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【2部完結】現代ダンジョンの苦情係 〜元クレーム処理担当の俺、魔物の言葉がわかるので菓子折り一つで世界を救う〜  作者: ぱすた屋さん


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外伝:VIP顧客の定期面談と、深層の迷惑配信者



 新宿ダンジョン特定紛争解決窓口として公認された、久我コンテナ・フォートレス。


 その平穏な午後の業務中、CTOの佐藤のデスクから、けたたましい警告音が鳴り響いた。


「……久我さん! 事務所の直通魔力回線に、外部からの強烈なアクセスです! この圧倒的な風属性のパルス……まさか、敵襲ですか!?」


 佐藤がキーボードを叩きながら顔面を蒼白にする。


 警備主任のガルが即座に立ち上がり、コンプライアンス室長のエレナを庇うように前に出た。


「敵襲ならば、このガルが防ぎます! 皆様は奥へ!」


「待ちなさい、ガル主任。迎撃態勢は不要です」


 久我良平はコーヒーカップを優雅に置き、スーツの襟を正した。


「これは攻撃ではありません。我が社の『VIP顧客』からの、直通ホットライン(クレーム)です」


「ブワォォォン……ッ!」


 久我が窓を開けると、一陣の突風と共に、小さな風の精霊シルフが舞い込み、机の上に一枚の羊皮紙を落として消え去った。


 結城陽菜が恐る恐るその羊皮紙を覗き込む。


「ええと……『我が静寂なる領域に、騒々しい羽虫が湧いた。至急、駆除ソリューションを求む』……? 久我さん、これって……!」


「ええ。第1部でお世話になった、ダンジョン深層のストームドラゴン氏からのご依頼です」


 久我の言葉に、エレナが信じられないという顔をした。


「ス、ストームドラゴン!? 伝承に記される、天災クラスの神話級魔物ですか!? なぜそんな存在が、久我さんに依頼を……!」


「ニャ~オ(ウチの社長は、あのデカいトカゲはんと『騒音トラブルの示談』を成立させた実績があるんやで)」


 キャットタワーから降りてきたコトが、得意げに尻尾を揺らす。


「キャン!(ボスのすっげぇ交渉術だ! 俺もあの時は一緒に吠えてやったぞ!)」


 クラも陽菜の足元でピョンピョンと跳ねる。


「……以前、彼には『深層の指定エリア内で静かに過ごすこと』を条件に、人間側からの討伐隊を法的に差し止める契約を結びました。……どうやら、その『静かな居住環境』が、何者かによって脅かされているようです」


 久我はアタッシュケースから、最高級の魔導和菓子(マナをたっぷり含んだ特注品)の入った桐箱を取り出した。


「佐藤君、ストームドラゴン氏の指定エリア周辺で、人間の活動履歴はありませんか?」


「……ちょっと待ってください。……ああっ、ありました! 最近流行りの『ダンジョン系動画配信者ダン・チューバー』です!」


 佐藤がモニターに動画サイトの画面を映し出した。


 そこには、派手な装備を着た数人の若手冒険者たちが、大音量で音楽を流しながらバーベキューをしている映像がリアルタイムで流れていた。


『イエーイ! みんな見てるー!? 今日の企画は「深層の超危険地帯で、24時間騒ぎ倒してみた」だぜ!』


「……なるほど。完全な『騒音防止条例違反』および『不法侵入』ですね」


 久我の眼鏡の奥が、冷ややかに光った。


「顧客の快適な住環境を守るのも、我々のアフターサービスの一環です。……皆さん、出張ロケハンに出ますよ」


 ダンジョン深層・ストームドラゴンの縄張り。


 普段は暴風が吹き荒れるその領域も、久我との契約により、今は静寂な空間が保たれていた。……はずだった。


『スパチャありがとうございまーす! よっしゃ、罰ゲームで爆竹鳴らすぜー!』


 パーン! パパーン!


