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泣けないママのモモ

ムクたちと別れたあと、

ガオとピピは、次の村へ向かいました。


たどり着いたのは、

サルたちが暮らす、大きな木のおうちでした。


中から、にぎやかな声が聞こえます。


「ママ、まだ?」

「ママ、こっち!」

「ママ、けんかした!」


「はい、順番ね。」

「大丈夫だよ。」

「ママがいるよ。」


声の主は、

たくさんの子どもを育てる

お母さんサルのモモでした。


その言葉は、

やさしくて、

でも、どこか薄く、乾いて聞こえました。


大丈夫。

大丈夫。

大丈夫。


ガオとピピは、何度もその言葉を聞いていました。


雨の日も、風の日も、雪の日も。

モモは、止まらずに動き続けていました。


泣く子を抱き、

怒る子をなだめ、

笑う子に笑い返していました。


でもその目は、

いつも少しだけ、遠くを見ているようでした。


その夜。


子どもたちが眠り、

家が静かになったころ。


モモは、ひとり、

太い木の枝に座り込んでいました。


月の光が、

その背中を細く照らしていました。


「……はぁ。」


息は、長くも短くもなく、

ただ、重たく聞こえました。


「泣いちゃだめ。」


そう言い聞かせるように、

小さくつぶやきました。


「泣いたら、壊れちゃう。」


すると、後ろから声がしました。


「……モモ?」


振り向くと、

ガオとピピがいました。


「モモ、ずっと働いてるね。」とガオが言いました。

「ちゃんと休めてないよね。」とピピが言いました。


二人の心配の声に、モモは笑おうとしました。


でも、笑顔の形だけ作って、

声は、うまく出ませんでした。


「わたしは、大丈夫だよ。」


その言葉は、

何度も使いすぎて、

もう、自分にさえ届いていないようでした。


「……ねえ。」


モモは、月を見たまま言いました。


「もし、わたしが倒れたら、

この家は、どうなると思う?」


ガオとピピは、何も答えられませんでした。


「最近ね、

疲れたって言葉を、どこにしまったのか、

思い出せなくなったの。」


「泣きたいって思っても、

泣く場所が、なくなっちゃった。」


二人は、静かにモモの声を聞いていました。


「泣いたら、

何も守れなくなる気がして。」


「一度泣いたら、

もう、立てなくなりそうで。」


しばらく、風の音だけが流れました。


ピピが、そっと言いました。


「……泣かない人が強いんじゃないよ。」


「泣けない人のほうが、

ずっと、苦しいんだと思う。」


モモの目から、

ぽろっと涙が落ちました。


「あ……」


モモは涙を止めようとしました。

でも、止まりませんでした。


ポタポタと涙が、

小さな音を立てていました。


「……ごめんなさい。」


ガオは、すぐ首を振りました。


「謝らなくていいんだよ。」


ピピも言いました。


「泣くのは、壊れることじゃないよ。」


「壊れそうなまま、

一人で立っているほうが、

ずっと、苦しいんだと思う。」


モモは、肩を震わせていました。


「守る側じゃなくなったら、

わたし、何者でもなくなる気がして……」


ガオは、少し考えてから言いました。


「守る人ってね、

ずっとがんばり続ける人じゃなくて、

ちょっと休んでも、

そこにいていい人なんだよ。」


モモは、

しばらく何も言いませんでした。


ただ、

涙だけが、答えでした。




次の朝。


モモが目を覚ますと、

家の中が、妙に静かでした。


「……あれ?」


部屋を出ると、

子どもたちとガオとピピが、

ぎこちなく動いていました。


水はこぼれ、

床はまだ濡れ、

朝ごはんは、少し焦げていました。


「ママだ!」


子どもたちは、モモを見つけて言いました。


ガオは言いました。

「今日は、

ぼくたちが、立ってみたんだ!」


モモの胸が、

ぎゅっと、音を立てました。


「……ありがとう。」


それだけ言うのに、

喉が、ひどく、つまりました。


モモは、椅子に座りました。


「ねえ、みんな。」


子どもたちが振り向きました。


「ママはね、

強いんじゃなかった。」


「ただ、

倒れるのが、怖かっただけだったの。」


子どもたちは、モモの話を静かに聞いていました。


「でも、

今日のこの家を見て、

少しだけ、思ったの。」


「わたしが立たなくても、

家は、消えないんだって。」


ガオが聞きました。


「じゃあ、

また、重くなったら?」


モモは、少しだけ、間を置いて言いました。


「……そのときは、

重いって、言ってみるね。」


ピピは、静かにうなずきました。


「言ってくれたら、

また、みんなで守るよ。」


子どもたちが言いました。

「ママ、いつも我儘言ってごめんね。」

「ママ、いつもありがとう!」


モモは、子どもたちを見回して言いました。


「完璧じゃなくて、

いいんだね。」


「うん。」とガオが言いました。


「大人だって、

さみしくなったり、

助けてほしいときがあるんだよ。」


その日、モモは、

いつもより、たくさん座っていました。


何もしていない時間に、

罪悪感を覚えながら、

それでも、座っていました。


心は、まだ重く感じていました。


でも


「重い」と、口にしていい場所が、

ここにありました。


それだけで、

背中の荷物は、ほんの少し、下ろせました。


すると、外からガヤガヤと声が聞こえました。


「パパだ!!!!」


子どもたちが、木の下を見つめて言いました。


どうやらパパは、

数か月、仕事で出かけていたようでした。


モモは、緊張がほどけ、

ほっとしている様子が見えました。


ガオとピピは、モモの安心した顔を見て、

この木を出発することにしました。


「また遊びにきてね~!」

子どもたちの元気な声が聞こえます。


「助けてくれてありがとう!」

モモの声も聞こえました。


モモたちと別れたあと、

ガオがぽつりと言いました。


「ボク、大人になると、

強くなるだけだと思ってた。」


ピピも言いました。

「知らなかっただけで、

大人も心の支えが必要なんだね。」


ガオが言いました。

「お母さんに会いたくなってきたなぁ。」


ピピも言いました。


「だいじょうぶ?じゃなくて、

重くない?って、

聞けるようになりたいね。」


ガオは、うなずきました。


「うん。

それなら、

ほんとの声が、聞こえる気がする!」


二人は、

故郷の家族を想いながら、眠りにつきました。

ホーホー爺からクエッション!


Qモモはのう、どうして「大丈夫」と言い続けておったと思うかのう?


Q大人がのう、弱さを見せるのは、どうしてこんなにも難しいと思うかのう?


Qこのお話を読んで、自分にはどんなことができると思ったかのう?

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