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嫌われたくないニコ

集落をいくつか越えた先で、

ガオとピピは、あるネコの住処にたどり着きました。


そこで出会ったのは、

真っ白な毛並みのネコ、ニコでした。


ニコは、いつもやさしい笑顔で、

困っている動物がいれば、すぐに駆け寄りました。

この集落では、頼れるお姉さんのような存在でした。


誰かが話せば、うなずき、

誰かが言い合えば、間に入りました。


「どっちも、わかるよ」

「まあまあ、そうだね」


声はやわらかく、

言葉に、角はありませんでした。


ガオとピピは思いました。

「ニコ、やさしいね」


ほかのネコたちも、ニコが好きでした。

少なくとも――そう見えていました。


ある日、小さなもめごとが起きました。


新しく見つけた日陰の場所を、

誰が使うか、という話でした。


二匹のネコが言い合いになり、

やがて、みんなの目がニコに向きました。


「ニコは、どっちがいいと思う?」


ニコは、少し笑いました。


「うーん……

 どっちでもいいんじゃない?」


場は、それで静まりました。


誰も怒りませんでした。

誰も泣きませんでした。


でも、その日陰は、

結局、だれも使いませんでした。


「じゃあ、また今度でいいか」


そう言って、話は流れていきました。


ガオの胸に、

小さな引っかかりが残りました。


それからも、ニコは選びませんでした。


食べものを分けるときも。

役目を決めるときも。

寝る場所を決めるときも。


「どれでもいいよ」

「みんなが決めたほうで」


最初は、平和でした。


けれど、少しずつ、

困りごとが増えていきました。


決まらないまま、時間が過ぎました。

だれかが待ちました。

だれかが、ため息をつきました。


数日後。

今度は、はっきり選ばなければならない出来事が起きました。


二匹のネコが、

同じ大事な役目をやりたいと言い出したのです。


どちらかを選ばなければ、

冬の準備が進みませんでした。


みんなが、またニコを見ました。


「ニコ、どう思う?」


ニコは、言葉を探しました。

けれど、口を開いた瞬間、昔の思い出がよぎりました。


意見を言ったあと、静まり返った空気。

離れていった背中。


笑顔も、出てきませんでした。


しばらくして、

ニコは、ぽつりと言いました。


「……選ばないほうが、

 傷つかないでしょ?」


その場は、静かになりました。

重たい沈黙が落ちました。


その日、役目は決まりませんでした。

準備は遅れ、

みんな、疲れた顔で散っていきました。


その背中に向かって、

あるネコが、低く言いました。


「……ニコって、

 みんなに“いい顔”しすぎだよね」


ニコの胸が、きゅっと縮みました。

反論は、できませんでした。


その夜。

月明かりの下で、

ニコは一人、丸くなっていました。


ガオとピピが、そっと隣に座りました。


「……どうして、選ばないの?」


責める声ではありませんでした。

たずねる声でした。


ニコは、しばらく月を見ていました。


それから、ぽつりと話し始めました。


「昔ね……

 意見を言って、嫌われたことがあるの」


正直に言って、

仲間から外れたこと。


「それが、すごく怖くて」


「だから決めたの。

 感じよくいようって」


ニコは、少し笑いました。


でも、その笑顔は、

すぐに消えました。


「本音を言わなかったらね……」


「そのうち、

 本音が、どこにあるのか

 わからなくなったの」


ガオとピピは、何も言えませんでした。


「正直に言えばいい」

そんな言葉は、簡単すぎて、言えませんでした。


だからこそ、ピピはそっと言いました。


「いい人でいたいって思う気も、

 まちがいじゃないと思う。

 だからこそ、なやむこともあるんだよね」


その言葉に、ニコは悲しそうに微笑みました。


次の日。


昼の食べものを配るとき、

ニコは、手を止めました。


胸が、どきん、と鳴りました。


「……今日は」


まわりが、しんとしました。


「今日は、これがいいです」


一瞬、

あるネコが顔をしかめました。


「え、そっち?」


空気が、少しだけ、ざらっとしました。


でも――

だれも、立ち去りませんでした。


「……じゃあ、それでいこうか!」


そう言って、

食べものは配られました。


ニコは、目を見開きました。


胸の奥が、

ほんの少しだけ、ゆるみました。


次の場所へ出発する朝。


ガオは、ニコに言いました。


「にげるほうが、楽なときもあります。

 でも、ちゃんと話せたら、

 もっと仲よくなれる気がしました」


ニコは、答えませんでした。


でも、

いつもの笑顔より、

少しだけ、不器用な顔をしていました。


歩きながら、

ピピが言いました。


「やさしいって、

 全部『いいよ』って言うことじゃないんだね。

 本当の気持ちを伝えるのも、

 やさしさなんだと思いました」


ガオは、静かにうなずきました。


ガオとピピは、知りました。


選ばないことは、

自分を守ってくれます。


でも――

選ばなければ、

だれかも、自分も、

前に進めなくなることがあるのです。


すると、

後ろからニコの声が聞こえました。


「ガオ、ピピ、ありがとう!」

「また遊びに来てね!」


ニコの声は、

いつもと同じくらい、やさしかったです。

でも、どこか少しだけ、

前を向いている声でした。


「また遊びに来るね!」


ふたりは、笑顔で手を振り返しました。


ガオとピピの旅は、

また一歩、

続いていくのでした。

ホーホー爺からのクエッション!


Q ニコはのう、だれかを傷つけんようにと、“選ばぬ道”を選んだそうじゃ。

 さて、そのとき、いちばん置き去りにされておったのは、だれじゃろう?


Qもし、おまえさんが、『本当の気持ちを言えば、関係がこわれるかもしれん』

そう思ったとき……おまえさんなら、どうする?

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