年上魔法使いは失恋した女勇者を溺愛してる
綺麗に着飾った女性たちがイツキに話しかける
魔王討伐を行なったパーティの魔法使いであるイツキは会場で多くの人に囲まれていた
話をいなしてもいなしても次々にやってくる女性に疲れていたが顔に出さない
魔王討伐したあとの今後待遇などを考えると多くの人とのコネが必要であるからだ
イツキは王国の大臣に内々でパーティの今後の待遇を話されていた
ユウマとヒヨリは第一軍騎士の軍長副軍長
イツキは魔法騎士団団長
ハナは国のお抱えの白魔道士
まぁ、悪くはない
そこそこいい生活を送ることがらできるだろう
だからこそイツキは人が集まるパーティで1人人脈作りに専念していた
その時、
いきなり会場の電気が消える
何事かとざわつく中でイツキはスポットライトに照らされたユウマとハナを見つけた
そこで行われるまるでお伽話みたいな恋愛劇にイツキは頭をかかえたくなった
なんてことをしているのだ…
ユウマがいつも突拍子がなく、猪突猛進な性格なのを知っていたがこんな派手な行動をふるなんて思わなかった
ユウマとハナが引かれあってるのを知っていたからおいおいそうなるとは思っていた
だけど今後の人間関係に支障をきたさないようにうまくカバーをしていくつもりだった
とくに…
イツキは先程までヒヨリが立っていた場所に目を向けた
いない…
歓声があがるスポットライトの中心に人々が魅入ってる間にイツキは会場を抜け出した
冒険の間パーティが迷子や誘拐された時瞬時に追えるようにと探知の魔法をかけたままにしていたのですぐにヒヨリをみつけることができた。
ヒヨリは会場から離れたバルコニーにいた
満月の光だけの薄暗い場所
手すりに手をついたヒヨリは肩をふるわせ
「ハナ…」と呟いていた。
いつものキリッとした声とは違い
まるで迷子になった子供みたいに涙交じりの声だった。
どう声を掛ければいいのか悩みながら
「ヒヨリ…」と声をかける
一緒に旅をしていてすぐに気がついた。
と言うよりハナ以外はヒヨリのハナへの気持ちなんて誰でもわかる。
いつもは誰にでも冷たく人を寄せ付けない雰囲気をただよわせるくせに
ハナの前では甘くデレデレ
それが友情なんてものよりも深く根深い愛情なんだろうと知っていた。
だからあんな場面を見せられた時ヒヨリは何を感じ、何を思ったのか考えるだけで苦しかった。
「イツキか、なにかようか?…用がないなら去ってくれ、人混みに酔って休憩してた…だから1人にさせろ」
声をかけると一瞬肩をびくつかせる
しかしいつもと変わらない声で冷たく言い放つと手を振りあっちにいけと指示をだす
人を寄せ付けないいつものヒヨリ
だからこそイツキはその手を掴んでひっぱり真っ正面からヒヨリの顔を見た
「っつ!!」
ヒヨリは泣いていた。
青い瞳に涙を溜め
透き通るような白い頬にはいくつもの涙の跡があった。
誰にも見せない、言わない、1人でかかえる
それがヒヨリらしくもあるだけど…
「こっこれはほこりがだな…」
ヒヨリは慌てて涙を拭い言い訳を並べる
そんなヒヨリにイツキは
ハナとユウマ幸せそうだったな
と残酷な言葉を告げた
「っつ…!」
言葉を失うヒヨリ
その目は動揺し不安げに揺れた
「ヒヨリ、僕は知ってるよ、ハナのこと好きだったのだろう」
そんな瞳を真っ直ぐ見つめイツキは言った。
震えて怯えるヒヨリをとことん追い詰める
イツキは自分がひどい人間だと思った
だけどここで言わなければいつまでだってヒヨリは前に進めない
だけど….
「なんなんだよ!私のことなんてほっておいてくれよ!イツキには関係ないだろう!」
ヒヨリは怒鳴りだす
「もうこのパーティはこの夜を持って解散だ!
