ムクの居場所
ミルたちと別れたあと、
ガオとピピは、小さな農村にたどり着きました。
「空気がちがうね」
ピピが言いました。
「湿ってる。土の中に、たくさんの声がある気がする」
ガオはそう言って、土のにおいをかぎました。
すると、小さな穴からモグラのムクが顔を出しました。
ヒゲが長く、体はまだ小さくて、目はどこかおどおどしています。
「こんにちは……?」
ピピが声をかけると、ムクはびくっとして、すぐに穴に戻りかけました。
「大丈夫だよ。何もしないよ。」
ガオがやさしく言いました。
すると、ほかのモグラたちも穴から出てきました。
どうやら家族のようです。
少し大きなお兄ちゃんモグラが言いました。
「まだ終わらないの?」
「ほんと、遅いな。」
ムクは何も言えず、うつむきました。
お母さんモグラは、ため息をついて言いました。
「ムクはね……一番下の子だから仕方ないのよ。」
「お兄ちゃんたちは、もっと早くできたのに。」
その言葉は、ムクの胸にチクチク刺さりました。
ムクは思いました。
(ぼくは、ダメな子なんだ)
(なんで上手にできないんだろう……)
離れたところで見ていたガオとピピは、
小さく丸くなったムクを見つめていました。
「……あの言葉、ムク傷ついてないかな。」
ピピは、苦しそうに言いました。
ガオはうなずきました。
「正しさのつもりで言った言葉が、
誰かを傷つけてしまうんだね……」
ガオは、これまでの旅で学んできました。
やさしさは、正しさより先に来ることがある、ということを。
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その日の夕方、
子どもたちの発表会がありました。
成長した姿を見せる会です。
こぐまは、誰よりも速く走り、
こざるは、木のてっぺんまで登り、
小鳥は、高く、高く飛びました。
「みんな、すごいね……!」
ピピは思わず言いました。
「次はムクの番だ。」
ガオの声は、少しだけ緊張していました。
ムクは、前に出ました。
体は小さく、足はふるえ、
顔は下を向いたままです。
どこからか、くすくすと笑い声が聞こえました。
ムクは思いました。
(どうせ、また失敗する。)
(また、笑い者になるんだ……。)
それでも、ムクは穴を掘りました。
必死に、必死に、土をかき分けました。
でも、ほかの子たちのような拍手は起きませんでした。
小さな拍手だけが響き、
すぐに、次の発表へと移ってしまいました。
ムクは、その場から逃げるように、
自分の穴へと戻りました。
「そばに行こう。」
ピピはガオといっしょに、ムクのあとを追いました。
暗い穴の中で、ムクは丸くなっていました。
「……土の中、好き?」
ピピがそっと聞きました。
ムクは、小さくうなずきました。
「……土の中は、だれも比べないから。」
「速さも、上手さも、点数も、ないから。」
「……ぼくが、ぼくでいられるから。」
しばらくして、ムクは震える声で言いました。
「ぼくは……いらない子なんだと思う。」
「ちゃんとできない子は、
ここにいてもいい理由が、ないんだと思う。」
ガオとピピは、うなずきながらムクの話を聞きました。
ただ、ムクのそばにいました。
そのとき、
土の奥から、かすかな音が聞こえました。
もぞ……もぞ……
「……だれか、いるの?」
ムクは、土を掘りました。
そこには、小さな虫がいました。
出口が分からず、土の中で迷っていたのです。
「……だいじょうぶ。今、外に出すね。」
ムクは、そっと、慎重に、
虫を傷つけないように土を掘り、
ゆっくり、地上へ導きました。
虫は、光の中へと飛び立っていきました。
ピピは言いました。
「ぼくたち、気づけなかった。」
「ムクは、こんな小さな声を、聞けるんだね!」
ガオは、ムクを見て言いました。
「ムクは、できない子じゃないよ。」
「気づく子なんだ。」
「小さな声にちゃんと気づいて、助けた。」
ムクは、すぐには信じられませんでした。
「……でも。」
「ぼくは、速く掘れない。」
「みんなみたいに、すごくなれない。」
ガオは、静かに答えました。
「速く掘れなくてもいい。」
「ムクは、だれかを助けた。」
「それだけで、ムクは必要なんだよ。」
ピピも言いました。
「ムクがいなかったら、
この虫は、今も、土の中で迷ってた。」
ムクは、しばらく黙っていました。
それから、小さな声で言いました。
「……でも、また失敗したら、
ぼく、いらないって言われるかもしれない。」
ピピは、ムクのそばに座って言いました。
「ムクができることは、
目立たないかもしれない。」
「でも、それは、だれかを守ってるんだよ。」
ガオも言いました。
「ムクの行動は、
だれかの心を、あたたかくする。」
「だれかの、居場所になる。」
ムクは、初めて、少しだけ顔を上げました。
「……ぼくは。」
「ここに、いてもいいの?」
ピピとガオは、迷いなく言いました。
「「いい!」」
ムクは、ボロボロと涙を流しました。
「ありがとう……」
「ぼく、はじめて……
ここにいていいって、言われた。」
ガオも、そっとムクのそばに座りました。
ムクは初めて、胸の奥が少しあたたかいことに気づきました。
そのあたたかさは、
まだ小さくて、すぐに消えてしまいそう。
それでも、
ムクは、知りました。
「ここにいていい」と言われることが、
どれほど、人を生かすのかを。
ホーホー爺からのクエッション!
Q だれかが失敗したとき、その子が安心できるのは、どんな言葉じゃと思うかのう。
Q 人を「できる・できない」で比べることには、
よいところと、困るところ、それぞれどんなものがあると思うかのう。
Q おぬしは、だれかを“期待”ではなく“結果”だけで
見てしまったことは、ないじゃろうか。




