始まりの街エンペサール
体が一度分解されてから再構成される、この感覚は何度味わってもなれることはない。
「よぉ、ワタル。今日もよろしく頼むぜ!」
全てのプレイヤーの始まりの街エンペサール。この街にはマトモに戦える戦闘職のプレイヤーが殆どおらず、低レベルの商人や鍛冶師などの非戦闘職のプレイヤーが多く残っている。
そんなエンペサールの街の宿から出てきた俺を待っていたのは、ゲームとして正常に稼働していた時に世話になったことのある男だった。
「マーチ。お前も俺なんかに関わらず他の街に行ったらどうなんだ?そっちの方が稼げるだろ……」
「始まりの街から離れれば離れるほどモンスターの量も質も上がるだろ?前にも言ったが命をかけてまで金を稼ごうとは思ってないさ。」
アトランティスオンラインの外にアイテムを持ち出せる商人。その影響もあり、戦闘職だったプレイヤーの半分は、プレイヤーの初期アイテムである【転職チケット】を使用して、現実で金を稼ぐために商人に転職をした。
マーチは当時から商人としてプレイしていた珍しいプレイヤーで、プレイヤーで彼の世話になったことのない人間は少ないだろう。
商人の特殊能力でNPCとの取引の際に特殊なバフが乗り、それはレベルによって左右される。マーチは持ち前の交渉術や高いレベルもあり、レベルの低い冒険者よりも安く仕入れ高く売ることができる。
戦闘職はアイテムを入手し現実、またはゲーム内で商人と取引をして、商人は現実に持ち帰り、買値以上の価格で売り払う。それが今のアトランティスオンラインの常識となっている。
「そんなことよりも。ほらよ、代わりに依頼を受けといたぞ。」
ゴブリン討伐。魔物の侵攻を押し込んでいる前線が取り逃したゴブリンを討伐するという依頼。依頼署には、ただのゲームの時と同じように経緯や魔物の種類、魔物のレベルが記載されている。
「ワタルさん準備はできましたか!」
俺が依頼内容に目を通していると、背後から元気で活発なショートカットの少女に声をかけられた。
「……リリィ」
リリィは俺と同じ剣と盾を使うオーソドックスな戦士職で、ことある事に俺の依頼に同行しようとしてくる。
「何度も言っているが、お前に戦闘は向いていない。戦闘職は諦めて、商人にでも転職したらどうなんだ?」
リリィに出会ったのは政府の管理の元アトランティスオンラインの筐体の置かれているゲームセンターに入れるようになって間もない頃。貧相な装備で森に入るリリィを助けたのが出会い始まりだった。
なぜ森に入ったのかを聞くと「魔物の侵攻を防ぐのに協力したくて……」とリリィは答えた。
放っておけば無謀な戦いに挑みかねないリリィを俺は今日まで鍛えあげてきたが、一向に戦闘が上達することはなく、彼女に才能がないことが分かった。
「それは……私も自覚しました。だけど、誰かがやらないと魔物による被害は止まらないじゃないですか!」
「…………」
彼女の言いたいことは分かる。実の所、実力のあるプレイヤーが前線をある程度の場所まで押し上げはしたものの。それ以上の攻略は行われてはいない。国にとってもプレイヤーにとっても金の成る木を手放したくはないからだ。
実際の所……ICカードの所持が条件だったはずのアトランティスオンラインへの立ち入りは、既に意味をなくしているようで、毎日のように新しいプレイヤーがエンペサールの街にやってくる。
新規プレイヤーの増加と反比例するように日夜ニュースでプレイヤーの死が報道されている。国としては限りのある資源より人の命の方が軽いと判断しているのだろう。
「いくら才能がないと言われても、私は戦うのを辞めるつもりはありませんから……!」
「分かったよ。お前に死なれちゃ目覚めが悪いしな。ただし、俺が逃げろと言ったら必ず逃げろ。それが条件だ。」
「はい!よろしくお願いします!」
俺はリリィの気持ちに押し切られ、今日も二人で森へと足を踏み入れた。