今日をもってただの赤の他人だ!」
他人…その言葉にイツキはショックを受けた。
掴んでいた手が緩みその隙にヒヨリは手を振り払う
「もう宿に戻る!じゃあな!」
そう言ってヒヨリはイツキを置いて去っていった。
そんなヒヨリの後ろ姿を呆然と見つめた。
ヒヨリにとって大切な人は本当にハナだけで
長い間一緒に旅をしている仲間であったがユウマやイツキは旅が終わればヒヨリにとってただの他人に変わる。
そう言われる可能性だって考えていた
だけど
きついなぁ…
イツキは胸の痛みにその場でうずくまった。
イツキがヒヨリのことを気になりはじめたのは旅の途中からだった。
最初は人形のような美しい容姿に見惚れはした
だが他人に冷たく、厳しい言動と
勇者の加護スキルによる特攻型の戦闘は見ていて恐ろしい
だけどハナに対しては甘く、その甘い微笑みを横で見ているとどんな人間も落ちてしまいそうな威力があった
その温度差がとても不気味に思っていたのだ
長い間一緒にパーティをくんでいるユウマが一緒に旅をしないかとハナとヒヨリを誘った時
やめてくれと言いたくなった。
確かにいままで組んでいたギルドパーティに比べると連携がしやすく1番しっくりとしたのは認める
だけど人間関係が上手くいくとは思えなかったのだ
予想してた通りヒヨリが完全拒否をして言い争いとうとう決闘、そしてユウマが勝利を納めてパーティを組むという強行突破
頭をかかえたくなった、正直このパーティを抜けようと考えた
だが、旅をしてみると意外にもユウマとヒヨリは相性が良かった
もちろんハナに好意をもっているユウマとハナのことが大好きなヒヨリはよく喧嘩をする
だけど
決闘で無理やりパーティを組むことになったと言うのに予想に反してヒヨリはユウマに剣術を教えをこうなど素直だったのだ
ユウマはユウマで特攻型の戦闘は勉強になると言ってヒヨリの訓練に付き合い
ヒヨリの力がついてくると戦闘ではお互い背中を預け合うほどの連携を見せるのだった
恋敵で師弟、そして相棒
そんな不思議な関係性を築き上げていた
その頃から不気味だと感じていたヒヨリの印象が変わっていくのをイツキは感じた
そして1番のきっかけは魔花でハナが猛毒に犯されたときだった
白魔道士であるらハナは猛毒により魔力のコントロールができず毒を解除することができなかった
生死を彷徨うハナに動揺したヒヨリ
そしてベットに横たわるハナの手を握って声を振るわせた
「ハナを失ったら私はどうすればいいんだ…
私はもう頑張れない…」
小さくそう言った
ハッとした
敵を恐れず最前線で戦う強くて逞しい女勇者
だけど目の前の震える肩は頼りない、
大切な人を失う恐怖に震える
イツキよりも3歳年下の女の子
そう意識した
それからイツキはヒヨリを目で追う様になった
本当は強がりなこと、真面目なところ、なんでも素直に受け止めるところ、可愛いものが好きなところ、ハナに向ける優しさだけではなく、時々ユウマやイツキにも優しくしてくれるところ、頑張り屋で向上心が高いところ、不器用で人と関わるのを苦手としてるところ、結構落ち込みやすいところ
そういったところを知っていくたびに気持ちが積もっていった。
積極的に絡みにいって
嫌な顔をすることが殆どだったけど
時々こぼれる様に笑ったり
ユウマだけではなくイツキとの戦闘連携を真剣に考えたり
だから赤の他人なんて言ってほしくはなかった
だけど今のヒヨリに何を言っても変わらない
イツキが受けたショックなんか比べものにならない程ヒヨリの方が辛いはずだから…
「はぁ、まぁしかたがないか….だけど…」
イツキはそう言うと立ち上がり歩き出した。
次の日
街の門で早朝ヒヨリを待った
ヒヨリなら思いを振り切りたくてハナに何も言わずに1人で去っていくと予想してだ
「おはよー」
そしてその通りヒヨリはいつもの旅装束で現れる
無視をされたがそれでもめげずに食いつくと最終的に勝手にしろと冷たく言われた。
だけどそれでいい、
そっと見守れる位置で今はいよう。
************
だけど、旅を初めてすぐにイツキは気が気ではない状況に追い込まれた
ハナが近くにいないヒヨリは無表情では近寄りがたい雰囲気は変わらないが
誰にでも冷たく、厳しい言動がなくなった
それはハナを守るための態度であって
そのハナがいないヒヨリは、話してみると真面目で素直、そのためギルド内での評価が高まったのだ
ヒヨリはイツキと関わりたくなく、何度も隙をみて逃げ出しては他のギルドパーティの中に入り依頼をこなす
そしてそのパーティの男性から好意を向けられることが多くなった
密かに思いを寄せてる、ただ見つめてる
ならまだいい、いや本当はそれすらも嫌である
だが中にはしつこくご飯を誘ったり、パーティに誘ったりする人もいる
特に許せなかったのはとある武道家、
ヒヨリに積極的にアプローチをしかけ、隙をみては肩や手を触り、何度も何度もパーティに誘っていた
ある日その武道家がパーティメンバーにヒヨリの話をしているところを耳にした
「ヒヨリは結構真面目で素直だから
押しには意外と弱いとみてる
美人で素直なんて、あんなの誰でも惚れるだろ?」
それを聞いて
確かに….と思ってしまった
ヒヨリはハナに向けられる好意には敏感ではあるのに自分に向けられた好意には鈍感
イツキがなんだかんだと絡んで不快そうにするが最後の最後は受け入れる
ではこの武道家の押しにも…?
