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光が射す、その前に  作者: march


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正しい事ばかり選べない

2025年4月28日

引っ越しに慣れすぎている僕は、費用を抑えるために引越し屋のフリータイム制度を利用した。2日前に、引越し屋から引き取り時間の連絡が来る。要するに、引越し屋の都合に合わせるという仕組みだ。

でも、何時だろうと関係ない。準備はすでにできている。


そもそも荷物が少ない上に、小田原からこの地に来た1年3ヶ月前に運び込んだ段ボールの多くを、開梱すらしていなかった。

いつしか、世間で言うミニマリストのような人間的傾向をなぞり、無駄のない、つまらない、効率的でないと気がすまない性格を自分でも嫌うようになっていた。


何もかもを効率的に終わらせて、会話すら最低限で片付けるなら、果たして人間生活に何を期待しているのか。

すべてを終わらせることこそが、効率的なのではないか。──そんなふうに思った時期もあった。


元気の良い引っ越し屋が来た。清々しい若者だ。

彼を心の中で”筋肉”と名付け、筋肉が運び去る荷物の減少と、広がる床面積の相関をひそかに楽しんだ。

作業は凄まじい速さだった。左薬指にキラリと光るリング、きっと彼は満たされているのだろう。


対価とは金銭だけではない。評価とは数値だけでもない。


1年3ヶ月前、真冬に来たときと同じ状態に、部屋は戻った。

何かに期待して2LDKを借りたが、結局は荷物置きにもならず、ただ週に一度の雑巾掛けだけを律儀に続けていた。


効率的な僕は、特別で異質な存在が関わると、たやすくその道を外れる。

すべて外れる。

人間生活をしている──そう感じながら、僕はこの地を後にした。

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