眠り
朝からパトカーと救急車がうるさい。
眠気がピークに来ている証拠であろう、普段聞こうとしていない音まで耳に入ってくる。それが、より苛々を増大させる。
夜の仕事をしていれば苛々する事もあるが、今日は格別腹が立ったから余計に苛々している。
「ミイナさん、着きましたよ。」
「うん。」
お疲れ様でした、と聞こえた気がするけど
それよりも少し先のボロアパートで人だかりができていてそっちに夢中だった。
聞こえてくる声には
“階段の下で倒れていた”とか
“何かに躓いた”とか言う声があった。
ドアノブを傾けながら一瞥した後部屋に入った。
少し気にはなったけれど、
それよりも眠気が勝っていた。
「何がお疲れ様だよ、ふざけんな!」
放り投げた小さな鞄から鮮やかな粉が舞っていた。
アルコールの所為だろうか、
アイツの所為だろうか。
考える時間は長くなかった。
私はすごく眠たかったから。
10センチもあるヒールを脱ぎ捨てて玄関からベッドまでが相当長く感じた。
もう少し。もう少し。ただ眠りたい一心で。
やっとついたと思った時には
ガシャーンと言う音と頭に強い衝撃、
今までフローリングが見えていたはずなのに
今見ているのは目覚めた時に見る天井のシミ。
アイツに対する怒りなんてとうに無かった。
ただ明日も会いたい、なんなら今すぐ会いたい。
あの時怒らなきゃよかったな、
あのお店にもまた行きたいな、
ちゃんと伝えておけばよかったな、
あぁ、これが走馬灯ってやつ?
もう何でもいい、とりあえず今は休もう。
あぁ、眠い、、何だか今日はとても、、
今はただ眠ろう、、ただ、眠ろう。