫でながら、そう言う。

「俺が見たときには既に、相当弱っていたようだったな。本人もそう言っていた」

 そう答えると、

「そう、ですか」

 とだけ女神は答える。その声音はどことなく寂しそうであった。

 やはり、人には知れぬ永き時を生き続ける神といえど、そして相手と敵対していたといえど、何か思うところはあるのかも知れない。

 まあ、女神の心中など知る必要もない、か。

 俺はグラスに残っていたワインを一気に空けると、椅子からゆっくりと立ち上がった。俺に抱きついていた女神を引きはがすと、そのままベッドへと押し倒す。

「……ムードというものもたまには気にしてもらえませんか?」

 そうは言いつつも、女神は特に抵抗する素振りもない。

 俺はその身体を包む衣装を引きはがしながら、乱暴とも言える強さで愛撫する。

 それに反応して、喘ぎ、身体をよじらせる女神。

 だが、俺はいつも以上にそれに流されることなく、今の状況の把握に努める。

 ベッドの上の女神の位置。

 女神の乱れ具合。

 ……後は脇に隠したこれが全てか。

 女神は気づいていないのか、どうでもいいのか知らないが、それが全ての終わり。

 俺はタイミングを見計らい、脇に隠していたそれを取り出すと、女神が反応する前に女神の上で仰向けになり、それを、短剣ほどの大きさになってしまっていた聖剣ドットムートを、両手でしっかり持って自分の心臓に突き立てた。

「がふっ!!!」

 短剣の刃はそれでも俺を貫通し、切っ先は女神の肌へと潜り込む。

「な、何を!!?!?」

 そう叫んだ女神の声は、既に俺には届いていなかった。

 急激に吸い取られる自分自身の命。

 それを感じた俺は、最後の罪悪感よりも、これで全てが終わったのだという安堵しか感じていなかったかも知れない。

 そして、俺の意識はそこで途絶えた。



「う、あああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 自らの心臓に聖剣を突き立てたリスステルの身体が、聖剣に喰われ、消滅する。

 しかし、それでも女神セラスティアは自由になる事は許されなかった。

 本来先端しか女神の身体に食い込んでいなかったはずの聖剣は、リスステルという生け贄を喰らって普通の剣のサイズに刃が伸びた事で、今では女神の身体をベッドに固定してしまっていた。

 いや、それだけならまだ、女神は動けたかも知れない。

 何故なら、神を殺すためには聖剣といえどもドットムートの一族一人分の命という生け贄では力が足りない。

 だから、リスステルの命を吸っただけの聖剣ならば、身体を貫かれていても何とかなるはず、だった。

 だが、現実には聖剣から流れ込んでくる、神をも殺そうとする莫大な力は、決して生け贄一人分などではなかった。

 女神が縫い付けられたベッドには、いつの間にか小さなくぼみが出来ていた。もっとも、女神の身体の下にできていたので、その上にいる女神にしかそんな事は分からなかった。

 だから、ベッドの下に隠されていた、寝かされていた一人の赤ん坊が、伸びてきた聖剣の刃に貫かれ、人知れずその姿を失った事など、誰一人として知らなかった。

ここまで読んでくれた方がどれくらいいるのか知りませんが、これにて終幕です。


思っていたより、あれこれ無理したせいか、残念ながらあまりうまく書けませんでした。






以下、筆者の一人反省会です。


昼寝の時に見た夢をベースに、その感触を忘れないうちにと書き始めてみたんですが、悪い意味での問題作でした。

原因は大きく分けて3つ。


1つは、感触を忘れないうちにとプロットを十分にまとめずに書き始めた事。書ききれないとしても十分な背景をきっちり固めてなかったのは問題でした。


1つは、いつもと違う文章の書き方を試そうとしながらも、結局そうはならなかったために中途半端な文章が出来てしまった事。どんなに長くなってもいいから、徹底的に書くくらいの方が良かったのかも知れません。


1つは、最初に構成したプロットに固執するあまり、話に柔軟性が無くなったこと。このために、矛盾点が出てきても無理矢理押し通す形になってしまいました。



このような拙い話を読んでくれた方に、改めてお礼申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