第11話 無理しないで
大きなベッドに小人の彼が眠るのはどう見ても不釣合いだ。
昨夜、あたしは彼を抱きかかえて泣き叫んだ。
マーロンは死んだ。もう2度と話すことも笑うこともできない、そう思った。
しかし、息をしていることに気がついた。
真っ青な顔。すでに衰弱しきった体。それでも確かに呼吸をしていた。
アイリスに連れられ、医者に見てもらった。衰弱しきっているが、心臓は規則的に動き、血液も全身に流れ、特に異常はないと言われた。しかし、
「これから何が起こるか予測がつきません。できるだけ、離れないように」
不安は募る一方だった。
もしかしたら回復するかもしれない。もしかしたらこのまま目を覚まさずに…死んでしまうかもしれない。
☆ ☆ ☆
すっかり明るくなった昼下がり。
今日はストポの撮影を休み、何度も何度も昔の思い出を繰り返している。
「早く起きなさいよ?」
度々マーロンに話しかけ、ずっと傍にいる。
マーロンといたのは昨日の事なのに、何年も前のことのよう。
穏やかな表情で眠るマーロン。もう死んでしまったのではないかと、何度も涙を堪えた。
でも、ちゃんと空気を吸っている。心臓を鳴らしている。肺から全身に酸素を、心臓から全身に血液を循環させ、懸命に生きている。
マーロンも水の王国であたしが倒れたとき、こんなに苦しい思いをしていたのかな?
☆ ☆ ☆
午後3時を告げる鐘が鳴る。マーロンを見つめながら、そっと口ずさむ。
『きれいな声ね』
「クレマチス…どうしたの?」
開けっ放しのドアからクレマチスが入ってきた。ふわふわの体があたしの膝にのる。
『マーロンの様子は…?』
「ずっとこのまま…」
あたしはじっとマーロンを見つめる。
「ねぇ、クレマチス。マーロンは目を覚ますの?起きて、もう1度笑ってくれる?」
『もう…そんなに弱気なら、マーロンだって起きないわよ?
あなたが信じて待ってくれるから、マーロンは頑張るものよ』
「…そうだよね。マーロンは絶対に起きてくれる」
しっぽをパタン、パタンと振るクレマチス。なぜか、安心感を抱かせてくれた。
一時、黙ってマーロンを見守る。日差しが部屋の中に差し込み、暖かな空間を生み出す。
小鳥のさえずりも微かに聞こえる。時が止まっているようにも感じる。
『マレーヌ、気分転換に外の空気でも吸ってきたらどう?』
静かな沈黙を破り、クレマチスがすすめる。
でも、そんな気分ではなく、マーロンを1人きりにしたくないと言ったら、
『私が付き添っておくから…。ずっと座ってて疲れたでしょ?無理しちゃだめよ。少しゆっくりしてきなさい、ね?』
すごく迷ったが、クレマチスの言うとおりにした。
1人で色々と考えたかったし、マーロンと少し離れて気を落ち着かせないと…。
☆ ☆ ☆
城の中を当てもなく彷徨い、結局外に出てきた。
アイリスはストポの撮影で城にいない。双子や3つ子ちゃんたちにも出会わなかった。
城の敷地内をため息混じりでぐるりとまわる。
顔を上げると、ロイヤルガーデンの手前まで来ていた。昨日この辺りでモダンと遭って、マーロンはあんな目に…。
「…何してるの?」
後ろから声がした。振り返ると、バジル君がじょうろを片手に持ちこちらに歩み出てきた。
「あ、うん、何かしてるわけじゃないけど…」
「ふーん」
意外にもあっけない返事で、とりあえず頷いておいた。
バジル君たちもマーロンが倒れたことは知っている。5人とも心配してくれてたし、さすがに深く聞いてくることはなかった。
「…これから水遣りに行くんだけど…」
バジル君が気まずそうに切り出してきた。一度あたしを見て、じょうろに視線を落とす。
「え~っと、一緒に行ってもいいのかな…?」
バジル君の様子からしてそんな感じだったので一応尋ねた。
思ったとおり、バジル君はぎこちなく頷いて、スタスタと歩き出した。
「これ全部自分で育てたの?!すごいね~」
「うん、まぁ…」
うぅ、会話が続かない。
重い空気が続いたので話しかけてみた。けれど、いつも無口なバジル君だから簡単に続くわけもなかった。
水やりをするバジル君の後をそのまま黙ってついて行く。
花も当然あるけど、薬草がたくさんある。微かな香りに安心している自分がいた。
何も話さずに誰かといるのも、いいものだなと思ったその時、
