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ワタルの本気



  (見えてきた……)


 エンペサールではトロルと二匹のオークがマーチのアイテムによる結界に阻まれ、まだ怪我人はでていないようだった。


 「ワタル!結界はもう限界だ!早くタゲをそっちでとってくれ!」


 アトランティスオンラインでは音声認証でスキルを使用することができる。


 「【プロヴォーク】!」


 戦士職の基本スキル【プロヴォーク】は相手一人のタゲ(ターゲット)を使用者に強制変更することができるスキル。効果時間は短いが多数のタゲを集めることができる【プロヴォーク・ザ・クラウド】と使い分けられている。


 【プロヴォーク】によりトロルのタゲを引いた俺は、インベントリから【投げナイフ(毒)】を両手に装備して二匹のオークに投擲した。


 「aaa!?」


 投擲したナイフはオークの体に浅く突き刺さり、二匹のタゲも上手く引くことができた。


 (【プロヴォーク・ザ・クラウド】だと倒し切る前に効果が切れて再び街に攻撃をしかけかねない……これでいいはずだ!)


 俺の予想通り三匹の魔物は怒りの表情を浮かべながら、俺に向かって突撃してきた。


 (不思議だ……死への恐怖からエンペサールから離れられず、素材をマーチに買い取ってもらって生活していたのに、体が戦闘を覚えている……)


 次にインベントリから取り出したアイテムは獣の森で手に入る【イガの実】毬栗(イガグリ)がモデルとなっているこの実は凶悪な棘で覆われており、踏みつけると少量だがダメージ判定がある。


 「a……!」


 (リリィが襲われたことへとの怒りからなのか、不思議と恐怖も薄れている……)


 【イガの実】を踏みつけたトロルがよろけた瞬間を見逃さずに両手に武器を装備して、距離を詰め技を繰り出した。


 【パワースラッシュ】ただの力任せに切りつけるだけの技だが、レベル九十九の体から放たれる一撃はトロルの体を容易に両断することができた。


 「au!auau!」


 【イガの実】を踏まないよう、息絶えたトロルの体の上を通り二匹のオークが棍棒を振り回しながら距離を詰めてきた。


 (……これが終わったらリリィの代わりに前線に出向こう。何人のプレイヤーに咎められようとも、リリィのやろうとしていたことは間違っていないはずだから。)


 戦闘中だというのにリリィのことが頭から離れない。一匹目のオークが俺の元へと辿り着き棍棒を振るうが、これまでの戦闘経験が体を動かして、盾で攻撃を防ぎ返しの一撃が棍棒を持つ腕を切り落とした。


 「aaaaaaaaa!!」


 耳を劈く(つんざく)ようなオークの絶叫が響く。


 「黙れ」


 技を使わない本気の一振り。限界までレベルを上げたプレイキャラの一撃は風を切り裂く音を立てながらオークの喉を切り裂いた。


 「……aa……a」


 大量の血液を撒き散らしながら倒れる仲間を見た、もう一匹のオークは分け目も降らず背中を向けて森の方角へと逃げた。


 「逃がすものかよ。」


 両手に装備していた剣と盾を外して、両の手に【投げナイフ】を装備した。投げる、装備する、投げる、装備する、その繰り返し。投げた本数が十六を超えた頃にはオークの体はピクリとも動かなくなっていた。



 「ワタル……大丈夫か?」


 戦いの終わった俺にマーチが近づき声をかけてくれた。


 「大丈夫……ではないかもな。悪いマーチ、お前しか頼れる奴がいないんだ、リリィを運ぶのに協力してくれ。」


 「そうか……リリィちゃんは、もう……」


 俺はマーチと共にリリィのいた場所まで足を運んだ。


 「……マーチが一人で運んでくれ。俺は周囲の警戒をする。」


 「……あぁ、分かった。」


 リリィの遺体を担いでからしばらくの間、無言の時間が続いた。


 「リリィはさNPCだったよ。」


 沈黙に耐えかねて出た言葉なのか、誰かに聞いて欲しくて話したのかは分からない。だけど、マーチには話しておかないといけない気がした。


 「……!?NPCが戦っていたっていうのか!」


 (リリィがNPCであったことよりも先に、NPCが戦闘を行ったという事実に驚くのか……なんともマーチらしいというかなんというか……)


