はじまり
ツンと鼻をつく刺激臭で、ボクは重いまぶたを開ける。まだ暗い部屋の中には動かなくなった兄弟または姉妹たちが転がっている。
「⋯ぅ。」
少しは慣れたと思っていたが、まだこのまとわりつく臭いと光景には胸がつかえて言葉が出ない。
一週間前に列車が兄弟たちを捨てに来て、それから定期的に来ていた荷物たちは届かなくなった。当然食料も水もない。
「よっ、と。」
少し鼻が慣れたきた。もたれかかっていた木箱から立ち上がり倉庫内をキョロキョロと見渡す。だけど、やはり新しい物資は届いてないようだ。いつもなら2、3日に一回は
廃材や食品廃棄物を運んで辺りに捨てていくのだけれど。
もう期待は出来ないのだろうか、そう考えていた時近くの麻袋がかさりと音を立てた。この際、ネズミでも虫でもいい。空腹には耐えられなかった。
急いで音の下方へと近づき辺りに耳を傾ける。すると小さな麻袋がかさりと動いたように見えた。
ボクは急いで麻袋の紐をといていく。硬い結び目を少しずつ緩めながら。その間も麻袋は小刻みに揺れていた。
そして、ついに紐が解かれたと同時にするりと麻袋が地面に落ちた。中身は少しだけ想像していたものだ。小さな金髪の女の子。歳はボクより4つくらい下だろうか?
「はじめまして、ぼくの妹。言葉は分かるかい?」
その言葉に少女はきょとんとした顔で見詰めてくる。もしかしたら、言葉も読み書きも覚えられずに廃棄されてきたのかもしれない。
「言葉、ちょっとだけ。」
小さなか細い声で返事した。よく見たら服も周りに比べたら新しいし肌ツヤも良い。そんな子がなぜ廃棄倉庫に?と疑問があったが、それは後まわしにする事にした。何故なら彼女もまたお腹をさすって元気なさげにしていたのだ。
ここにはもう食糧はのこってない。あるとしたら貨物列車のレールを辿った先にある村。行ったことは無いけれど、ここに来る時に畑が広がっているのを見たことがある。
「ボクは食料を取りに行く。君は、どうしたい?」
屈んで少女と目を合わせると、青い宝石のような瞳と目が合った。よく見れば他の兄弟に比べたら肌も白く肉付きも悪くわない。
「ひとりは、ヤダ…。」
彼女の震える声にボクは決断した。消して安全な道ではないが一人よりも心強い。
「それじゃあ、行こう!」
彼女の手をとり、倉庫の出口へと足しを運ぶ。彼女が転んでしまわないようにゆっくりと。
さよなら、手遅れになった兄弟たち。ここにはもう帰ることはない。僕たちは外の世界にむかうのだ。まだ見ぬ兄弟と安定した食事を求めて。
倉庫の扉を開く。改めて彼女を見るとあまりにも青白血色も悪い、早く十分な食事と睡眠を与えなくては。
列車のレール、枕木を1個飛ばして歩く少女。旅はまだまだ長い。だけど、足を止めたりはしない。
お互い死なない為にも、食事を得る為にも。 そして、まだ見ぬ生きている兄弟たちに会うために。
僕たちはレールの上を歩いていく。死体探しでもなく、今を生きる為に…。




