名前のない村
リリィの死んだ次の日。エンペサールでマーチと別れ
、獣の森の中を三十分歩くと背の高い柵で囲われた小さな村が見えてきた。
(なんだこれは……)
本来は街に向かう途中の中間地点として、ログアウトのために設置された村。本来であれば柵の隙間から生活の気配を感じるはずだが、柵の間からはゴブリンやオークの姿が確認でき、村の人間は、まるで家畜を飼うかのように柵の中で生活をしているのが見えた。
(……助けるしかないか)
助けた後に村に残るよう頼まれてしまうかもしれないと頭で考えながらも、リリィの死から間もない俺に助けないとという選択をとることはできなかった。
俺は獣の森の中で【赤い鹿】を狩り、火打石で火をおこして赤い鹿の肉を焼いた。
種類にもよるがモンスターの中にも上下関係は存在している。最も分かりやすい例がゴブリンとオークだろう。ゴブリンとオークが共に行動している場合、ゴブリンはオークに守って貰う代わりにオークのために動くことが多い。(命を張るほどではない)
(つまりこの場合……)
俺は村の見える場所に移動して様子を伺った。
「スンスン……aa?aa!」
「aa!aaaaaaaaa!!」
初めにゴブリンたちが匂い気づき森の中に向かおうとしたが、次に気づいたオークにより一匹のゴブリンが頭を捕まれて地面に叩きつけられてしまった。
殺された仲間を見たゴブリンたちは大人しく見張りを続け、三匹のオークが森の中に向かった。
まぁ、大抵の場合はこうなる。そして基本的にソロで活動していた俺は、集団戦の場合、三手に敵を分散されてから戦闘を始める。
大事なのは位置調整だ。
村から少し離れた場所 ゴブリン
少し離れた場所ゴブリン
さらに離れた場所オーク
にする必要がある。
一定の間隔の距離に調整しないと村に残ったゴブリンと戦っている間に離れた場所に配置したゴブリンとオークが戻ってきてしまう。
俺は慣れた力加減で村から離れすぎない場所に煙玉を投げて魔物の分散に成功した。
(よーい……ドン!)
俺は両手に投げナイフを装備して全力で村へと走った。スピード勝負だ、分散させたゴブリンとオークが戦闘に気づき村に戻る前に村のゴブリンを倒す必要がある。
「a……!」
村の入口で門番として見張る二匹のゴブリンが俺の存在に気づき、声をあげようとするが、声をあげるより先に投げナイフがゴブリンの体に突き刺さり、瞬時に剣を装備した俺に首を跳ねられた。
「aa!aaga!」
民家の家に登っていたゴブリンが俺の存在に気づき声をあげた。ゴブリンの声は大きく、一瞬で村に残っているゴブリンだけではなく、煙玉でおびき寄せたゴブリン、匂いに釣られたオークの耳にも届いただろう。
(一、二、三!)
右手に剣を左手に盾を装備して村の中に蔓延るゴブリンを殺しながら、村の外から確認した柵で囲われた村人たちの元へと一目散に向かった。
「……!あんた、冒険者か!頼む……早くここから出してくれ!」
柵の中には子供から大人まで老若男女差別することなく閉じ込められていた。俺は柵を結び止めている紐を剣で叩き切り、村人たちを解放した。
「なんでもいい!男は戦える武器を、女子供は投げつけられる物を持って家の中に隠れてください!もしもモンスターが来たら時間を稼いでくれ、必ず助けるから。」
「分かった……!あんたも気をつけてくれよ……」
村人たちが村で一番大きな村長の家に隠れたと同時に異変を察知したゴブリンたちが駆けつけた。
(……落ち着け。残る相手は目の前の四匹のゴブリンと二匹のオーク。一人で倒せない相手じゃない。)
俺を殺そうと迫り来るゴブリンをよそに深く深呼吸をして、武器を構える。
(大事なのは初撃だ……一撃で決める!)
アトランティスオンラインは確かにゲームだ。だが、生物のリアルな行動を突き詰めたこのゲームはモンスターの種類ごとに正確が定められており、その性格は戦闘にも影響する。
【瞬き】静止状態の時に限り使用することのできる全職業で会得可能な初級スキル。自分の立つ位置から向いている方向に一歩移動する効果。攻撃の間合いが重要な戦闘においては厄介なスキルだが、使い勝手の悪さから戦闘中に使用されることはほとんどない。
俺は【瞬き】を使い、テレポートに近い移動でゴブリンに認識されるよりも早く剣を振り抜いた。
「……a?aaaaaaaaa!!」
間合いの外からノーモーションで目の前に現れ、仲間を殺されたことで、残りのゴブリンは理解のできない敵に恐れ、背を向けて逃げていった。
(二匹目……三匹目!)
ゴブリンの背を打つのは難しいことじゃない。人間の五歳児程の身長しかないゴブリンは歩幅が狭いため、全力で逃げてもあっという間に追いつくことができるからだ。
俺が最後のゴブリンを追いかけて村の門の近くへ行くと、普通の人間よりも一回り大きくてゴツゴツした手が
門に触れた。
門から現れたオークは、逃走したゴブリンを片手で掴みあげ、俺に向けて投げた。
(あぶ……!)
ギリギリで避けたゴブリンは地面に叩きつけられ、しばらくの痙攣の後、動かなくなった。
「aaaaaaaaa!!」
雄叫びをあげ、二匹の棍棒を携えたオークが迫り来る。俺はリキャストタイム(再使用までにかかる時間)が終わった【瞬き】を使い再び距離を詰めて【パワースラッシュ】で一匹のオークを屠った。
「oaaaaa!!」
ゴブリンの時とは違い、仲間が殺されてもオークのうごきは止まらず、棍棒による強打が俺を襲う。
「【パリィ!】」
【バックラー】通常価格の盾とは違い、|防ぐではなく受け流す(弾く)ことに特化した盾。とても軽量で中央に突起があるのが特徴。
バックラーで防いだ棍棒による強打は、中央の突起を滑り地面へと叩き込まれた。地面に棍棒が叩き込まれた音が鳴るとほぼ同時に、オークの下がった頭を叩き切る。
「ふぅ……」
これで全部倒したはずだ。俺はモンスターの落としたドロップアイテムに目もくれず、隠れた村人たちの元へと向かった。
「やぁーーー!」
村長の家の玄関扉を開けると、四十代くらいの男が火かき棒で殴りかかってきた。
「……落ち着いてください!モンスターは始末しました!」
「冒険者様……?申し訳ありません!失礼しました!!」
相当気を張っていたのだろう。モンスターの討伐が終わったことを知った、家の中に隠れていた村人たちは安堵の表情を浮かべ、それぞれの方法で喜びを表現している。
「あなたにはなんとお礼を言っていいやら……!」
火かき棒で殴りかかってきた村人……確かこの村の村長だったはずだ、アトランティスオンラインが正常に稼働していた頃に話した記憶がある。
「気にしないでください。そんなことよりも、いつから村をモンスターに占領されていたのですか?」
「………………」
村人たちはバグったゲームのように黙りを決め込んだ。
「おいおい……こいつは一体……」