 静かな地底湖のほとりで、配信者たちが下品な笑い声を上げながら騒ぎ立てている。


 その背後の巨大な暗闇の中で、二つの巨大な黄金の瞳が、ギリギリと怒りに震えながら彼らを睨みつけていることにも気づかずに。


「……おい、お前ら。そこは『私有地』だぞ」


 突如、暗闇から現れた黒スーツの男に、配信者たちがギョッとして振り返った。


「ああん? なんだおっさん。俺たち今、最高の配信中なんだけど。映り込むなよ!」


 リーダー格の男がカメラを向けながら凄む。


 だが、久我は歩みを止めず、タブレットの画面を彼らに突きつけた。


「私はこの土地の管理代行を委任されている、久我ソリューションズの者です。あなた方の行為は、特定保護指定魔物への『迷惑防止条例違反』、並びに『営業妨害』に該当します。直ちに配信を停止し、退去しなさい」


「はぁ? 管理代行? ここはダンジョンだぜ、誰の土地でもねぇよ! 証拠でもあんのか!」


「証拠なら、あなたの後ろにいますよ」


 久我が指差した瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 地底湖の水が割れ、ビルよりも巨大な青銀の鱗を持つストームドラゴンが、その威容を現した。


「ヒッ……!?」


「ス、ストームドラゴン!? な、なんでこんな所に……!」


 配信者たちが腰を抜かし、カメラを取り落とす。


『……久我よ。遅かったではないか。この羽虫どもの騒音のせいで、昼寝の時間が台無しだ』


 ストームドラゴンの威厳ある思念波が響き渡る。


「申し訳ありません、VIP(顧客)。すぐに『清掃』いたします」


 久我が一礼すると、背後に控えていた久我ソリューションズの面々が一斉に前に出た。


「キャン、バウバウッ!(ボスの大事なお客さんに迷惑かけんな! 噛みちぎるぞ!)」


 クラが三つの頭の幻影を展開し、魔犬としての本性で威嚇する。


「ニャ~オ(あんたら、命が惜しかったら今すぐ機材まとめて消えなはれ)」


 コトが爪をチャキッと鳴らす。


「プルルッ!(ゴミは置いていかないで!)」


 スラちゃんが、彼らが散らかしたゴミを次々と丸呑みにしていく(消化はしない)。


 そして、極めつけは身長二メートルを超える石の巨漢、ガルだった。


「……エレナ様の御前、そして主の顧客の庭を汚す痴れ者ども。……我が鉄槌てっついで粉砕されたくば、そのままそこに座っているが良い」


 ガルがズシンと一歩踏み出すと、配信者たちは悲鳴を上げて機材を抱え、文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。


「……お見事です、ガル主任」


 エレナが微笑むと、ガルは「恐悦至極に存じます」と深く頭を下げた。


 騒音が去り、再び静寂を取り戻した地底湖。


 久我はアタッシュケースから先ほどの桐箱を取り出し、ストームドラゴンの足元に丁寧に置いた。


「対応が遅れ、誠に申し訳ありません。こちらは、我が社が公認窓口に昇格したご挨拶と、今回の『お詫びの品』です」


『……ほう。これは人間界の菓子というやつか。相変わらず、お前は我を「魔物」ではなく「客」として扱うのだな』


 ストームドラゴンは鼻息で桐箱を開け、中身の魔導和菓子を一つ、器用に舌で巻き取って味わった。


『……悪くない。純度の高いマナの味がする。……許そう、久我よ。お前のその「契約を遵守する姿勢」、我は嫌いではない』


「お褒めにあずかり光栄です。今後とも、久我ソリューションズをご贔屓に」


 久我は完璧な角度で一礼した。


 天災クラスのドラゴンを相手に、一切の怯みもなく「営業スマイル」を向ける久我の背中を見て、エレナは小さく息を吐いた。


(……やっぱり、久我さんが一番「規格外」なのかもしれないわね)


 深層の闇の中で、ストームドラゴンが満足げに喉を鳴らす音が響く。


 最強の事務屋たちにとって、魔王も神龍も、ルールを守る限りは等しく「大切なお客様」なのである。


 外伝、VIP顧客のクレーム対応、これにて完了。


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