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その日、昼過ぎにはアパートに帰った。
いつもならまだ仕事をしている時間だが、工場でちょっとした事故があり、責任者を除いて全員、早退となったのだ。
鍵を開けて部屋に入る。
――うん?
玄関を開けるともう部屋全体が見渡せる間取りなのだが、見れば俺のベットに誰か寝ているのだ。
――ええ!
すると寝ていた人物が起き上がった。
そして俺を見た。
女だ。
背がやけに低く、手足をふくめた体全体が、異様なほどに細い。
その上両手が冗談かと思うほどに、長い。
小さくて細く吊り上がった目で、鼻も小さくておまけに鼻先が上をむいており、口は大きく唇がやけに薄い。
顔色は、ペンキを塗りたくったかのような青白い顔だ。
長い髪はよれよれでばさばさだ。
年はよくわからないが、若くはなさそうだ。
見た目は一応人間の女なのだが、印象としては完全に妖怪だ。
そんな奴が俺の部屋のベットで寝ていたのだ。
あまりのことに声も出せずに見ていると、黙って俺を見ていた女が言った。
「えっ、もう帰ってきた?」
女にしては低く、おまけにしゃがれてガサガサの声だった。
女が動いた。
信じられないほどのスピードで俺の横を抜け、そのまま外に出て行った。
一瞬遅れたが、女のあとを追った。
しかし女はその体からは想像できないほどの速さで、どこかに行ってしまった。
――なんだったんだ、今のは?