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光が射す、その前に  作者: march


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31/31

沈む太陽、僕の夜明け

元日。

年が変わったという実感は、ほとんどなかった。ただカレンダーの数字だけが、静かにひとつ進んだ。


僕は車を走らせていた。横浜から鎌倉の方向へ。初詣に行こう、と決めていたわけではない。行き先を決めないまま動いていないと、思考だけが先に進みすぎてしまう気がした。


金沢八景から鎌倉へ抜ける山道を登り、下りきったところで警察官に止められた。

「三が日はこの先、入れません」

葉山のマリーナ方向へ誘導される。拒まれたというより、最初から選ばせる気がなかった、そんな口調だった。


134号線に出ると、夕方の海沿いは人で溢れていた。

カメラを構えた外国人、立ち止まるカップル、理由のよくわからない期待を抱えた集団。鎌倉学園のあたりは、いつの間にか“何かの聖地”になったらしく、人の密度だけが異様に高かった。左手に江の島が見えた。そのまま走った。曲がらなかった理由は、説明できない。


小田原方面へ向かう道すがら、真里は今、何をしているのだろうか、という考えが浮かんだ。浮かんだ、というより、ずっと頭のどこかに居座っている問いだ。


元日をどう過ごしているのか。誰かと一緒なのか、一人なのか。そもそも、今も“元気”という言葉が使える状態なのか。でも、その想像には温度がない。愛とか、切なさとか、そういう感触とは違う。もっと乾いた、確認作業に近い感覚だ。


あの人は、確かに存在していたのだろうか。。。


そんな疑問に、たまに行き着いてしまう。


小田原には四年ほど住んでいた。初詣をした記憶はない。小田原城には何度も行った。真里と一緒に。街の名前や景色は思い出せるのに、彼女の存在だけが、輪郭を失い始めている。


結果的に、箱根湯本から箱根新道へ入り、そのまま地元の方向へ車は向かっていた。考え事をしていると、行き先はだいたい“元に戻る”。


三島大社の駐車場に車を入れた。ここは、幼い頃から年越しのたびに父や母と来ていた場所だ。当時は、地元にあるただの神社だと思っていた。後になって、源頼朝や鎌倉との深い歴史を知り、真里と夢中で観ていた大河ドラマの記憶が、遅れて重なった。


砂利道を歩き、手を清め、参列する。作法は身体が覚えていた。願い事は、言葉にならなかった。

振り向くと、「幸運みくじ」という箱があった。二百円を入れ、引いた紙を開く。そこには「大吉」と書かれていた。


今のまま進めばよい。

仕事運あり。

金運あり。


正直に言えば、それを全面的に信じたわけではない。でも、否定するほどの元気もなかった。ここ数年、自分の選択が正しかったのかどうか、ずっと疑問符を抱えたまま生きてきた。その疑問に、初めて「それでもいい」と言われた気がした。


帰り道、地元で有名な寿司屋に寄り、少しだけ食べた。味の感想は、特に残らなかった。


再び車を走らせる。

翌日は箱根駅伝で賑わうであろう道を、夜の静けさの中で抜けていく。鎌倉の海沿いを通る。夜は交通規制もなく、遠くに、鶴ヶ丘八幡宮へ続く通りが見えた。数年前、真里とその近くに車を停め、手をつないで坂を登ったことを思い出す。


あのとき、僕は祈っていた。

彼女の体調のこと。

未来のこと。


でも、その祈りが何かを変えた実感は、今はない。

ラジオから流れる音を聞きながら、年明けという行事と、何かが始まるはずだという空気だけが先行するこの日を、僕は少し引いた場所から眺めていた。


真里は、今、何をしているのだろう。


それを考え続けている自分自身に、

少し疲れている。それでも、大吉のおみくじをポケットに入れたまま、僕は今年も進んでいくのだろう。

もちろん確信はない。

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