バカな虫と愛すべきか?の仲間たち
1週間後には辞めるくせに、僕は今日も律儀に定時に出社していた。本当のところビクビクしているのに、
“俺は何も後ろめたいことはありませんけど?”という
クソみたいな清潔感を、わざと顔に貼りつけて。
自分で言っていて反吐が出る。
だがこのブタ小屋では、こういう「清潔な腐敗」だけが通貨になる。
虫である僕は、その通貨を今日もせっせと磨いていた。
ああ、ほんと気持ち悪い。
部屋に散らばっている虫ケラどもは、相変わらず事なかれ主義で、嘘くさい誠実さを全身に塗りたくって、まるで自販機の光を頼りにしか動けない油と埃まみれの夜の虫みたいに、チョロチョロと目の前を飛び回っている。
こいつらは20年以上、“会社”というゲージに飼われてきた家畜どもだ。そのゲージの中でしか呼吸できず、そこで産んで、喋って、太って、腐っていく。
その頂点に立つのが、ボス豚だ。
見た目も心も醜悪そのもので、
なのに自分だけは“世界を知っている”と
壮大な勘違いをしているゴミ。
そして今日もブタ声で吠える。
「我々は世界一の企業になる!」
いや、お前の脂ギトギトの顔面と、その腹回りの脂肪をまず世界基準にしろよ。鏡を割るなよ。
そう思っても、僕は虫だから言わない。羽を震わせて、飛び出したくなる衝動だけが背中でザワザワしていた。
そんな豚小屋にも、例外がいた。
雌虫だ。
美人で、入社1年目で、僕と同じくキャリア採用の異端者。
この異臭と不協和音まみれの豚小屋で、唯一“外の空気”をまとった存在。
長澤まさみに似ている。
だから豚どもは、蒸し暑い夏の夜に自販機の光に
狂ったように群がる汚い虫のように、
全員彼女に吸い寄せられている。
鼻の下を伸ばして。
股間のあたりに希望だけぶら下げて。
見ていて吐き気がする。
彼女は飛べる羽を持っている。僕と違って。
今日はどのタイミングでツバサを広げるのだろう。
僕より先に、ここから飛んでいくのか。
それならそれで美しい。
僕も飛び立ちたい。
こんな陰気で陰険な豚小屋から。会議のたびに、豚の脂の匂いと偽善と保身が混ざった腐敗臭がする。
飛ぶのなら、高速道路の上まで飛び、フロントガラスに真正面から激突して、僕という虫の人生を、茶色い体液のしぶきとして世界に刻みつけてやりたい。
それくらい汚い終わり方のほうが、
よほど誠実だ。