 マーチがいつも通りの反応をしてくれたおかげで、立ち直ることはできていないものの眼前の問題について考えることができた。


 「……そこに関してはリリィが新しく産まれたNPCだってことが関係していると思う。」 


 「どういうことだ?」


 「アトランティスオンラインが正常に稼働していた頃に、レアなイベントを探すため全てのNPCに話しかけて情報を集めたことがあったが、リリィというNPC存在していなかった。」


 「は!?おま……そんなことしてたのか。お前らしいっちゃらしいが……まぁ、話は理解した。つまり、俺たちの世界とアトランティスオンラインの世界が混ざっちまったせいで、バグ……というかアトランティスオンラインの世界にも変化が起きてるってことだな。」


 マーチの確認に頷き、話を続けた。


 「驚くことじゃないけど相当な問題だよな……」


 「当たり前だろ。こっちの世界の人間からしたら、俺たちは外の世界から来た外来種だ。そんな奴らが魔物の侵略をコントロールして資源を奪ってるんだ、最悪の場合NPCとの戦争になるぞ。」


 戦闘が終わってから考えてはいたが、俺も同じ結論に辿り着いていた。NPCと戦争になった場合、ほぼ間違いなくプレイヤー側が勝つ。プレイヤーと違いレベルという概念がないのはリリィを見ていて分かっている。


 問題はプレイヤー側にも少なからず被害がでることと、NPCだからといって殺してはいけないのではないかという良心だ。最悪の場合、この感情はプレイヤー同士の対立を招くだろう。


 俺とマーチは問題を一つづつ口に出して整理することにした。


 「一. NPCとプレイヤーの対立。これが始まればNPCを傷つけたくないというプレイヤーとNPCだから殺してもいいというプレイヤーの対立は避けられないだろう。」


 「二.戦争の結果プレイヤーの人口が減った場合、前線の維持は困難となり、俺たちのいる始まりの街エンペサールまで押し戻されることとなる。」


 「三.商人として前線の情報は当然仕入れているが、こんな情報は聞いたことがない。俺たちだけが知っているとしたら、迂闊に話すことはできない。特に資源を欲している国や企業には知られてはいけない。」 


 「四. これは今思い出したことだが、リリィと最後に話した時に魔王に魂を連れ去られると話していた。聞いたことのない設定だということを考えると世界の変化による影響の可能性が高い。」


 ……問題点を纏めたが、分からないことが多すぎる。現状なんともしょうがない。


 「ワタル。お前はこれからどうするんだ?まだエンペサールに残るつもりか?」


 マーチの質問に俺は迷うことなく答えた。


 「俺は先に進むよ。正直な話、俺は侵略とか資源とかはどうでもいい。だけど、誰かがやらないといけないことなんだ。リリィがやろうとしていたように、俺もできる限り頑張ってみるよ。」


 これからのことをマーチに伝えると、背中を叩きマーチは笑った。


 「だったら俺と組めワタル!リアルやゲーム内で必要なマネー(ゲーム内通貨)は俺が全て出資してやる!だから気兼ねなく楽しんでこい!」


 「前から気になってたんだが、お前……リアルでは何を……」


 「ゲーム内でリアルを探るのはNGだぞ。まぁ、アトランティスオンラインで相当稼いだし金には困ってないから心配するな。新しい口座作ったら、俺に連絡してくれ。」


 「……それで?俺に今後どうするか聞いたんだ、お前はどうするんだ?」


 「俺はしばらくエンペサールに残るよ。NPCが戦えると知った以上、検証してみないと気が済まないからな。自分の身は自分で守る。NPCがこれをできるようになるだけで防衛はずっと楽になるはずだ。」


 アトランティスオンラインが俺たちの世界に干渉する前からの知り合いだ。少し寂しいものがある。


 「そんな顔すんなって!しばらくしたらお前に追いついてみせるからよ!」


 「あぁ、分かってる。何か情報を手に入れたら必ずお前に連絡するよ。」


 俺とマーチは大事な仲間との別れをきっかけにアトランティスオンラインの攻略に動き出した。


 

 

 

 

 

  

 

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