そう思った瞬間絶対許せないと思った
本当は少し離れたところから様子を見て行こうと思っていたが
イツキはその日を境に武道家を含むギルドの男性たちに威圧をかけてヒヨリに近づかせず、
ヒヨリを説得し、依頼はイツキと行わせるようにしたのだった。
************
大きな街へ行くと旅の買い物は欠かせない
ヒヨリはイツキから逃げるのを辞めてからと言うもの買い物も一緒にするようになった
そしてどの街へ言ってもヒヨリは必ず花屋さんに寄った
そこでさまざまな花の種を購入する
それをどうするのか、なんのためなのかはわからない
購入する時に少し寂しそうにしているから
イツキは用がなくてもヒヨリと共に花屋さんへ向かうことにしていた
ヒヨリが種を選んでいる間、イツキはフラフラと中を見回す、今の時期はバラの花が旬なのか色とりどりの色が並んでいた
その中で純白のバラが目に留まる
白い薔薇の花言葉を昔女の子に教えてもらったことを思い出した。
好きな色3本で2000ウォンか…
だけどヒヨリは絶対喜ばないだろうなぁ…
どうしようかな…
3本手に取り購入しようかと考えていると
花屋の奥の方で微かに魔力が流れているのを感じた
イツキは薔薇をもったまま奥に向かう
そこには小さな鉢植えに植えられた魔花があった
赤紫色の花を咲かせる普通の花のようだが大きくなると毒素を出す魔物の一種だ
イツキはヒヨリを呼び確認してもらうと
すぐさま店主に伝えた
だが店主はいくら話しても聞く耳を持たず
魔物であると認めない
いちゃもんをつけてると憤慨する始末
さて、どうしたものかとイツキが考えていると
ヒヨリは魔花を購入すると言い出した
店主は微妙な顔をしたがすぐにうなづき、支払いの手続きを行なった
確かにこのやり方はスマートだった
後でイツキの魔法で焼却処分すれば魔花が街で暴れることはない
街の人々を影ながら救ったことになる
だけどそれをヒヨリは寝覚めが悪くなるから自分のためだと言い張った
少し不器用なところが可愛いすぎる
そういえば…バタバタしてて間違えて持ってきてしまったけどこの薔薇も2000ウォンだ
なんという偶然
だからおどけながらバラの花をヒヨリに渡した
一瞬唖然としていたが、金額を伝えると
おかしそうにヒヨリは笑った
いつもの無表情が柔らかくくずれる
魔王討伐の旅で時々出していた
年相応の女の子の笑い方だった
************
旅を初めて半年がだった
最初の頃に比べるとヒヨリはイツキに少しは色々な表情を見せてくれるようになった
いまもそうだ
美味しそうにご飯を食べるヒヨリ
その目はキラキラしていてとても嬉しそうにしていた
その表情をみてイツキは達成感を感じていた
旅の途中で寄った街で大きなお祭りが開催されると言うことで
宿で大人しく待機しておきたいと考えていたヒヨリだが
泊まる宿の従業員が外に出払い宿が閉められるということで強制的にお祭りの参加を知らされ戸惑っていた
そんなヒヨリの手をどさくさに紛れて握ってイツキはお祭りで賑わう街中に歩き出した
イツキはと言うとこのお祭りのことは数日前から把握してしていた
だがそのことを言ってしまえばヒヨリはすぐに街をたつから
ギリギリまで秘密にしていたのだ
お祭りをヒヨリと楽しみたい!!
そのためにイツキは事前にどこへ行くかこっそりと調べていたのだ
出店通りも悪くない、色々みてまわりながら何か買ってあげるのもいい
メイン通りで開かれる出し物会場を一緒にみて過ごすのも楽しそうだ
そして散々悩んだ結果
ちょっとお金ははるけどメイン通りにありパレードを上から見れるいい料理店の予約をした
ヒヨリはあまり人混みが得意ではないし、
のんびりと過ごせて美味しいご飯がある方がいいと考えたからだ
そして美味しいお肉料理にヒヨリは嬉しそうにしてくれた。
少し経つとお店の近くでパレードが通り過ぎる
花がたくさんついた馬車にこの街の伝統的な踊りと音楽
あの中心に行くのも楽しそうだけど遠くから見るのも悪くない
すると隣の席のカップルがパレードに向かって手を振った
そうすると何人かが振り返す
テラス席もパレードの人たちも笑顔が絶えない
「…平和だなぁ…」
ヒヨリはそんな人たちをみて楽しそういった。
ヒヨリは笑顔が増えた
そして色々な表情をイツキに見せてくれる
「そうだね、それもこれも魔王討伐に大貢献した偉大なる魔法使いのイツキ様のおかげだね」
嬉しくてイツキはパレードを見ながらおどけるようにいった。
「大貢献か…?魔王の威圧に吹き飛ばされて前半ほとんど気絶してたのに?」
パレードから目を離しそんなイツキにヒヨリはツッコミをいれる
「それは…仕方がない!だって魔法使いは繊細なものだから!後半は特大魔法と支援魔法でみんなを助けたじゃないか、じゃあじゃあ中貢献ってことで! 」
あれは確かにカッコつかない、だけどそれだけではないのだとイツキはあわてて言い訳を並べる
すると
「中貢献って聞いたことない言葉だなぁ」
そんな様子が、面白かったのかヒヨリは楽しげに笑った
「っ!!」
それが本当に見惚れるほど可愛くて、イツキは顔が赤くなるのを感じた。
慌てて顔を手で隠しヒヨリからイツキは目線を外した。
その時パレードの音楽が大きく鳴り響き、ヒヨリはパレードの方に目を向ける
その横顔をちらっとみて小さくため息をついた。
ヒヨリが少しでもイツキを意識して欲しいと考えて2人でお祭り参加をしたというのに
こっちの方がもっと意識をするようになるなんて…
