にばんえき
腐敗臭のこもった倉庫の扉を開け、ボクは少女の手を引きレールの上を歩いていく。他の麻袋も調べてみたが、結局生き残っていたのは彼女一人だった。
慣れない陽の光にふらふらしながらも砂利と枕木を交互に踏みしめて歩く。目的地の駅の看板がようやく見えてきた頃には少し日が傾いていた。
念の為に廃材で作ったスリングショットを右ポケットにいれ、軽く握りしめた。もし家畜が野生化していたら、襲いかかって来るかもしれない。当然こんなの武器にもならないかも知れないけれどないよりはマシだ。
「この先に村がある。畑も牧場もあって食料はそこからもらっていたんだ。」
「人、いる?」
「⋯うーん。」
少女の不安げな問いになんと返せばいいものか悩んでいると、村の屋根らしきものが視界に入った。
正直、村人の生存は絶望的だと思う。普段なら小麦粉をひく風車の音も焼けたパンの匂いも全くしない。賑やかな声は勿論、農作業を営む人達の声や物音一つしなかったのだ。
「にぃに⋯ついた?」
疲れたせいか、まだ舌足らずであどけない声で村の様子を伺う姿はちょこまかと可愛らしい。しかし、廃倉庫があの状態ではここもあまり期待は出来ないかもしれない。
とりあえず、まずは安心して休める場所を探す。その後に食料を確保すればいい。あれだけの長距離を歩いて疲れてないはずがない。
「もう少し歩ける?」
「うん⋯。」
小さな手を引いて、建物の扉を開け一つ一つ覗き込んでいく。少しカビ臭くて埃っぽい。村をぐるりと一周してみたが、どこにも村人の姿はなく少し寂れたような様子だった。だが、幸いにも寝れそうな場所と食料保管庫だけは無事見つけることが出来た。
少し萎れた果物と野菜をいくつか手に取り、少女と共に民家の中へと足を運ぶ。さすがに疲れたのか、少女は口数もなく少し眠そうに瞼をこすっていた。
「今日はこれを食べて休もうか。」
少女は無言でこくりと頷き、受け取ったリンゴに口をつける。甘い香りのする果実は少し柔らかく、少し変わった味がした。野菜も同じく、新鮮ではなかったがお腹を満たすには問題はなかった。
ふと横を見ると少女はうとうとと頭を揺らしていた。お腹いっぱいになって眠くなってきたのだろう。小さな体を抱き抱えて、近くにあったベッドへと運ぶ。ふかふかとは言えないが床よりかはマシな寝床だ。
「おやすみ。」
眠りについた少女の頭を優しく撫で、そう呟いた。そして、ボクは食事を終えたテーブルの上を片付けて明日の準備を始める。ここには数日過ごしていけるだけの食料しか残っていない。生き延びる為にはまた歩いて次の村へと行くしかないのだ。
「よし。」
民家で見つけたリュックに食べられそうな物を詰めていく。あとは明日、水筒に水を汲んでいけばいい。準備を終えると急に眠気が襲ってきた。
ボクは少女の隣のベットに寝そべって、そのまま意識を手放す。もしかしたら、長い旅になるかもしれない。そう思うと気が遠くなるけれど、隣に守りたい存在がいる。
「コケコッコー!」
鶏の鳴き声に驚き、目が覚める。隣を見るとすやすやと眠りにつく少女の顔が見えた。どうやら鶏の目覚ましも彼女には効果がないようだ。
ボクはベッドから起き上がり、昨日準備した荷物と空の水筒に目をやる。彼女が目を覚ます前に朝食の準備と水を汲みを済ませておこう。そう思い、水筒を手に家を出た。
朝日が眩しい。こんなにものどか村なのにいるのはボクと少女と鶏たちだけ。村人たちはどこへいったのだろうか?荷物はそのままで人だけが突然消えてしまったような光景に疑問を抱く。
村の人がどこかへ食材を送っていたのは聞いた事があるが、それがどこなのかは知らない。もしかしたら、そこにみんないるのだろうか?疑問は尽きないが、今は手にした水筒に水を入れる為、井戸へと向かう。
村の中心に井戸がある。ボクは近くにあった桶を落とし、水を汲む。
「冷たい⋯。」
水の貼った桶に自分の顔が映る。黒い髪にツギハギの肌。少女とは似てもに使わない姿。だけど、彼女は妹だ。不思議とそう確信していた。
桶から水筒へと水を注ぎ、朝食用の野菜の泥を水で洗う。そうして準備を終えると、少女の眠る家へと踵を返す。
カチャ。
ドアを開けると起きたばかりの少女が半身を起こして、辺りを見渡していた。
「おはよう。」
「おは⋯よ。」
眠そうにしながらも、少女はボクの方へ駆け寄り抱きついてくる。明るい金髪が視界を覆った。
「ご飯食べたら、次の村に行こう。ここにはもう食料がないからね。」
そう言って、ボクは少女の頭を軽くなでる。
ここから先へはボクも行ったことのない場所だ。いや、その先のずっと向こうから来たと言う事だけは分かってる。だけど、それも随分前のことで記憶にもないし、何よりも窓ひとつない貨物列車に積まれて来たから外の風景を見ることすら出来なかった。
朝食を食べ終えると、リュックを背負い再び駅のホームへと向かう。次の村までどれくらいかかるのでも分からない。
「行こう。」
「うん。」
手を繋いで、レールの先へと足を進める。もう一人じゃない、二人で生き残る為に歩き続けるんだ。




