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ドットムートの騎士  作者: sularis
青年時代
13/30

青年時代3

「…………!!?」

 目が覚めて真っ先に視界に飛び込んできたのは、見慣れた自分の寝室の天井だった。

 既に外は暗い。窓から入る月の光から判断して、時刻は深夜付近だろう。

「夢か?」

 意識が無くなる前の最後の記憶を思い出し、そう自問する。

 図書館の一画での影との遭遇……

 あまりにも現実感が薄い。

 ただ、一方で、自分で寝室に入り、ベッドで横になった記憶がないのも事実だ。つまり、ベッドに入る前に、非日常的なことが起きたのは間違いない。

 そして、その証拠はすぐに見つかった。

「これは……」

 ベッドの横の小さな台の上に置かれている一枚のメモ。

 そこには、こう書かれていた。

『夢ではない

 全ては図書館で実際に起きたことだ

 そして質問の答えは既に君の頭の中にある

 くれぐれも、女神には悟られないようにしたまえ』

 メモに書かれていた文字は俺の字ではない。いや、屋敷でこんな歪んだ字を書く人間を俺は知らない。

 ならば、これはあの影が残したメモなのか?

 いや、断定するのは早い。

 だが、何者かが俺に接触してきたのは事実だろう。それが図書館だったかどうかは別としても。

 図書館でのことが実際に起きた出来事だったのかどうかを考えてみるが、自分の記憶に自信が持てない上に、証拠が紙切れ一枚では話にならない。

 では、メモの他の内容はどうか?

 質問の答えが既に俺の頭の中にあると書かれているが……質問?

 すなわち、ドットムートの聖剣は誰が作ったのか。

 そう頭の中に疑問を浮かべた瞬間、

『女神セラスティア』

 すっと答えが頭の中に浮かんできた。

 一瞬、何が起きたのか把握できずに少し取り乱したが……幸い、屋敷の者達に気づかれるほどではなかった。

「どういうことだ?」

 ドットムートの聖剣を作ったのが何者か、その疑問を頭に浮かべた瞬間、女神の名前が頭の中に浮かんできた。

 これが、既に答えが頭の中にあるということなのだろうか?

 他の質問でも試してみる必要がある。

 次は……何故、ドットムートの聖剣が作られたのか?

『他の神々を殺すため』

 再び、意図しない言葉が脳裏に浮かんでくる。

 では、我が叔父を唆したのは何者か?

『女神レイフェル』

 それは何者だ?どこにいる?

『それは女神。セラスティアの敵。グランス帝国の守護神。今はグランス帝国の首都にいる』

 ……初めて聞く名前と今まで知らなかった情報。

 これで、俺自身が勝手に質問の答えを作っている可能性は極めて低くなった。ならば……

 ドットムートの聖剣を作ったのは女神セラスティアということだ!

 その瞬間、頭のどこかで何かが壊れる鈍い音がした。

 その何かを壊した憎悪が一層激しく燃え上がろうとするのを抑えながら、念のため、確認する。まだ、思考を、理性を手放すのは早すぎる。

 ドットムートの一族を作ったのは?

『女神セラスティア』

 叔父は何故父を殺した?母を殺した?

『先代グラスティ公爵は聖剣の試し切りで殺された。その妻はドットムートの一族。聖剣に力を与えるための生贄として殺された』

 何故、女神セラスティアは止めなかった?

『元々セラスティアはカルデラを聖剣の生贄とするつもりで、ブルードにそう命じていた。先代のグラスティ公爵の生死には全く関心がなく、むしろお前の憎悪を煽るために助けなかった』

 ……そうか。あの女も一枚噛んでいたということか。

 憎悪を煽る?

 ああ、確かに煽られたさ。未だに憎しみを抱えたままであるほどにな。そして、両親を殺させた、見殺しにした分際で俺のベッドに忍び込んできているその厚顔無恥ぶりは憎んでも憎んでも憎み足りないほどだ!

 なら、女神セラスティア。お前も俺の復讐の対象だ。


 だが、質問はまだ尽きない。

 俺の復讐相手は何者だ!?

『…………』

 これには答えは得られなかった。

 意外に役に立たない何かに舌打ちし、壊れたのかと別の質問をぶつけてみる。

 神を殺す方法は?

『ドットムートの聖剣ならば殺せる。ただし、神を一柱滅すためにはドットムートの一族二人分の命が必要だ』

 !!!

 ちょっと待て。待て。

 つまり、復讐を果たすためには、誰かを生贄に捧げなくてはならないということか!?

 それに確かドットムートの一族はもう……

『現在生きているドットムートの一族はリスステルとフィリーの二人だけだ』

 何かが返してきた答えは、いつか女神セラスティアが言っていたことと全く同じだった。

 復讐の対象は二柱。

 つまり、必要な生贄は4人。

 今、聖剣に蓄えられている力は……?

『一人分。カルデラの分のみ』

 つまり、3人分足りない。

 俺の命は別に構わないが、それではセラスティアかレイフェル、いずれかしか殺せない。

 復讐を果たすためには、フィリーと、フィリーか俺の子供達までも生贄として殺さなくてはならない。


 だが……

 この身に滾る憎悪はそれを良しとする。

 残る感情を焼き尽くし、全てを捧げて神を殺せと叫んでいる。

 全てを捧げてこそ、神に届くと。

 その前で、家族への、フィリーに対する思いが必死に抵抗している。

 唯一残された血縁。大事な家族。妹。

 それを殺すというのか?

 出来ない。出来るわけがない。

 人としての思いが、家族への愛情が、必死に憎悪に抗おうとする。

 しかし、憎悪はそんな抵抗を嘲笑うかのように燃え上がり、憎しみ以外の全ての感情を焼き尽くそうと暴れ回る。

 ああ、苦しい。あまりにも苦しい。

 相反する二つの感情の争いは、延々と続き……

 そして、勝ったのは、


 いや、出来る。嬉々として殺せる。

 そうだ、生贄を揃えろ!

 そして神もろとも全て殺せ!!


 憎悪だった。

2011/9/26 一部表現を修正。

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