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第7話 アイリスの胸の内


今年も今日で終わりですね〜




今年の夏、小説家になろうで小説を書きはじめました。


来年はもっと更新して、

たくさんの人に読んでもらえるように頑張ります<(__)>




ではごゆっくり♪


「アイリス~、マレーヌだよ~?」

 軽くノックすると、すぐにドアが開いた。目の前にはいるはずのアイリスの姿はなかった。


 代わりに、ふわふわした毛が素足に当たる。くすぐったくて、足元を見ると、丸々した純白のペルシャ猫が体をすり寄せていた。大きく見開いた瞳であたしを見上げる。


『抱っこして?』


 そう言っているような気がして、そっとお腹から抱き上げた。喉をかいてあげると、気持ちよさそうに目を細めた。

 ふわふわの猫をマーロンに見せて、微笑んでみせた。マーロンも優しく微笑み返してくれた。


 話しかけようとして口を開きかけたとき、視線を感じた。猫もこちらをじっと見ているけれど、

「アイリス!」

 正面のカーテンからその少女は出てきた。猫と同じブルーアイはこちらを楽しそうに眺めていて…。

「2人で来てくれたの?ありがとっ☆」

 わざと”2人”を強調するアイリス。あたしの反応を見て楽しんでる。

 しかし、マーロンに悟られてもやばい。さすがにアイリスも分かってくれたみたいで、いつものようにベッドに腰掛けた。あたしもその隣に、猫を抱いたまま腰掛ける。

「この猫って…?」

 あたしは猫を膝に乗せて、アイリスに尋ねた。マーロンはあたしの横にちょこんと座り、猫の顔を不思議そうに覗き込んでいる。アイリスはそのふわふわの体を撫でながら、

「クレマチスって言うの。アタシのお供…的な☆」

 と答えてくれた。クレマチスと言う名前に、あたしとマーロンははっとした。

「「クレマチスって子のこのことだった(マロ)!?」」

 見事にはもった。

 マーロンと一瞬目が合い、パッと視線を逸らす。そして、あたしは見えないところで顔を赤くする。マーロンははもることなんて、慣れているから大した反応も見せず…。アイリスは吹き出していた。

「うふふ、そうよ。今日まで、妖精界に旅行に行ってたの」


 お供は大体、妖精界の妖精。マーロンもこのクレマチスも、サラサのお供・コテツ君もみんな妖精なのだ。マーロンも時々、妖精界に戻ることがある。


「へ、へぇ~。ディルたちが言ってたな~。よろしくね、クレマチス」

「…」

 笑顔で挨拶したのに、クレマチスはこちらに顔を向けたまま、何も言ってくれない。

 さっきマーロンとはもったことだけで恥ずかしかったのに、無視されたことにより一層恥ずかしくなった。

「…マレーヌ、無視されたマロ?」

 マーロン、突っ込むなー!言い返せないから…。

「違うわぁ、クレマチスは声が出せないの。頭と心で話すの」

 アイリスが笑いを堪えながら、訂正した。そして、目を閉じる。

「マレーヌとマーロンも目を閉じて、クレマチスに心で話しかけて…」

 言われたとおりに、目を閉じて心で話しかけてみる…。


『クレマチス、マレーヌだよ。よろしくね』

『こちらこそ♪マレーヌ姫』


 頭の中で声がする。目を開けると、あたしの顔を見つめしっぽをゆっくり振るクレマチスの姿。

「話せたぁ!」

 アイリスのほうを振り返る。にっこり笑っている。マーロンも話せたみたいで、口を開けて驚いている。

「ふふ、良かった」

 うれしそうに呟いたアイリスは、クレマチスを抱き上げて、細い指先で白い毛を優しく撫でる。

「あ、明日も撮影だよね…?」

 今日のことは吹っ切れたような気がしたから、そっと聞いてみた。

「えぇ、そうよ。多分、後3日くらいかな」

 クレマチスに視線を落としたまま、声のトーンを落として答えるアイリス。


 やっぱりまだ、傷ついたままだったのかも。聞いた後に後悔した。

 きっとロリコンと言われたこと、撮影が終わった後にモミに言われたことをまだ気にしているんだ。


「ねぇ、アイリスあたしに全部話して!?」

 いきなり大声を出す。あたし以外の人たちはみんな驚いたようだ。

「今日モミたちに言われたこと、気にしてるんでしょ?」

 今度はさっきより落ち着いて言った。アイリスは苦笑いをして、

「…ちょっとね」

 続けてポツポツと胸の内を語り始めた。


「別にあの5人のことは大好きだから、ロリコンだって言われても別に構わないの。

 だけど、服のことについては一理あるかなって。

 アタシがロリータ系の服しか着ないことに、編集長たちが困ってるのは知ってたの。それで変わらないとなって思ってたはいたのよ?だけどずっとロリータとかゴスロリでいくって押し通してきたから、今更他の服着るのはわがままでしょ…」

 難しい顔をするアイリス。


 アイリスはあたしがストポを読んでいる頃からずっとロリータ系を担当していた。それがアイリスだし、人気の秘訣でもあるから、別にいいと思う。

 でも、時々ロリータ以外の服も着て欲しいなって思うこともあった。この願いはあたしだけでなく、他のファンや読者、編集者たちも望んでいることだと思う。


 アイリスの話を聞いていると、別にロリータ以外の服を着ても構わないみたい。むしろ、ジャンルにとらわ

れずいろいろな服を着てみたいっていう風にも聞こえた。


「じゃあ、明日の服はロリータじゃない…」

「でもアタシ、10歳からモデルをはじめて、一度編集者ともめたことがあったの」

 あたしを遮った衝撃の告白。編集者とアイリスがもめた!?

