ガオとピピの初めてのケンカ
ルゥと別れた後、ガオとピピは、道をまっすぐ歩きました。
道ですれ違う動物たちに挨拶をして、これから出会う友達を想像します。
深い森の奥を抜けると、まっすぐ大地が広がっていました。
たくさんの動物が集まって暮らす、岩山の集落がありました。
そこには、ライオンやゾウもいれば、ガゼルやミーアキャットもいる集落です。
そこは、強い者が前を歩き、弱い者は後ろに下がる。
誰も、それを疑わない村でした。
ある日、ガオとピピは、ミーアキャットのミルが岩山のふもとで、
強い動物たちの後片づけをしているのを見ました。
残った食べ物を集め、
こぼれた水を運び、
少しでも遅れると、怒られる。
それでもミルは、にこっと笑って言いました。
「だいじょうぶだよ。ぼくはこれでいいんだ。」
「ここでは、争わないことがいちばんなんだ。」
その目は、少し疲れていて、
でも、慣れてもいるようでした。
ガオの胸は、ぎゅっと痛くなりました。
「よくない!そんなの、ぜったいによくない!」
そう言って、ガオは強い動物たちの前に出ました。
「ミルをこき使うのはやめろ!
弱い者いじめだ!
食べ物も、仕事も、平等に分けるべきだ!」
集落は、一瞬で静まり返りました。
強い動物たちは、ガオをにらみつけました。
「うるさいオオカミだな。
よそ者が口出しするな。」
ピピは、ミルの震えている姿を見て、気づきました。
声を出したことで、
状況が、もっと危うくなっていることに。
ピピは、後ろで体をふるわせながら、ガオのしっぽをそっとつかみました。
「ガオ…やめよう…
ミル、怖がってる…」
振り返ると、ミルは顔色を変え、必死に首を横に振っていました。
「やめて!お願い…!
ここから追い出されたら…行くところがないんだ。」
ガオは、言葉を失いました。
「でも…間違ってるよ。
黙ってたら、ずっとこのままだよ。」
ピピは、小さな声で言いました。
「でも…正しくても、
誰かの居場所をうばうなら…
それは、ほんとうの助けじゃないよ…」
ガオは、ピピをにらみました。
「それじゃあ、ただ見てるだけでいいってこと?」
ピピは、その言葉に何も言い返せませんでした。
自分も小さくて弱い動物だからこそ、ミルの気持ちが痛いほどわかります。
でも、どうすればいいのか分からないことも、また、痛いほど分かっていました。
旅をはじめてから、ガオとピピは初めて言い争いをしました。
「なんでピピは分かってくれないんだ…」
その夜、ふたりは別々の寝床に分かれました。
―――――
次の日。
ガオはピピに聞きました。
「どうして止めたんだ?」
「間違ってることを、
見て見ぬふりなんてできない。」
ピピは、しばらく黙っていました。
それから、ぽつりと言いました。
「ぼくも……間違ってた」
ガオが、首をかしげます。
「声を出せば、よくなるって、
勝手に信じてた」
「でも、ミルは
“今、ここで生きること”を
選んでたんだと思う」
ピピの声は、弱く、でもまっすぐでした。
「ぼくたちは、
その選択を、ちゃんと聞こうとしなかった」
ガオは、何も言えませんでした。
正しさを守ろうとした自分。
やさしさを守ろうとしたピピ。
強い動物も弱い動物も、みんな一緒に場所で生きているんだ。
どちらも、
誰かの声を、最後まで聞けていなかったのです。
しばらくして、ガオがぽつりと言いました。
「……正しいことを言ったのに、
誰も、幸せそうじゃなかったなぁ。」
「ぼくは…
正しいことを言えば、世界は変わるって思ってた。」
ピピは、小さく笑いました。
「ぼくは…
黙って寄り添えば、守れるって思ってた。」
ガオは、ピピを見ました。
「ピピの言葉がなかったら、