惚れた方が負けという言葉が頭をよぎった
「…ピークかな?あと少しで宿の人も戻ってくるかもね」
そんなヒヨリにイツキは当たり障りのないことしか言えなかった。
************
「炎狐の討伐ですか?」
「はい。この街に寄っていただいたAランク以上の冒険者にお声かけているのです。」
新しく寄った街でギルドによるとヒヨリとイツキのランクを見て受付の人が言った
魔王討伐時はSやAランクばかりを受けていたが2人で旅するようになって
依頼は基本的に無理せず、Bランク程度のものをこなしていた。
だが、ヒヨリとイツキの2人だけの戦闘に馴染み
それぞれなにか言わなくても連携をとって依頼をこなせるようになっていたのでそろそろAランクやSランク任務も受けてもいいのではという話もしていた頃だった。
だからAランク任務なら受けるのはいい
だが一つ問題がある
「でも炎狐は白魔道士の補佐がないと討伐大変では?」
イツキはその疑問を伝えた
炎狐は炎を半径3mに広がらせる
その炎は人のみを焼く悪魔の炎で水で消すことはできない
唯一白魔道士の清き水魔法のみがこの炎を打ち消すことができるのだ
これでは2人で行うのは普通は無理だ
まぁ、炎狐本体を倒せば炎は消えるのだが
戦闘中に燃やされたら対処できない
「そうです、ですので数名のパーティで白魔道士を共有し討伐を進める手筈です
お二人が参加される場合白魔道士のいるパーティと共同戦線できるようにこちらで調整いたします」
なるほど…
確かに白魔道士に最初から清き水魔法を施してもらえばいつも通り2人で連携して依頼をこなせばいい、これなら受けても構わないだろうイツキはヒヨリの方を向いた。
「…報酬もいいし、受けても構わないが…依頼をする前に一度他の依頼でその白魔道士がいるパーティと共戦して確認したいのだがそれでは遅いか?」
ヒヨリは少し考えたあと受付にそう言った。
その数日後ギルドの受付は白魔道士のいるひとつのパーティを紹介してくれた
戦士1人魔法使い2人、そして白魔道士1人の
後方支援型の構成だった
リーダーの戦士カケル、そして双子の魔法使いナツとユキ、そして白魔道士のサク
それぞれぱっと見目立つところはない、
いつも通りヒヨリの整った顔立ちにメンバーは見惚れてはいたし、カケルはヒヨリ少し気になっている様子でヒヨリを目でよく追っている
「サクです。よろしくお願いします」
だが白魔道士のサクにはイツキは不安感を覚えた
白魔道士の力が劣っているというわけではない
その雰囲気が不安だったのだ
男性にしては丸く可愛らしい桃色の瞳に黒髪は肩まであり髪後ろで一つに結んでいる、朗らかに笑い誰にでも平等に親しく接する
ハナと同じ髪色と瞳であり人との接し方もハナによく似ていたのだ
一緒にお試しでの依頼を行なった時ヒヨリはそこまでたいしたことのない怪我の回復をサクにしてもらったりといつもとは接し方が違った
サクはハナではない、それはわかっている
だけど心に広がる不安感は消えることはなかった
お試し依頼が終わり街に戻ってくると
リーダーであるカケルとヒヨリが受付で手続きを行うためギルドに入って行った
「サク、私たちは先に宿持ってるね!汗かいたしシャワー浴びたいの」
「カケルに伝えておいて」
カケルとヒヨリがギルドに入っていくのを確認するとナツとユキはサクにそう言った
「わかりました」
サクがうなづくとひらひらと手を振って2人が去っていく
残されたのはイツキとサクだけ
「いつもあんな感じなの?」
「そうですね、まぁ…実質あの2人がリーダーみたいな感じですから僕ら」
去っていくナツとユキが見えなくなり聞くとサクは苦笑いをしながらそう答えた。
「女の子が2人いるパーティは大変そうだね」
「気は使いますね〜まぁ、イツキさんの方が大変そうですが…ヒヨリさんモテますもんね」
「まぁ…」
今度はイツキの方が苦笑いを浮かべる
「でも、恋人であるイツキさんがいればみんなそこまでグイグイは来ないかもですが」
「!?」
そういう風に見えるとは思っていなく驚くイツキ
「あれ?恋人ではなかった感じですか?」
「そう見えるの?」
少し期待込めてそう聞いた
「うーん…男女で2人旅してるからそうなのかなぁと…でもよくよく思えばそんな雰囲気ないですね。すいません」
「…」
そう言われてイツキは俯いた
他の人に言われると落ち込む
確かにそんな雰囲気はないだろう
ただの片思いなのだから
「でも、それならカケルにもチャンスあるかもですね!」
だが落ち込んでいるところをサクは爆弾を落とす
「っ!」
ハッとイツキが顔を上げるとニヤッと笑うサクの表情が目に止まる
「…からかってるのか?」
「すいません、2人の関係面白くってつい!」
「…」
見た目に反して腹が黒い
「でもカケルがヒヨリさんを気にしてるのはイツキさんでも気が付いてますよね?」
「…」
「2人が恋人同士でないなら僕はカケルを応援しますからね?」
サクは楽しげな笑顔でそういった
そうこうしているとヒヨリとカケルがギルドから出てきたので合流した
先ほどの話が尾を引き、
ご飯に行こうというカケルの誘いにヒヨリの意見も聞かずに断った
もしかしたらヒヨリはご飯に行きたいと考えていたのかも知れないのに…
「イツキ?」
「あっ!ごめん!」
ヒヨリの声に我に帰り腕を離した
もしかしたら怒っているかもしれない、ヒヨリの意見を聞かずにイツキの意志だけで断ったから…
だけど
「別に構わない、それに私は助かったからな」
