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ドットムートの騎士  作者: sularis
青年時代
17/30

青年時代7

 カリオス公国首都、ローレル。

 近隣地域最大の都市であり、人口は優に30万を超えると言われる。中立国という立場故の貿易の一大中継地であり、文明の交差路であり、全ての最新技術が集う場所でもある。

 その巨大都市に到着したのは、セレメンティーを出てから8日目の事だった。


 ローレルに滞在している間、宿泊することになるセレメンティーの駐カリオス公館。俺たちが滞在している間、ここにいた大使達には申し訳ないが、彼らにはホテルに移って貰うことになっていた。まあ、平たく言えば、追い出したわけだが。

 その公館の玄関ホール。

「それでは、別荘の件はお任せ下さい」

 セレメンティーとカリオスの国境付近で、別荘として使えそうな建物を確保するように命じられたマクシミリアンは、ここから別行動になる。もっとも、別荘が確保でき次第、合流する予定だが。

「別荘って何に使うんですか?」

 従者達が馬車からせっせせっせと荷物を運び出して、俺やセシルが使う予定の部屋にその荷物を運び込んでいる。それを横目に、マクシミリアンに俺が出した指示を聞きつけ、セシルが訊いてきた。

「別荘は別荘だ。俺はあまり使わないかも知れないがな。ただ、セレメンティーではゆっくり出来ないときに使うつもりだ」

 嘘と本当のことを半分くらいずつ織り交ぜて答える。

 ちなみに、あれから毎晩のようにセシルを抱いているが、何故か俺に対する態度は変わらない。逆に、前よりも微妙に懐かれている気がする。


 かなり酷いことをしているはずなので、その逆になることを覚悟していたのだが……実の妹ながら、何を考えているのかよく分からない。

 ただ、その心の内まで考え出すと、いろいろきついことになりそうなので、今後のこともあるし、出来る限り知らない振りを決め込むことにした。

 まあ、人間として最低な気はするが、もうこれ以上堕ちようが……あるかも知れないな。


「その別荘、私も行けますか?」

 微妙に上目遣いで訊いてくるセシルに、

「もちろんだ」

 これは悩むことなく即答できる。後ろめたいことはたっぷりあるが。

「なら、嬉しいです。いいところが見つかるといいですね」

 草原の花のような笑顔で、楽しみですと付け加えるセシル。

 確かに、いいところが見つかるといいと思う。そのために、他の用事が沢山ありそうなマクシミリアンに無理を言って任せたのだが。

「いいところを見つけてきたら、マクシミリアンには何か褒美を取らせないといけないな」

「是非ともそうして上げて下さいね」

「それはさておき、長旅で疲れただろう。食堂でお茶でも飲まないか?」

 部屋でゆっくり休め……と言いたかったが、まだ馬車から降ろした荷物の運び込みとか開梱、整理が終わっていない。従者達がそれらの作業を終えるまでは、部屋に行っても従者達がばたばたしていて落ち着けないのは目に見えていた。

「殿下が淹れてくれますか?」

「あー、味は保証できないぞ?」

「構いませんよ」

 ……懐かれてるとでも思わないと、怖くてかなわないんだが、懐かれていても正直ちょっと困る。今夜から、少しいじめ気味に攻めてみるか?


 それはさておき。

 あまり上手とは言えない手並みながらも、何とか二人分のお茶を入れ、食堂でまったりとくつろぐ。

「フィリーはどうしてるんでしょうね?」

「王宮で俺たちと似たようなことしてるんじゃないか?こっちの貴族連中に捕まってなければな」


 グラカード王子は当然として、フィリーも婚約者――それも今更破棄はあり得ないものとして、こちらの公邸ではなく、ローレルに到着するとまっすぐに王宮へと荷物ごと傾れ込んでいった。

 無論、グラカード王子の強い要望もあったのは間違いないが、おかげでフィリーはこっちにはいない。王宮では貴族連中の挨拶責めにあったりして、当分、俺たちとは顔を合わせないかも知れないな。


「なんか、大変そう……ですね」

 貴族連中に捕まったフィリーを想像したのか、乾いた笑いを浮かべるセシル。

「まあ、実際にはグラカード王子がかばうだろう。警備の問題もあるから、無闇と人を近づけないかも知れないな」

「警備ですか?」

「この国は周辺各国と交流があるからな。当然、グランス皇国出身の連中もいるわけだ」

「それってつまり……」

 あまりよろしくない想像をしたのか、不安げになるセシル。

「フィリーの命を狙う連中が出るかも知れないって事だが……一応、カリオス国内では他国人同士の争いは禁じられているし、何かしでかしたら出身国も含めた厳しい制裁処置が発動される。監視なども付くことがあるしな。大丈夫だろう」

 実際には、俺たちに出来ることは何もない――というのが正しいところだが、曲がりなりにも次期王妃だ。カリオス公国がしっかり守ってくれるだろう。

 そんな他力本願な俺の心中など、セシルは気づいた様子もない。

 安心したように息をつくと、

「そう言えば、町の様子とか身に出られるんでしょうか?」

 と、今度はそわそわし始めた。

 ……確かに、隣国とはいえ他の国に来る機会などそうそうあるものではない。まして、貴族やそれに連なる者となると、戦争の準備だの暗殺対策だので、言わずもがなである。

 なので、セシルの気持ちも分かるのだが……警備の問題もある。気軽に抜け出せるようなものではない。

「公国の連中に少し確認してみないと何とも言えないな。時期が時期だけに、殺気立ってる連中もいるだろうしな」

 俺の何とも言えない返答に、セシルが明らかに落ち込んだ。

 まあ、一度か二度くらいは何とかなると思うのだが、ぬか喜びさせても悪いし、目処が立ってから教えるか。

 俺としても公邸に引きこもるにしろ、王宮で貴族相手にするにしろ、どこかで気分転換が必要だ。セシルと一緒に町中をふらふらするのも悪くはない。

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