ミルをもっと傷つけてた。」
ピピも、ガオを見ました。
「ガオが立ってくれるから、
ぼくは…声を出してもいいって思えた。」
ふたりは、しばらく静かに集落の様子を眺めました。
そして、ピピが、そっと言いました。
「……ねえ、ガオ。
もう一度、ミルのところへ行こう。」
ガオは、驚いてピピを見ました。
「なにもできないのに?」
ピピは、首を振りました。
「その代わりに、話を聞こう。」
ガオは、しばらく考えてから、うなずきました。
「……うん、聞く!」
ふたりは、ミルのもとへ行きました。
ミルは、また一人で片づけをしていました。
ガオは、そっと近づき、目を見て言いました。
「ごめんなさい。
ぼくたち、昨日は、ミルの気持ちも知らず、
出しゃばっちゃって。」
「だから…
今、聞かせてほしい。」
「ほんとうは、どうしたい?」
ミルは、驚いたようにふたりを見ました。
しばらく、何も言えませんでした。
やがて、小さく、小さく言いました。
「……ほんとうは……
みんなと、同じ場所でごはんを食べたかった。」
「……ぼくの居場所も、
ここにあるって、思いたかった。」
「でも、ぼくは弱い動物だから、仕方ないんだ。
変なこと言ってごめん。」
その声は、ふるえていました。
ミルは、胸がいっぱいになりました。
「……変じゃない。
それが、ミルの声だもん。」
ガオも、うなずきました。
ガオは、深く息を吸い、集落の真ん中へ歩き出しました。
「昨日は、勝手に声をあげて、ごめんなさい。」
強い動物たちが、こちらを見ました。
ピピが、ガオの隣に立ち、震えながらも言いました。
「ミルは、
特別になりたいんじゃありません。」
「ただ、
“ここにいていい”って、
思いたいだけなんです。」
しばらく、沈黙が続きました。
やがて、ゾウが低い声で言いました。
「……それは、
当たり前のことだな。」
ライオンも、視線をそらしながら言いました。
「……今まで、
気づかないふりをしていた。」
ガゼルが、ぽつりと言いました。
「……順番に、仕事を分けよう。」
ミルは、信じられないように、みんなを見ました。
目に、涙がいっぱいたまりました。
「……ありがとう。」
その声は、はっきりしていました。
―――――
その日から、集落は少しずつ変わりました。
強い者だけが前を歩くのではなく、
ときどき、歩幅をゆるめるようになりました。
弱い者だけが後ろに下がるのではなく、
ときどき、前に出られるようになりました。
ミルは、初めて、みんなと同じ場所でごはんを食べました。
最初は、緊張して、手がふるえていました。
でも、ピピが隣に座り、
ガオが向かいに座って、
ミルは、少しずつ、顔を上げました。
「……ぼく、ここにいていいんだ。」
その言葉は、
ミル自身の声でした。
―――――
夕暮れの岩山で、ガオとピピは並んで座っていました。
ガオは、ぽつりと言いました。
「ぼくは、
正しさで守ろうとした。」
ピピは、言いました。
「ぼくは、
やさしさで守ろうとした。」
ガオは、続けました。
「でも、
正しさだけじゃ、
守れなかった。」
ピピも、続けました。
「やさしさだけでも、
現実は、変えられなかった。」
ふたりは、同時に言いました。
「「……だから、一緒にやろう!」」
すると遠くで、ミルがライオンたちと楽しそうに笑っている声が聞こえました。
その声を聞いて、
ガオとピピは、顔を見合わせて、そっと笑いました。
ホーホー爺からのクエッション!
Qクラスにミルのような子がおったなら、おぬしたちは、どんな声をかけ、
どんなそばに立ってやれると思うかのう?
Qよかれと思ってしたことが、かえって、その子を困らせてしまうのは、どんなときだと思うかのう?