「えっ?」
予想とは違いホッとした表情のヒヨリがそういった
「ご飯の誘い、そこまで慣れていない人間と共にするのは耐えられないからな」
「そっ…そうなの?」
「?イツキはわかってて先にいってくれたのではないのか?」
そう言われてハッとする
ヒヨリが昨日今日あったばかりの人間を信用しないことを
冷静にら考えればそうだった
ヒヨリなら言い訳なんて考えずズバッと断る
「……そっそうだよ!ヒヨリとは長い間いるからね、人とご飯いくのはあまり好まないでしょう?俺が間に入ることで今後の討伐パーティで気まずくならないようにできるからね」
イツキは一瞬固まったがすぐさまいつも通りヘラヘラと笑って答えた
*****
数日後カケルたちと共にギルドで北の指定されたエリアに向かう
他にも炎狐の討伐を行うパーティはいるらしくエリアごとに担当が決まっていた。
ギルドは必ず事前に隠匿のスキルをもった調査員が下見を行い魔物の種類や数を把握し、魔物レベルや種類によって依頼ランク規準を決めている。
その規準によると北のエリアは個体が大きいが数は少ないAランク程度の難易度であると教えてもらった。
SランクとAランクの合同ならそこまでヘマをしなければ達成することはできるだろう
そう思っていた。
だが実際現地に向かうとギルドで言われていた数より多くの炎狐が出現していた。
撤退しようにも炎狐にバレて囲まれ逃げ出すことはできない。
戦いながら逃げ道を探すしかない、それぞれ武器を構えた。
サクは清き水魔法を全員に施し
カケルたちパーティとヒヨリたちパーティはそれぞれ戦闘を開始する。
サクの役割は回復と清き水魔法の継続
炎狐に襲われても武器の槍で上手く受け止めたりいなしたりしながらカケル、ユキ、ナツの状況を把握していった。
イツキはヒヨリの攻撃タイミングを見ながら範囲魔法と特大魔法を放ちながら横目でそんなサクの動きを見ていた
上手い…と感心した。
「ユキ!」
サクがそういうとカケルの左側に手を向ける
するとユキが風による盾魔法を放った
カケルに飛びかかろうとした数匹の炎狐が吹き飛んでいった。
「カケル!」
今度は後ろから声を放つとカケルは後ろにバックジャンプをする
それと同時に今度はナツが特大魔法をカケルが先程までいた場所に放つ
カケルにたかっていた炎狐を一網打尽にしていく。
目がいくつもあるのかと思える司令塔ぶり、それだけではなく魔法レベルも高く6人分の清き水魔法は一切のぶれがない
このまま行けば撤退路を確保できるかもしれない。
そう思った矢先
「きゃあぁぁ!!」
大きな炎狐の体当たりを喰らい、ナツが近くの木に頭と体を強く打った。
その衝撃に気絶をしてしまった
「ナツ!」
それを見たユキが陣形を崩しナツの側に駆け寄ってしまった。
そして
「うっ!!」
今度は炎狐がムチのように尻尾をユキに振り下ろした。
ユキは地面に叩きつけられ気絶をする。
サクは倒れた2人に駆け寄り回復をかけようとするが炎狐は容赦なくサクを襲ってきた。
サクはなんとか武器で攻撃を受け止めているが倒れる2人を庇って思うように動けない。
リーダーであるカケルは1人誰の支援も受けず目の前の炎狐数匹を相手にしておりこちらにまわることごできなかった。
「ヒヨリ!」
先頭で誰よりも多くの炎狐を倒しているヒヨリにイツキは声をかけた。
チラッとこちらの様子をみると
ヒヨリはすぐに近くの炎狐を切り捨てこちらにやってくる
ヒヨリの後ろから襲ってこようとした炎狐はイツキの特大魔法で木っ端微塵にしておく
ヒヨリは襲ってくる炎狐たちの攻撃をよけながら真っ直ぐサクたちの元にむかうとサクを襲う炎狐を一筋で仕留めた
このままじゃだめだ
「カケル!」
イツキはカケルに群がる炎狐に範囲魔法を放ち声をかける
目の前の炎狐にいっぱいいっぱいだったカケルがこちらをら振り向いた
「俺らで連携を!戻れ」
カケルはうなづくとサクのすぐ横へ戻ってくる
倒れたナツとユキの周りに輪になるような陣形を作る
炎狐たちと距離ができたことですぐさま他のメンバーに指示を伝える
「ヒヨリとカケルは敵の急所をつきながら倒してくれ、俺が広範囲魔法で2人のカバーをする」
「じゃあ僕は2人の様子をみつつナツとユキを守りながら立ち回るだね?」
ヒヨリとイツキはうなづきサクは自分の行動を口にした
「そうだ、陣形崩さず確実に数を減らそう」
イツキがそう声をかけた
最初は上手く立ち回ることができた
ヒヨリは数匹を相手にしながら仕留めていき
サクはナツとユキを守りながら襲いかかる炎狐を槍で距離を取りながら弾く
弾いた先はヒヨリまたはイツキの攻撃範囲に押し込んでしとめる
イツキはヒヨリとカケルの攻撃範囲外の炎狐を範囲魔法と特大魔法で仕留めていく
だがすぐに咄嗟の連携が崩れていくのがわかった
カケルが炎狐たちに押されている
ヒヨリやイツキがカバーをしてはいるが小さな攻撃を防げず確実にダメージが蓄積されている
他の連携を考えなければ…
そう思った時
「ぐあっ!」
「カケル!」
カケルの肩を炎狐が食いつき、そしてちぎった
致命傷だ
「ちっ!」
ヒヨリがすぐさまカケルの元に駆け寄りカケルに群がろうとする炎狐を蹴散らした。
それを確認するとサクはすぐさまカケルに近づき高度な回復魔法をかける
傷は癒えカケルはなんとか立ち上がるが、その顔色は悪い
そしてサクも魔力を一気に消費したこともありかけてもらっていた清き水魔法の威力が弱った
炎狐が近づくと軽い火傷を負うようになったのだ
