躓き
プチューン、プチューン
キュィィン…
今日も俺は小さな液晶付きの箱の前に座りコントローラを両手でそっと支え、ボタンを押せば液晶の中の赤色のキャラクターが跳ねたり落ちたりを繰り返す。
別にする事が無い訳ではない。
しみったれた6畳一間の右側を一瞥すれば、する事はわんさかでてくる。
6畳一間に置かれたそれは、当時やる気だった気持ちの大きさなのだろうか、今では確実に邪魔になってしまっているただのゴミだ。
今現在の気持ちほどの大きさなら邪魔にならずに済むのにと、何度も考えている。
「邪魔な机だな。」
起きてから初めて出したその声は掠れて自分でも聞こえなかった。
この机は本当に邪魔で
ただ脚が伸びているタイプではなく、
L字になっていて横から見ればムキムキインストラクターの肘のように見える。
この”インストラクターの肘”は本当に邪魔で
何度も足をぶつけているし、
存在感で言えば家主よりも威圧感がでかい。
だけど、捨てられないんだからそのうち足の小指は親指くらい逞しくなるはずだと俺は思っている。
前は椅子もあったがあまりにも邪魔だったので
椅子は捨ててしまった
テレッテレッテレ〜
よそ見をしていたらどうやら、赤色のキャラクターは何かに躓いてゲームオーバーになってしまっていた。
自分は何に躓いたんだろうか。
またふっと机に目をやる。
埃の被ったままのパレットや筆、
スケッチブックが何冊も重なり何種類も揃えた鉛筆達、これまでやってきた何かはこれから役に立つんだろうか。
わからない。
でもこのままじゃいけないと思った
「久しぶりに描いてみるか。」
まだ少し掠れているが、自分でも力強く感じた気がした。
そうとなれば動くのは一瞬だった
スケッチブックを開きペンを手に取るが
「椅子、捨てたんだったな。」
急に弱々しい声になる。
こう言う時が来るなら捨てるんじゃなかった
まずは、椅子を買わなければ立ったまま絵を描くことになる。
「買いに行くかぁ」
このまま1人でいるとそのうち、1人で会話してしまうのだろうか?
どうでもいい事を考える事も増えた、
きっと1人で過ごす日々がそうさせたのかもしれない。
穴の空いたスウェットを履き、
白いTシャツから黒いTシャツに着替えた。
汚れたサンダルをつっかけて家から出た。
「これが俺の躓きだな、うん。まあほんとに躓いたんだけどね、はっはっは。え?笑い事じゃないって?しょうがないじゃない、笑うしかもう何もできないんだから。」