天邪鬼なルゥ
ガオとピピの冒険がはじまってから、
気づけば、季節は変わっていました。
森には、じりじりとした日差しが降りそそぎ、
いつのまにか、暑い夏がやってきていました。
「ピピ〜……あつい……」
ガオは、長い毛をだらりと垂らし、
木陰にぺたんと座りこんでいました。
「もう歩いたら、とける……」
「ガオ……だいじょうぶ?」
ピピは、小さな手で葉っぱを持ち、
ぱたぱたと動かして、ガオに風を送っていました。
この森では、
たくさんの出会いがありました。
ウサギのミミ。
オオワシのトト。
キツネのネロ。
ネコのニコ。
カメのズシ。
楽しかったことも、
こわくて逃げたことも、
どれも、ちゃんと胸に残っていました。
ピピは、前より少し歩けるようになっていました。
それでも、自分より強そうな動物を見ると、
つい、ガオの後ろに隠れてしまうのでした。
ガオとピピは、日陰で休んでいました。
そのときでした。
草むらが、さわり、と揺れました。
「ひっ……!」
ピピは思わず声をあげ、
ぎゅっとガオの背中にしがみつきました。
そこに立っていたのは、
灰色と黒がまじった毛並みのオオカミでした。
鋭い目。
引きしまった体。
ガオより一回り大きい。
いかにも――
「強そう」なオオカミでした。
「……お、オオカミ……」
ピピは声をひそめ、
ガオの背中から顔を出せずにいました。
「なんだ、このチビリスは」
低く、ぶっきらぼうな声でした。
ガオは一瞬だけ苦笑いをして、
すぐに一歩、前へ出ました。
「ピピ。ぼくも、オオカミだぞ?」
そして、声をかけました。
「久しぶりだな、ルゥ」
オオカミ――ルゥは、
片方の口角を、わずかに上げました。
「……まだ覚えてたんだな」
(し、知り合い……?
でも……ルゥさん、こわそう……)
「忘れるわけないだろ」
ガオは、やさしく言いました。
「どうだか」
ルゥは鼻で笑いました。
その言葉は、どこか全部、逆向きでした。
「……ガオ、ルゥさん、こわい……」
「うん。ちょっとね」
それでも、ガオは目をそらしませんでした。
「仲間は?」
「一緒じゃないの?」
その瞬間、
ルゥの目が、ほんの一瞬だけ揺れました。
「仲間?」
「……そんなの、必要ない」
「一人のほうが楽だ」
ガオは、しばらく黙っていました。
「……本当に?」
「当たり前だろ」
けれど、その声は、
ほんの少しだけ硬くなっていました。
沈黙が流れました。
その沈黙を、
ガオは無理に壊そうとしませんでした。
「……群れってさ」
ルゥが、ぽつりと言いました。
「オオカミは、群れて生きるって
決めつけられてる」
「強くて」
「頼れて」
「なんでもできるってな」
少し、間がありました。
「でもさ……」
ルゥは前足を、ぎゅっと握りました。
「それに応えられなかったら……
いらなくなる」
「期待されて」
「違ったら、がっかりされて」
「それが……悲しかった」
その声は、
とても小さくて、
とても重いものでした。
「だから、先に突き放した」
「冷たくして」
「嫌なやつになって」
「一人のほうが、
マシだと思った」
ピピの胸が、ぎゅっと痛みました。
(本当はさびしいんだ……)
ガオは、静かに言いました。
「ぼくはさ。
自分の正しさが、
いつも正しいわけじゃないって
最近、やっとわかったんだ」
「強いって思われても」
「期待されても」
「それに、
ぜんぶ応えなきゃいけない
わけじゃないのかもって思うんだ。」
ルゥは、ちらりとガオを見ました。
ピピも、勇気をふりしぼって前に出ました。
「ぼ、ぼく……ピピです」
「こ、こわがりで……
すぐ隠れちゃいます」
「……無理するな」
「弱いなら、弱いままでいろ」
きつい言い方でした。
けれど、ガオは首を振りました。
「それ、やさしさだろ」
「期待しないって、
信じてないってことじゃない」
「うまくできなくても、
ルゥの居場所はちゃんと、ある」
ルゥは何も言いませんでした。
でも、肩の力は、少し抜けていました。
暑い夏の森で、
三匹は、同じ木陰にいました。
強さも。
弱さも。
天邪鬼な気持ちも。
全部まとめて、
そこにありました。
「……忘れろ」
「聞かなかったことにしろ」
「かっこ悪いだろ」
「怖いって言えたのは、
強いと思う」
ルゥは言葉を飲みこみ、
小さくつぶやきました。
「……うるさい」
その顔は、
少しだけ、赤くなっていました。
しばらくして、
ルゥは背中を向けたまま、
小さな声で言いました。
「……ありがとう」
それだけ言うと、
振り返らずに、群れが住む場所へ、
ゆっくりと戻っていきました。
強いから、期待される。
強そうだから、頼られる。
期待されることも、頼られることも、うれしい。
でも――
強いふりの奥にも、
「助けてほしい」と思う心があることを、
ガオとピピは知りました。
ガオとピピは、
そのことを、
ルゥの背中から、そっと学んだのでした。
ホーホー爺からのクエッション!
Q ルゥは、ひとりを選んだ。それは、逃げじゃったか?
Q 誰かの「期待」に応えようとして、自分の気持ちを、後ろに置いておらんかのう?
Q おぬしは、知らぬ間に「強い役」「我慢する役」「頼られる役」
そんな役を、誰かに押しつけてはおらんかのう。