サクの魔力が底を尽きれば全滅だ
どうすれば…
その時
「サク!私に魔法はいい!」
「ですが!」
ヒヨリが炎狐を相手にしながらそういった。
確かに1人分の清き水魔法を施さないだけでも魔力の節約になる
しかし、通常炎狐との戦闘は常に魔法を発動させなければ普通の人間は熱さに苦しみ戦闘など不可能である普通なら…
「私は特殊スキル持ちだ!炎は致命傷にならない!」
そう、ヒヨリは勇者の加護により熱さを感じない
だけどダメージは確実にヒヨリの体に入る
そのダメージが蓄積すれば致命傷となり、その痛みはいきなりヒヨリを襲う
魔王討伐の旅で蓄積したダメージに後々苦しむ姿を見たことがあった
だから本当はそんなことさせたくない
だけど…
戦うヒヨリの後ろ姿をみてイツキは指示した
「サク!ヒヨリの言う通りに!」
守りたい女性ではあるだけどそれだけじゃなくて
冷静にまわりをみて判断をし、怯まず立ち向かう強い人それがヒヨリだ
そういうところも大切だから…
「っ!わかりました!解除!」
ヒヨリの体の周りにあった魔法が解かれると
炎がヒヨリを襲う
「イツキ一気にたたみかける!」
だが炎に体が包まれながらヒヨリは剣を構えた。
「了解!!」
イツキがヒヨリに合わせて魔法を放った
炎狐を全滅させたの少し経ってから
夕方に差し掛かっており
流石にイツキも疲れその場に倒れ込む
魔力は2割ほど残ってはいたが、久しぶりにここまで消費した
カケルもサクも疲れ果て顔色も良くないが大きな怪我はなさそうだ
だから見た目だけならヒヨリが1番重症だ
平然とたってはいるが
体のあっちこっちの切り傷はもちろん
肌が露出している場所はどこもかしこもやけどのあと
顔や首筋などはところどころ赤黒く美しい顔立ちを消していた。
もう夜も近づいていたこともありイツキはこの場で野宿を提案した
それに他のメンバーは賛成し、
一晩この場所で休息を取ることになった
ヒヨリが見張りをまずかってでた
それに甘え魔力回復のため目を閉じて眠りにつく
*****
がさっ
物音で目が覚めた
そっと目を開けるとサクが立ち上がりヒヨリの方へ向かうところだった
魔力は回復したのだろうか
イツキは自分自身の魔力残量を確認すると4割程回復しているのがわかった
サクもそのぐらい回復したからヒヨリと見張りを交換するために起き上がったのだろう
チラリと2人の様子を見ていると何やら話をしているのか、ヒヨリがこちらに戻ってくる様子はない
何を話しているのだろうか?
遠くて聞こえない
……魔法で聞き耳を立てるのは流石にやばいか?
そう思っていた矢先
ヒヨリがふっとサクに笑いかけた
最近増えたヒヨリの笑み
それを出会って数日のサクに向けていた
…やはり、ハナに似ているからヒヨリはサクに心を開いたのだろうか?
…まだハナのことを思っているのだろうか
それとも…ハナによく似たサクのことを…?
そう思うと胸の奥が鈍く痛み不安感が押し寄せる
この数ヶ月ずっと一緒にいたけどヒヨリの心はつかめない…
どうしたらイツキを見てくれるようになるのか…
そんなことを考えているとヒヨリがこちらに戻ってこようとした
イツキはあわてて寝たふりをする
そのまま、眠れればいいのに、全く眠気はやってこなかった
数時間経つとヒヨリの寝息がかすかに聞こえてきた
そっとイツキは起き出しサクの元に向かう
「そろそろ交換しようか?」
「まだ僕で大丈夫ですよ?魔力もだいぶ回復しましたし」
サクの顔色随分良くなっていた
魔力の回復スピードが早いのかもしれない
「そう、なら…少し話しても?」
「えぇ、….もしかしてさっきヒヨリさんと僕が話しているの聞いてました?」
図星をつかれてイツキは眉間にシワを寄せる
「…聞いてはいないよ、結構離れてるから…」
「だけど見ていた?または聞き耳魔法をしようとしました?」
「……」
また図星である
ニヤニヤと笑ってるサクをみる
「なんなの?心でも読めるわけ?」
「心読めたらいいですよね、ですがそんな能力ありませんよ、強いていうなら人を観察するのが趣味なだけです。」
サクは純粋そうな笑顔を向ける
めちゃくちゃ腹黒なのに…
だけど人を観察することは大切だ
人との会話、自分への印象、いい方向に話を進めるためには人を見て決めるべき
また戦闘でも誰がどんな癖があり、どのように動くのがいいのか考えるのに必要になってくる
「でも、やっぱりイツキさんとヒヨリさんは見ていてとても面白いので趣味が捗ります!」
「面白がるな」
キラキラした目でそういうサクにため息が止まらない
「だってSランク冒険者で、美男美女のパーティ、しかしその内面は鈍感美女とヘタレ美男子!」
「…バカにしてるな?」
「してませんよ〜!」
サクはニコニコと笑いながらそういった
「…それで?」
腹が立つのを抑えてイツキはサクに聞く
「はい?」
サクは少しキョトンとしたら顔でイツキをみる
「だから…なんの話をしてたんだよ」
「…あぁ〜そうですよね、気になりますよね?」
そういうとサクはヒヨリとの話を教えてくれた。
勇者が魔王を討伐した時世界各地で情報が回っていた
だけど実際討伐した勇者の容姿やメンバーは明かされていない
もちろんサクも知らない
だけどサクは昔読んだ古文書での勇者の加護というスキルのことを知っていた
だから炎狐の戦闘で炎が致命傷にならないと言う言葉の後のヒヨリの怪我を何も感じないような戦闘をみてヒヨリが勇者ではないかと気がついたのだという
「別に言いふらすとかはないですよ?ただの答え合わせがしたかっただけです。
