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第1話 街での出会い


 暖かなぽかぽか陽気の中、街中を歩く。


 ”ざわざわ”


 あの人だかりは一体なんだろう?女の子達がマイコン片手に何かを取り囲んでいる。

 ようやく着いた、花の王国。花の城に向かうため、この街中を通っていた。なんてったて、かわいいお店がいっぱいあって、ついつい立ち寄っちゃうわけで!この1時間で紙袋3つ分は買いましたよ。あてもなく(いや、あるよ!)、街中をふらついていたところ。

 あたしと同い年くらいの女の子達が「かわいいー」とか、「こっち向いて~」とか、キャピキャピした声を上げて、人だかりをつくっていたのだ。

「何あれ?ちょっと気になる~」

「んなっ!?待ってマロ~」

 その場で背伸びしても見えないと分かり、人だかりに近づくあたし。マーロンは散々な目(あたしの買い物)にあって、こりごりした様子。前に進もうとしても、ぎゅうぎゅうに何かを囲んでいて、誰一人として動こうとしない。

 うぅ~、おっ!ここって、噴水の周りではないか!反対側からなら、見られるかも。

 あたしは駆け足で、反対側に。

「ん~、水が流れてて見えない…」

 勢いよく流れ出る水。何があるのか、全く分からない。水がだんだん弱まり、視界が開けてきた。


 カメラで撮る人。メイク道具を持つ人。照明を支える人。ポーズの指導をする人。ポーズをとる、顔もスタイルもばっちり決まっている子。

 そう、これは撮影の様子。いけてる子たちは、見覚えがある。まさかと思った。

ストロベリーPOPストポの撮影現場じゃない!?」

 なんてこったい!!マレーヌ愛読の『ストロベリーPOPストポ』の撮影をやっているではありませんか!!夢見たい…。一度、本物を見たいと思ってたけど、こんな形で見られるなんて。女の子達が騒ぐのは無理もない。

 ストロベリーPOPこと、ストポは全国3人に1人の割合でいまどきの若い女の子達が読んでいる。超人気ファッション雑誌ですから!いまどきの女の子達はファッションやおしゃれに目がない。だから、この雑誌はかわいいモデルを集結させ、おしゃれの情報などを発信し、人気を手にしているのである。

 そして、あたしの後ろのあのワゴンはまさか!?

「あらら~、こんなに人集まっちゃったか~。捕まらないようにね」

「だいじょぶ、だいじょぶ!女の子にそんな力ありません☆」

 あたしが見つめていたワゴンから女の人が2人出てきた。女性スタッフさんとあたしの憧れの人!


 小顔で透き通るような白い肌。程よく化粧もされていて。澄んだ青い瞳はくりっくり。小さく、筋の通った鼻。ぷるぷるの健康的な唇はあひる口でキュート。腰まで伸びる金髪の緩めカール。細いから体に白い総レースのワンピがお似合い。ロリータ系のファッションをあたしたちに流行らせたその子はストポでも1,2を争うほどの人気を誇り、あたしが1番あこがれるモデルさん。


「アイリス!アイリス・P・ポリアンサスさんですよね!?」

 あたしがそう言い、駆け寄る。間近で見る彼女はまるでフランス人形。

「そうだけど?もしかして、アタシのファン!?」

 口に手を当てて、驚きの表情を浮かべる。手もすべすべで、爪は花柄のネイルが施されている。

「そうです!会えて光栄です!いつも応援してます!!」

「えぇ!!ありがとうっ!アタシ、ちょーうれぴ~」

 きゃっきゃっとはしゃぐあたしとアイリス。とここで、スタッフさんが、

「ごめんね。すぐ撮影だから。…アイリスちゃんいちいち相手してたら、身が持たないわよ?」

 と最後の言葉はあたしに聞こえないように声を潜めていたけど、丸聞こえだ。そりゃ、わかってるけど…。別に、応援してるだけだからいいでしょ!?