「ローズさんのことは知ってますか…?」
とバジル君が水を汲みながら尋ねてきた。
広いロイヤルガーデンには一定の距離に水汲み場があり、今のところで3つ目くらい。
ずっと黙って水遣りをしてきた今、なぜこのような質問をしたのだろう。
「う、うん。バ、バジル君は知ってるの?」
質問したのだから当然知っているだろうけど…。
「アイリス姉さんの姉」
何の抵抗も感じず、さらりと答えるバジル君。
「…僕は知ってるんだ。アイリス姉さんとローズさんは、僕たちとは別の母さんから産まれたってこと」
「! 」
「他のみんなは知らない。僕だけに母さんが言った」
淡々と、どことなく寂しそうに語る。そして、
「僕は深い事情を知りたいとは思わない。
でも、その話を聞いてからアイリス姉の様子を時々、気をつけて見てた。
アイリス姉はいつも明るくて、僕も含めてきょうだいみんな大好きなんだ…」
じょうろに水が溜まり、バジル君が蛇口をひねり、水を止めた。
「だけど時々、ふと、どこか遠くを…悲しそうに見つめる。きっとローズさんのことを思ってるんだなって。ほかに思うことはあるだろうけど…。
無理してるんだ、アイリス姉は。僕らに心配させたらいけないって。お姉さんがいなくなって、人に甘えちゃいけないって」
あまりにもまっすぐ目を見て話すものだから、あたしも視線を外すことができなかった。
「大切な人に心配かけたくない気持ちは分かる。僕だってそうだから。
だからこそ、甘えてほしい。こんな僕らだけど頼って欲しいんだ。まぁ、これはディルの受け売りでもあるけど…」
と続けて、近くの植物に水をあげた。
「ふぅん。ディルになんて言われたの?」
少しからかってみた。バジル君が水遣りを続けたまま、
「溜め込まないで、自分に話せ。頼ってくれていいんだぞって…」
ぶっきらぼうに答えた。
「ディルはバジル君のことが大好きなんだね、きっと」
「…」
あたしの言葉に、頬を染めて、顔をちょっぴり傾けた。
しばしの沈黙。
そして、水遣りの手を止めたバジル君があたしの方に向き直る。
「マレーヌさんもだよ。無理しないで。もっとみんなを頼るべき」
その瞳はなんの迷いもなく、ただ一点を見ている。
ふいに涙がこぼれそうになった。でもこれは、バジル君のアイリスや家族への想い、あたしへの気遣いを知ってからで…。そっとお礼を言う。
「ありがとうね」
「…別に。笑ったほうがいいから」
無表情のままぶっきらぼうに呟いた。
笑ったほうがいいと言うバジル君。だけど…。
「ふふふ」
「…な!?」
くすくすと笑い出したあたしに、バジル君が慌てた様子を見せる。
「吹き出すとこじゃないんだけど…」
「ごめんね。だってバジル君は笑ってなかったんだもん!!」
目じりの涙をすくって答えた。こんなにあたふたするバジル君を見られるなんて、なかなかない。
「本当にありがとね、バジル君。ちょっと元気出たかも」
微笑んでみせると、安心したのかいつもの無表情に戻った。
「…マレーヌさんが笑ってくれると僕も、みんなも嬉しいからさ…」
「ん?何か言った??」
何かを呟いたようだが聞こえなかった。
「…アイリス姉が話したいことがあるから、外で待っててだって」
と言い残すと急ぎ足でロイヤルガーデンから出て行った。
教えてくれてもよかったのに…。
ちょっぴり気になったけど、元気をもらえたんだし感謝だよね。
少し訳あって、急いで更新します
今年から受験生になり、真面目に更新率が今まで以上に下がると思います(´Д⊂
しかし、高校なったら、文芸部入るつもりなのでたっぷり更新する予定ですw
だから、それまではゆっくりめというか、かなり遅いですがよろしくお願いします(;゜Д゜)!
愛しのマーロンが意識のない今、作者の私はかなり辛いっすw
マレーヌも相当、言い表せないくらいの辛さや悲しさをしょっています。
でも、抱え込んじゃダメだよって。
バジル君が教えてくれたのです
いいキャラしてません?←
はい、すみません。あまりここで語るのもいけませぬな(´Д⊂
最後まで読んでいただきありがとうございましたペコ
指摘や感想、随時おまちしております|д゜)
次回もよろしくお願いしますペコリ
ちなみに次回は私の誕生日に更新です!!w
これが急いだ理由なん((ry