だけど、さすが勇者様ですね、僕のことをよく見ています、指摘されましたよ、このパーティの本当の実力…まぁ、イツキさんも気がついているのかもですが」
そういってサクは苦笑いする
それは今回の戦闘で十分理解していた
カケル、ナツ、ユキはAランクとなってはいるが実力はもっと低いと思う
だけどサクだけはSランク上位といってもいい実力者だ
正直いえばハナより上、魔王討伐にサクがいたらもっと楽に討伐できたとさえ思う程だった
「まぁ、今後は依頼ランクは落とすようにみんなにはいうつもりです。死にたくないですからね」
「そうした方がいい、俺らでさえ基本高ランクは受けないからな」
「そうなんですね、勉強になります。…まぁ、ヒヨリさんとはそんな感じの話をしてたんですよ。あぁ、あと最後に回復魔法をかけてあげたんですが…はぁ…」
そう言うとため息をつき、そしてイツキを見る
「なに?」
「イツキさん大変ですね…あんな笑み向けられたらひとたまりもないですよ…」
同情的な目を向けいった
あの時向けていた微笑みは
おせっかいだと笑われたのだとサクはいった
「よくもまぁ、手を出さずにいられますね…さすが…」「…」
そのあとに続く言葉をイツキは視線で黙らせる
「….まぁ、そう言うことなんで、そろそろ僕は眠りますね、見張りよろしくお願いします。」
「早く眠れ」
「はーいおやすみなさい」
サクはヘラヘラと笑いながら立ち上がるとみんながいる方へ歩いて行った
次の日、ナツとユキは昼ごろになってやっと目が覚めた
後遺症もなく、体も不調がない様子だったので全員で街へ向かうことになった
その間とにかくサクがよく絡んできた
下手するとカケルやナツ、ユキよりもヒヨリとイツキに話しかけているように感じた
昨日話していたからサクがヒヨリとイツキに絡んで周りの反応を観察し楽しんでいるのだとわかった
だけど問題はヒヨリの方だ
いつもなら無駄絡みをしてくるような人には冷たい目を向けてオーラで人を威圧すると言うのにサクへの態度はどこか気やすさがあるように感じた。
見た目はハナに似ているけど、中身腹黒だと言うのに…
ふっとその時嫌な予想がたった。
ヒヨリがサクを旅に誘うなんてことがあるかもしれないと…
そうなったらどうすれぼいいのか、
確かに腕は立つから旅は今よりしやすくなるだろう
だけどヒヨリがサクのことを好きになったら?
その時…俺はヒヨリの幸せを願ってやれるのだろうか?
どう感じるのだろうか…?
そんなことを考えているといつのまにか街に戻ってきていた。
「本当にありがとうございました!またどこかで!」
だがイツキが思っていたよりあっさりと挨拶をしサクたちと別れた。
「よかったの?」
「?何が?」
少し歩くとイツキはヒヨリに聞いた
拍子抜けした
正直、サクならもっとなにかいってくると思ったし、カケルもヒヨリに好意をもってた。
あんなにあっさりと別れるとは思わなかったのだ
「仲良くなったから一緒に旅をするのかと…」
そう聞くとヒヨリはキョトンとした顔をイツキに向ける
「なぜ?…あぁ、本当はあっちに行きたかったか?」
「そんなわけないでしょ!」
とんだ勘違いに声が大きくなる
「ただヒヨリはサクと仲良さそうだったし…」
「そうだろうか?」
ヒヨリは手を顎に乗せて考えはじめる
「…だって似てるし」
イツキは恐々とそういった。
そんなこと言わなければいいのについ口から本音が漏れる
そっか、ならいいやで終わらせればいい
だけど、ヒヨリのことになるとどうも冷静ではいられない
「似てる??……あぁ確かに」
そう言われてヒヨリはもう一度考えるとうなづきイツキをまっすぐ見る
ハナの名前を口にするのだろう…そう思った
だが
「イツキに似ているな…」
ヒヨリは予想外の名前を口にした
「えっ?ちょ!どういうこと?あの腹黒と似てるって!」
イツキは驚きヒヨリに聞いた
「ふむ、サクが苦手だったのか?でも、お前たち同族だぞ?」
ヒヨリは冷静にそう答えた。
「そんなことないし!」
人のことをを揶揄い、ヘタレだなんだというサクのことを思い出しながら否定する
だがヒヨリはどうでも良さそうにイツキの話を流してそのまま歩き始めた。
************
2人で旅して一年が経つ頃とある街で足止めされた
「街道が封鎖?」
街道を通ろうとした人や調査にでた人が次々に行方不明になるため安全を考慮して封鎖をしたという
「なんだろう?事故なのか、魔物なのか、それとも別の何かなのか、状況がわからないからなんともいえないね」
イツキは顎に手を当て考える
隠匿スキルが効かない魔物ならいくつかいる、だけど魔物に気が付かれたら普通は数人を逃すぐらい兵士ならできそうだが…
逃げれない程強い魔物か?
魔王討伐がされてからは徐々に魔物の数や強さが減っているのに?
気になるな…
するとヒヨリは様子を見てこようと受付に提案した。
最初は躊躇していた受付だがSランク上位魔法使いの実力があることを知り提案を受け入れた
そうしてヒヨリとイツキは街道の調査に向かうことになった。
準備を整えた次の日
イツキが支援魔法を複数かけると出発した
ヒヨリを先頭に数時間進むとそこまで深くはないが森へと差しかかった
ここまではとくに異常は見られない
だがここからだ…
ヒヨリがちらりとイツキの方を振り返る
黙ってイツキはうなづいた
2人は慎重に森に入っていった
あたりを警戒するが小さな小動物の気配しか感じられない
森ではない?
