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降りないシャッター

2023年12月26日

真里の不明瞭な封書から1週間が経過した。

出来るだけ平穏で、意識しない生活を心がけていたが我慢できず、僕は彩香さんにこの経緯を話していた。


「僕はどうにもよくわからなくて。鍵を返す=終わりは理解しているんだけど、引っかかるんだよな」


彩香さんはここ最近、僕の出来事を自分事のように捉えていて、何故かこの話をするときは興味をそそられている様だ。まるでゲームを楽しむかの様に。。

僕が話をすると、少し沈黙があり


「うーん、前にも言いましたが、ガッキーはサヨナラすべきだけど、自分から閉じることができない。例えるならシャッターを閉め始めたんだけど、何かに引っかかって、完全に下ろせないでいる。そんな感じな気がします」


彼女はこうも続ける


「元カレであって、お互いをよく知っている。

傷つけたくない優しさもあるかも、、だけどそれなら“ありがとうございました”の“した”と過去形にすれば良いのに。最悪ブロックすれば良いし、ここまでのこちら側の行動にストーカーの様な要素はないですしね。。」


また、少しの沈黙の後


「やはり、迷いがある。完全に失う準備ができていない。コレですね。」


今日の彩香さんは本当によく話す。ゲームも最終局面の様だ。


“シャッターを完全に下ろせない”


完全に下ろせば、閉めた側(真里側)は暗闇となり、完全に下さなければ隙間(僕側)から光が差す。


彩香さんとの電話を切ると不在着信が入っていた。真里の退職日に連絡先を交換した同僚だった。


「ごめん、電話してて出られず。。どしたの?」


「真里さんから連絡があってさ。」


「あ、そうなの。えっと、、確か、、真里さんて体調崩して退職した人だよね?」


鼓動が止まらなかった。


「なんか新しく就職したみたいよ。“元気ですか?”って突然でびっくりした」


「そうか。再就職決まったのだね。それは良かった。。」


「“今度、ご飯行きましょう”だってさ」


「おっ、良いじゃん。良いじゃん。いいなぁー。。。


それはそれで、別の話なんだけどね。。あの件なんだけど、、」


僕は仕事の話題に変えた。


同僚は僕と同じ歳で未婚。彼の方が入社は早く、僕が入社した頃は戸惑う僕を支援してくれた、いわば親友と言える仲だった。

ただ電話魔であり、僕の仕事の終わりを狙って週の半分は電話をかけてくる。加えて話を盛る癖があって、他の同僚から聞いた話と彼から聞いた話には大きな差があった。

寂しいのだ。

今夜は真里からの連絡が嬉しかったのだろう。


ただ、真里は僕とその同僚が“毎日の様に電話している”ことを知っているし、真里といる時に同僚から着信があった時は


「彼氏からですか?」


よく茶化されたものだ。


真里とその同僚は一緒に仕事したことがないし、今まで、真里、同僚のそれぞれから、それぞれのエピソードを聞いたことがなかった。


僕は電話を切った後、しばらく何も考えられずにいた。頭の中で繰り返されるのは、このタイミングでの真里の動きと、その意味だった。真里がなぜ、5ヶ月の沈黙を破り、鍵を返却してきた後に、わざわざ僕の同僚に連絡を取ったのか。


彼女は僕の様子を知りたかったのか?


鍵を返したことで、僕が何らかの反応を見せるかを待っていたのか?


でも、僕は何もしなかった。静かに受け入れた。


封書に書かれた住所の不透明さも気がおかしくなりそうな僕を更に助長した。


闇に誘いたいのか?


真里はそれにレスポンスがないことに、何かを感じ取ったのだろうか。僕がまだこの地で生きているのか、心のどこかで確認したかったのかもしれない。

直接ではなく、僕の行動を知っている同僚を介して。

その同僚が、僕との電話のやり取りを頻繁にしていることを真里は知っていて、だからこそ、彼を通じて、僕の状況を少しでも探ろうとしたのだろう。

そう考えると、彼女の意図が見え隠れする。表面的には新しい生活に踏み出したかのように振る舞いながら、心の奥底では僕への未練や迷い、もしくは確認したい何かがあったかも知れないと。何もかもが終わったわけではなく、彩香さんが僕に教えてくれた


“完全にはシャッターを下ろせない”


真里がいたかも知れない。


鍵を返却しても、何も変わらなかった僕の姿勢。

それに対して彼女はどう思ったのか。

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