「もめた人はもう辞めちゃったけど、その時アタシ、みんなの前で宣言したの、『アタシはロリータ以外絶対に着ない』って。

 他のモデルや編集者、みんなの前で宣言しちゃったのよ?あの時は本気で言ってたけど、今じゃアタシの邪魔をしてる…。編集者達の迷惑になってるし、ファンの要望にも答えてあげられない」


 アイリスはもめたことによって、ロリータしか着なくなった。でも今は、編集者の人のため、ファンのため、自分のために、ロリータ系の服しか着ない自分から卒業したいと強く、強く思っている。



「別に前言撤回でいいじゃない!!」

 落ち込むアイリスに対し、あたしは明るく声を掛けた。

「だって、アイリスは今、新しい自分になろうとしてるんでしょ。そうやって割り切ればいいんだよ!!」

「…みんな認めてくれるかな?軽くない…?」

 不安げにあたし顔をまじまじ見る。


 周りの目が怖いんだ。自分がどう見られ、どう感じ取られ、何を言われるのか、奥深くまで考えている。

 なんだか、あたしと同じだ。それでも、


「軽くなんかないよ。だって、アイリスはこんなにもちゃんと考えてるじゃない。自分のためだけじゃない。他の人の期待に答えてあげたい、そんな気持ちで自分を変えようとしてるんでしょ?

 それってすごく素敵なことだよ!」


 もしかしたら、自分がもっと傷つきたくないからロリータ以外の服を着るっていう自己防衛かもしれない。


 でもそれは違うと思う。アイリスは自分を守るためじゃなくてみんなのために、考えて、迷って、悩んでいるんだ。


『マレーヌの言うとおりだわ』

 頭の中で響くクレマチスの声。あたしたち3人に話しかけているようだ。

『あなたは周りの目を気にしすぎだわ。もっと自分をさらけだしなさいよ。

 マレーヌが言ったようにそれが人のためなら、もっと素敵だと私も思うわ』

 クレマチスがアイリスに語りかける。お供という目線で、マーロンがあたしを見てきたように、アイリスをずっと見てきたんだなって、あたしたちが思っている以上に、主人のことを見てくれているんだなって、しみじみ感じた。


『自分を出すのよ。素直な自分をね…』


 ”素直な自分”


 この言葉、あたしに言ったわけじゃないのに、心に深く痛感した。アイリスは唇を噛み締め、優しい表情をした。マーロンも唇を噛み締め、天井を見つめている。


「…アタシ変わりたい。素直な自分になるわ」


 その強い声と姿は、今まで見てきた彼女の中で一番輝いていた。


 そして、アイリスのイメチェン大作戦が決行した。


 




                      ☆ ☆ ☆


「ア、アタシいけてる?」

「うん!すっごくいけてる!!自信持って、今のアイリスに怖いものなんてないんだから!!」

「アイリス姫、別人みたいマロ!何でも似合いますマロね~」

『あなたはこれから新しい道を切り開いていくのよ!』


 アイリスの不安でいっぱいだった表情は、あたしたちの言葉によって輝きを取り戻す。



 そして、モデルや編集者、スタッフの待つスタジオの扉を開け放った。


「おっはようございまーす☆」


 いつもとかわりのない挨拶。中にいた人たちもいつもどおり挨拶を返す。しかし、目の前のアイリスの姿を見た途端、誰もが息を呑んだ。そこには今まで違うアイリスが立っていたから。


