第10話 笑えないよ
いつでもあたし笑ってた。
彼と二人で笑っていた。
「あなたは誰?」
「オイラは、マーロン・D・ムーケマロ。
これから、マリアンヌ姫のお供になりますマロ!」
「そっかぁ!マーロン、よろしくね。あたしのことはマレーヌって呼んで!!」
「マレーヌ、オイラは君のお供になることができて嬉しいマロ!よろしくマロ!!」
初めて出会ったときの会話。
5歳のあたしにお供がつくことになった。
あの日はお互い緊張しながらも笑顔だったね。
もうあの笑顔を見ることはできないの?
「あたしピアノやりたくない!!」
「がんばるマロよ~、マレーヌ」
「だって、お母様や先生みたいに上手に弾けないもん!」
「う~ん、じゃあお歌を歌うのはどうマロ?」
「お歌??」
「そうマロ。大きな声で思い切り歌ってみるマロ!」
お姫様なら少なくとも1つは楽器を扱えないといけない。風の王国ではピアノを弾けて当然だった。でもあたしは、7歳で自分にピアノは向いていないと悟った。
そこで、マーロンに”歌うこと”を進められた。
これこそ、あたしが魔歌を歌うきっかけにだった。
あの日のようにマーロンと一緒に歌いたいな…。
「ひっく、ひっく…」
「マレーヌ…?どうした…マロ?」
「あたし…みんなから嫌われてるんだ…」
「そんな事…ないマロ。泣かないで…?」
「でもぉ…。もう嫌だよぉ」
「こっちに来てマロ。髪の毛がぐしゃぐしゃマロ」
「…ほぉらできた。可愛いマロね、笑ってマロ…?」
「えぇ…!?こんな頭の上で縛るの?」
「マロ? マレーヌのツインテールが…ここにあるのは、元気の証。
いつだって元気でいつでも笑顔でいるって意味マロ」
そう励まして、あたしを笑顔にしてくれた。高熱で体はフラフラだったのにね。
マーロンがこう言ってくれてから、あたしは笑顔でいられるように、いつもツインテールなんだから。
でも今は、マーロンが笑ってくれないとあたしも笑顔になれないよ…。