「いいじゃないですかぁ。じゃあね、これからも応援よろしく!!」

 スタッフさんをたしなめて、ウィンクをして走り去って行った。


「あたし、めちゃめちゃ幸せものだぁ!!あのアイリスと話せたし、ウィンクまでされちゃったよ!!」

 口角が緩む。本物のアイリスを見ることができただけで嬉しいのに!!あたしは世界で1番幸せ者だ。

「よかったマロね。ねぇ、アイリスって…」

「あぁ!サイン貰ってない!握手もしてない!あ、あたしって不幸せ者だ~!!」

 マーロンを遮り、頭を抱える。せっかく会えたのに、大事なサインも握手もしてないなんて、大失態だ!

 そして、うなだれるあたしは視線を感じた。

「さっきは幸せ者だって言ってたマロ…。マロォ!?」

 あたしは突然、マーロンを掴み、その場を離れた。

「ショッピングの続き、行くわよ!サインと握手分、買うわよ」

 マーロンを掴んだまま、ずんずんと街中を進む。

 こめかみから、冷や汗が吹き出る。すれ違う人たちの視線が怖い。急にマーロンを掴んで、その場を離れたのには理由がある。アイリスが撮影に向かった直後、話し声が聞こえた。


「何あの子、アイリスと話しちゃって」

「私達、さっき拒否られたのにね…」

「舞い上がりすぎじゃない?なんかむかつく…」


 あたしに対しての冷ややかな声。3人組の女の子がひそひそと話していた。視線が痛かった。昔のようだった。もっとひどかったけど…。いつのまにか、瞼に溜まる涙。

 やっぱりあたしは弱いまま?マーロンは変わったって、強くなったって言ってくれた。リリーやフィリー、サラサと普通に話せるようになった。もしかして、いい気になってただけなの?


 心の奥底では分かってたんだ。あたしは変わらない、弱いままだって。

 少し、怖い目で嫌味を言われただけじゃないか。無視して、通り過ぎればよかったじゃないか。


 もがくマーロンを強く掴んで放さない。すれ違う人ごみをうつむき歩き、スピードを上げる。


 全てが順調に進んでたのに。全てがいい方向に進んでいたのに。

 でも、あたしは弱いから。あたしの心はシャボン玉のように、少し触れただけで簡単にはじけてしまう。


 誰も居ない公園のベンチに座り込む。手をぎゅっと握り締める。こらえて!泣きたくなんかない!

「マレーヌ、どうしたマロ?!」

 マーロンはせっかくあたしから抜け出せたのに、この事態におろおろしている。マーロンに心配カケタクナイ…。

「うっわ、ごめん。目になんかはいちゃって…。興奮しすぎちゃったね、あたし…」

 俯いたまま、目をこするフリをするあたし。嘘つくのも下手だな。それなのに、マーロンは、

「もう、びっくりしたマロよ。さっ、目洗ってくるマロ」

 とあたしを1人にしてくれた。トイレに駆け込んで、顔を洗う。


 なんとなく、なんとなくだけどさ…?

 マーロンに、避けられてる?違うよね。

 でも、前、水の王国でちょっと口論になったときから…。マーロンに頼れなくて、それでマーロンに心配をかけてしまった。その時、彼はひどく辛そうな顔をした。儚く消えてしまいそうなほどに、辛く悲しい顔。

 誤解は解けたけど、あたしたちの間には微妙な距離感がうまれた。マーロンの返事が素っ気なかったりするんだ。あたしはマーロンと今までどおり仲良くしたいのに。


 あたしを1人にしてくれたのは、彼があたしを避けているからなのか、今までどおりの優しさなのか、分からなくて辛かった。また昔みたいに弱いあたしになってしまうのかと辛かった。



 気を落としたまま、とぼとぼと出てきたあたし。マーロンは笑顔で迎えてくれた。

「お城に行くマロよ!」

 彼の優しさにはひどく救われる。顔を洗ってきたのに、また涙が溜まってきた。


 ずんずん進んでいくマーロン。遅れないように、でも、1歩あとをついていった。



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