「みんなどうかした?」

 みんなが驚く理由を知っているのに、アイリスはわざととぼけたふりをする。

「素敵ー!アイリス、どうしたの!?」

 1人のモデルが黄色い声を上げて駆け寄ってきた。それにつられて、自分がやっていたことを投げ出して、何人もがアイリスの元へ集まった。

 みんな口々にアイリスに服の変化について質問している。


 今までのアイリスは、

 ロリータ調の白やピンク、ゴスロリ調の黒や紫などを基調とした色使い。

 インナーはブラウスやキャミソールが多く、フリルやレースは必ずついている。

 スカートやワンピースを好み、ズボンは一年に見るか見ないかの割合。

 厚底のブーツやかかとの高いヒールには、リボンやバラ、十字架のモチーフが定番。

 ゆるくパーマをかけて、ふわふわと揺れる金髪。


 そんな、女の子の夢がたっぷり詰め込まれたファッションを身に纏ったアイリス。




 しかし、そのアイリスはここにはいなかった。


「ニットカーデの緑色、アイリスに合ってる!カラフルなワッペンもはえますな~」

「このパーカーって、チェックシャツが重ね着風になってるんだ~!」

「アイリスのズボン姿、久しぶりかも!カーゴパンツ流行りなりそうじゃない!?」

「このスニーカー欲しい!赤と白の派手さが好き!!」

「三つ編みがカジュアルさを外してるってわけね!これありだね~」


 誰もが絶賛する、今までと全く別のアイリスがいたのである。

 スタジオにいた全ての人たちがアイリスの変わりように驚き、そして認めている。


 みんながはしゃいでいる中、唐突に声をあげたのは彼女であった。


「みんな今までわがまま言ってごめんなさい。アタシ、みんなに迷惑かけて…。

 これからどんな服でも着ます!みんなのために、いろんな服を着ます!

 だから…本当にごめんなさい!」

 

 涙声の謝罪の言葉が、スタジオ内に響いた。騒いでいた人たちも一気に静まり返った。

 あたしは少し離れたところで、その様子をお供2人と見守っている。今にも体が前に飛び出しそう。そのまま、震えるアイリスの肩を抱きしめてあげたい。


 アイリスはおそるおそる下げた頭をゆっくりと上げた。

 同時に、声が響いた。

「謝る必要なんてないわ!アイリス、あなた最高よ!!」

 あたしの背後で、ドア枠にもたれかかった編集長だった。

 そして、一歩一歩アイリスに近づいていき、細い体を抱き寄せた。

「これからは”あなた”をもっと解き放って、読者を楽しませましょ!もちろん、ロリータを辞めることないわ。ストポは自分を存分に出すところなんだから」


 その言葉に、アイリスの顔がくしゃくしゃになり、涙が溢れだした。周りの人たちの拍手に包まれながら、アイリスは新たな一歩を踏み出すこととなった。




「ア、アイリス…」


 拍手が止んだ頃、1人の少女がスタジオに入ってきた。とりまきをつれた彼女は、いつもの自信たっぷりの表情ではなかった。

「モミ…!」

 名前を呼ばれたモミは体をびくっと震わせ、この場から出ようとした。

「待って、モミ!アタシね、あなたのおかげで変わることができたの。

 あなたはずっとアタシの目標だった…。だって、美人で大人っぽくてお姉ちゃんに似ているモミに憧れてたの。

 そのモミがアタシを変えるきっかけをつくってくれたの。何回、お礼を言っても足りない。

 ありがとう、モミ」

 アイリスは彼女を呼び止めて、感謝の言葉を伝えた。これには誰もが驚きの表情を隠せなかった。

 考えてみれば、アイリスが自分を変えようと決めたのはモミに言われてからだった。しかも、アイリスの目標がモミだったのは意外だった。

 モミが立ち止まって、気まずそうに顔を俯ける。

「で、でも、私、あなたにいじわるばっかりしてたのよ?」

「そんなことない。アタシは別に気にしないし、嫌味だって…アドバイスだと思って聞いてたんだよ?」

 おどけた調子で返事を返すアイリス。モミが振り返って、

「…アイリス、あなたも私の目標だった。でも、あなたにどんどん人気が出てきて、私怖くなったの。だから、今まであんなことしかできなくて…。

 そんなことしたっていいことなんかないって…分かってたのに、本当にごめんなさい。

 …今更遅いけどこんな私と、と、友達になってくれる?」

 と恥ずかしそうに小さな声で呟く。


 アイリスは駆け出して、モミの両手を優しく包み込む。

「もちろんよ!?アタシうれしいわ!!これからもよろしくね、モミ!!」

「アイリス…。ありがとう…」

 掴まれた手を握り返す、モミもまた泣いていた。


 また静かに拍手が広がり、2人の元へモデル達が集まる。



「あの2人は、お互いを目標にして憧れてたんだね」

『そうね。いがみあってきた間柄だけど、あぁやって自分を咲かしていくものなのよ』

「それならあの2人はとってもきれいな花を咲かしたマロね」

「あたしにも花を咲かせることができる?」

 静かにこんな会話を交わし、聞いてみる。

 アイリスとモミはマーロンの言ったとおり、クレマチスのが言った自分という花を咲かせられたはず。じゃあ、あたしはあたしの花を咲かせられるのかなと、ふと考えた。


『もちろんよ』

「絶対にできるマロ」

 お供2人が口をそろえて断言した。


 つい、うれしくなってはにかみながら、いつもなら雑誌ごしに見るモデル達の笑顔を見つめた。


「ストポは花畑…だね!」


 彼女達の笑顔にそんなことを呟いた。


「マレーヌもこっち来なよ~!」

 モデルの誰かに呼ばれ、あたしも2人の元へ駆け出した。





最後まで読んでいただきありがとうございました。



来年もがんばります!!




皆さんの一年がいいものになりますように…。

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