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商人の街アヴァール



 あれから歩くこと三十分。道中、何度も魔物に襲われはいたものの、俺たちは【アヴァール】へと到着した。


 「ワタルさん。まずは、どこに行くんですか?」


 【アヴァール】の街の中では様々な物が販売されており、人で賑わっている。


 「まずは武器屋と道具屋だな。」



 道中、大量の出店に目を奪われながらも、プレイヤーが経営している武器屋である【不変の鉄塊】へとたどり着いた。


 「ワタルさん。店の中に誰もいないんですが……」


 「ここの店主のサブジョブは鍛冶師だからな。基本的に裏で鉄を打ってるんだ。」


 【不変の鉄塊】店主の一鉄さん。時代が進む事に鍛冶師という仕事は過去のものとなり、リアルを追求しているアトランティスオンラインで鍛冶師として腕を奮っている。


 「それにしてもワタルさん。どうしてこの店に?どの武器や防具も属性の付与されていない初期装備みたいのしかないですけど。」


 「手に取ってステータスを確認してみろ。」


 「えっ、嘘でしょ……ワタルさん!ここの武器レアドロップ並の性能じゃないですか!」


 アトランティスオンラインの世界では魔法使いが鍛冶師として武器を打つと属性の付与された強力な武器が生まれることがある。


 だが武器に属性があることを嫌った一鉄さんは素の攻撃力が最も高い【格闘家】そして上級職の【闘拳士】を選び、属性のない武器の制作にこだわった。


 結果、属性武器は相性によって使い分けることができるという長所こそあれ、攻撃力や耐久性の優れた一鉄さんの武器は属性武器との棲み分けに成功した。


 「そうだったんですね……こんなに優秀な武器があるならもっとお客さんで賑わっててもいいと思うんですけどね。」


 「それはほら、店主が表にいないから……」


 「あぁ、なるほど……」

 

 俺とロキ、エマの三人は、それぞれの購入したい装備を手に持ち、店の裏の鍛冶場へと向かった。



 「すいませ〜ん。これ購入したいんですけど……」


 鍛冶場には身長や体重、体の骨格以外の全てがキャラ作成時のデフォルト設定の実に平凡で特徴のない人物が一心不乱に鉄を打っていた。


 「………………」


 「あれ?聞こえてないのかな……」


 ロキは鉄を打つ音に負けない声量で声をかけたが、一鉄さんは反応を示さなかった。


 「これはしばらくかかりそうだな……」



 あれから何分が経ったのだろう。俺たちは普段目にすることのない鍛冶の風景に時間を感じないほど夢中になっていた。


 「待たせて悪かったな……って、なんだよワタルじゃねぇか久しぶりだな!」


 俺の顔を見るや一鉄さんの表情が笑顔に変わった。


 「お久しぶりです一鉄さん。覚えていていただけて嬉しいです。」


 「この店は客が少ないからな!自然と名前も覚えるわな!」


 俺たちは一鉄さんに代金を払い、品物をインベントリにしまった。



 「次は道具屋ですよね?こっちに道具屋なんてありましたっけ?」


 【不変の鉄塊】を後にしたにして道具屋に向かっているとロキとエマが不安そうな顔で尋ねてきた。恐らく道に迷っているのではないかと心配しているのだろう。


 「悪い、正確に言うと今から行くのは道具屋じゃなくて知り合いの錬金術師の家なんだ。」


 アトランティスオンラインでは建物の購入が可能である。購入したものの中には【不変の鉄塊】のように店を開くものもいれば、自分だけの空間として装飾を楽しむものもいる。


 「着いたぞ。ここが知り合いの家だ。」


 店で賑わう中央通りから離れた比較的安価に購入することのできる小さな家。一定のリズムでノックをすると、女性が顔を覗かせた。


 「だ……だれ?」


 「ワタルです。【戦士】のワタル。」


 名前を名乗ると扉を開き、いかにもな格好の女性が姿を見せた。


 「ワタルさん……久しぶり……」


 俺とロキ、エマの三人が軽く挨拶をすませると、初対面の相手に戸惑いながらも錬金術師は挨拶を始めた。


 「わ……私の名前はレイ……よ……よろしくお願いします。」


 「「こちらこそよろしくお願いしますレイさん!」」


 双子の息のあった返事に驚きながら、レイは家の中に通してくれた。


 「い……いつも通り、ざ……材料は持参してくれてるんですよね?」


 俺はインベントリから【矢毒鳥】や【梅蛇】などの【(毒)属性値】の低い生き物を取り出し、レイに渡した。


「で……では、完成するまで……しばらくお待ちください……」


 レイは素材を部屋の中央に置いてある巨大な鍋の中に入れて小さな声で呪文を唱え、混ぜ始めた。



 しばらく時間が経つと、レイは鍋の下に備えられた蛇口を捻り、完成された【毒液(弱)】を二本瓶に移した。


 「か……完成しました。そ……素材の量がいつもより多かったので、二本できましたけど……」


 「あぁ、問題ない。一つはロキのために作ってもらったんだ。」


 「……ワタルさん?【毒液(強)】を使った【毒矢(強)】なら手持ちに常備してますよ?」


 【毒液】は【矢】や【投げナイフ】といった武器の先端に塗ることで武器の属性を変化することができる。


 「【毒矢(弱)】は手持ちにないんだろ?」


 「そうですけど……必要あるんですか?」


 「【毒】や【麻痺】なんかの状態異常系の属性は特殊でな。他の属性はダメージ+属性値なのに対して、ダメージ+属性値(付与)なんだ。」


 ロキとエマの二人はメモ帳を取りだし、自分の知らない知識を書き記すためにペンを構えた。


 「状態異常系の【毒】【麻痺】は【属性値(数値)】で、表記されない代わりに【属性値(強弱)】で表記される。この【属性値(強弱)】は強ければいいというわけではなく、【毒属性】が強いほど敵への【付与率】が低くなる傾向にある。」


 エマがメモをとる手を止め、右手をあげた。


 「たとえ【付与率】が低くてもダメージが高い、強を使った方がいいんじゃないですか?」


 「基本的にはそれが正しいよ。ただ、パーティーを組んだ場合は話が変わる。毒ダメージによって【タンク】が奪ったタゲ(ターゲット)を奪う可能性があるからだ。」


 二人は頷きながらひたすらにメモをとっている。


 「あとは単純に【毒液(強)】の入手が今のアトランティスオンラインでは難しいというのもある。」


 錬金で入手可能な【毒液】の中でも、とりわけ【毒液(中)】と【毒液(強)】は素材になるモンスターが強力で、死と隣り合わせのこの世界では戦うのは避けるべきと言えるだろう。


 「なるほど……ワタルさんと話していると、ただ楽しかった、アトランティスオンラインではなくなってしまったということを嫌でも実感させられますね。」


 ロキの口から出た言葉は多少の棘を含んでおり、自分が失礼な発言をしたと気づいたロキはすぐに頭を下げて謝罪した。


 相変わらず嫌われてしまったかもしれないという考えが頭をよぎるが、自分が嫌われることで二人が慎重になってくれるならと、これからは考えることに決めた。 

 

 

 


 

 

 


  

  


 


 


 

 

 

 

 


 


 

 


 

  

 

  


 

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