2026のFeb
僕が新しい職場に来てから、二ヶ月が経っていた。
静岡の会社を、わずか半年で辞めた。
何を求めているのか、自分でもうまく言語化できないまま。ここ数年、ずっとさまよっている感覚だけは消えない。
それでも仕事だけは、途切れずに続けている。
今度の職場は、これまでとは毛色が違う。
部下は何十人もいる。地元の高校を卒業し、そのままこの会社に入り、ほとんど一つのコミュニティの中で生きてきた人たち。どこか、僕の田舎の同級生に似ている。
外でも通用する人材は、確かにいる。でも多くは、この場所の外では苦労するだろう。そして僕は、その渦の中に立っている。仕事のことだけを考え、
その日の課題を潰し、人の感情を調整し、数字を整える。
帰宅すると、食生活は上京した頃と大差ない。
節約が好きなのか、贅沢ができない体質なのか、自分でもわからない。
車は相変わらずスバル。
走行距離は十三万キロを超えようとしていた。
真里と一緒に買ったときは、八万キロだったはずだ。
ふと、あの中古車販売店の匂いを思い出す。
彼女が、紺色のハイカットシューズのつま先で床を軽く叩きながら、
「紺がいいかな?」
と、何気なく言ったあの声。
助手席に座ったのは、ほんの二回。
それでも、エンジンをかけるたびに、
一瞬だけ、その横顔が浮かぶことがある。
でも、それはもう痛みではない。
そして懐かしさでもない。
ただ、事実のように静かにあるだけだ。
この四年間、五万キロ以上を、僕とスバルは走り続けた。彼には御礼をすべきだ。
光のほうへ舵を切っているつもりだった。
でも、それが光なのか影なのか、僕もスバルも正直わからない。
未来のプランは、ほとんどない。
同僚に誘われれば「行きます」と答える。
だが心は動かない。酒を飲み、夜遅く帰る部屋は、
札幌の冬を思わせるような冷たさだ。
昔なら、酔った勢いで感傷的になったかもしれない。
真里のことを考え、胸がざわついたかもしれない。
でも今は、それすらない。
記憶はある。感情が、ついてこないだけだ。
明日、僕は何を迎えるのだろう。
五年後。
十年後。
何を成果として残しているのか。
金銭でもない。
恋愛でもない。
役割を果たし続けたその先に、何があるのか。
この二ヶ月は、楽しくもなく、憂鬱でもなく、ただ静かに摩耗していく時間だった。
さあ、明日も朝が早い。
体調だけ整えて、感情を平らにして、楽しくもない、憂鬱でもない明日を、また一日、そんな2月を通り過ぎよう。