だが気を抜かないで歩む
2人の前に小さな小川が現れた
その小川には石造の橋が架けられている
そしてその先は森の出口が見えた
その時
…?眩暈に襲われた
強い眩暈ではないがイツキは目を瞑り立ち止まる
すると
かけた支援魔法が解除されたのがわかった
これは…
どさっ…
人が倒れる物音
イツキはすぐさま目を開ける
目の前でヒヨリが倒れていた。
「ヒヨリ!?」
駆け寄りヒヨリを抱き上げようとした時
ちちちちち…
小川から謎の音が聞こえてきた
イツキは小川の方を向く
その音とともにあらわれたのは
子供ぐらいの大きさで赤黒い皮膚に長い爪を、もつ魔物
「夢魔か!」
イツキはすぐさまヒヨリを抱き上げる
ちちちちち…
1匹ではない、3匹…
そこまで多い数ではないがまだ隠れていることも考えられる
イツキはヒヨリを抱き上げるヒヨリは深い眠りについており起きる気配がない
イツキはすぐさま夢魔に向かって範囲魔法を放つと街の方向へ走り出した
街に戻りヒヨリを宿で寝かせるとすぐさまギルドへ向かった
イツキがギルドに街道に出る魔物が夢魔であることを伝えた
夢魔は人に幸福な夢を見させてその隙にすみかに連れ帰り人を食べる魔物
だがAランク以上の魔力を持つ魔法使い、白魔道士に夢を見させることができない、また戦闘能力も低いという弱点を持つ
魔王討伐前は夢魔の対策はどの地域でもされていた。
街には必ずAランク以上の魔法使いが在籍し、
夢魔が出れば出動する形をとっていた。
だがこの一年で冒険者が減少し、魔力の高い魔法使いや白魔道士がいなくなっており、現在この街ではAランク以上はイツキだけ
報告を聞いたギルドはすぐさま他の街にAランク以上の魔法使い、白魔道士の出動を要請する
「いつAランク以上の白魔道士は来れますか?」
「…最短でお願いしてはいますが1週間以上はかかるかと」
1週間…
イツキは歯を食いしばる
「お仲間さんは…」
受付は恐る恐る聞いた
「…夢魔に夢を見せられてます」
「そうですか…すいません…」
「…いえ…俺らが調査するといったのです…白魔道士が来られそうなら連絡いただけますか?」
溢れる感情を抑え込みながらイツキは言った
「もちろんです。すぐにご連絡します。」
ヒヨリ…
宿に戻り眠るヒヨリの様子をうかがう
夢魔の夢は基本はAランク以上の白魔道士が習得している目覚めの魔法で解除する
それまでは目を覚ますことができず飲まず食わすで過ごすことになるのだ
それが1週間…例え勇者であってもそれは死を意味する
だが夢から覚める方法はもう一つだけある
殆どの人は難しく不可能ではあるが…
ヒヨリ…どうか…
イツキはヒヨリの手を握りゆっくりと魔力を流した
夢の中のヒヨリに語りかける
どうかその世界が夢であることに気がついてくれ…
夢が現実ではないと否定することができれば夢魔の夢から覚めることができる
だからイツキは魔力を流してヒヨリに語りかける。
握った手は剣だこが多い、普通の令嬢のような華奢さはないが、自分より小さい女性の手
イツキが誰よりも大切な人の手…
宿のおかみさんにお願いしてヒヨリはラフな服に着替えさせた
いつも結んでる銀色の髪を解き腰まで長い髪がベットに広がる
そうするだけでいつもの中性的な雰囲気から一気に女性らしさがまし
深窓の姫君のような美しい姿だった
だけどその目は開くことがなく眠りつづけてる
イツキはヒヨリのそばから肩時も離れず
魔力を流し語りかける
ヒヨリ、どうか目を覚まして…
3日たった、ギルドから連絡はない
この街から1番近いギルドのある街は最短で3日かかる
連絡がないのは白魔道士がいなかったのだろう
ということはもっと遠い街から派遣されることになる
それはいつになるのか…
イツキは時の流れが遅くなる魔法をヒヨリにかける気休めであるが何もしないよりはまだましだと考えてだ
ヒヨリはどんな夢を見ているのか
ヒヨリにとっての幸せは…やはりハナがいるのだろうか
そう思うと苦しくて
魔力を流す手が震える
両手で手を握り俯いた
ヒヨリどうか戻ってきてくれ
1週間が経った
まだギルドから連絡はない
ヒヨリはいまだ眠り続けていた
時を止める魔法のおかげで多少はやつれてきたが命の危険にさらされる程ではない
このまま幸せな夢をみている方がヒヨリにとって幸せなのではとイツキは思いはじめていた
俯いて魔力を流しながら考える
これまで勇者として多くのプレッシャーかかえてきた
女の子らしいこともせずただひたすらに剣を振う日々
聞いた話によると14歳で旅を始めたとのこと勇者としてその生活を4年以上続けていたことになる
そんな日々を支えていたハナはヒヨリの気持ちを察することなくユウマとくっついた
大切な思いさえ報われない
ヒヨリの幸せは夢の中でしか叶わないのではないか
そう思った
たけどそう思う反面イツキはどうしてもヒヨリを諦めたくなかった
ヒヨリは決して自分を不幸だとは思っていない
その時その時、自分がどうすべきか真剣に考えて選択してきた
辛くても怖くても、歯を食いしばって立ち上がる
そんなヒヨリだからこそ
イツキはこれからも一緒にいたいし、支えたいのだ
だから今日も魔力を流しながら語りかける
ヒヨリ…どうか…
その時
「イツキ…」
掠れた声でイツキの名前を呼んだ
「っつ!ヒヨリ!」
顔を上げるとヒヨリはゆっくりと上体を起き上がらせていた
「心配かけた…」
声は掠れているがしっかりと言葉を発する
「本当に心配したよ………ヒヨリ…?」
ほっと胸を撫で下ろしヒヨリの方を向くと
目があった
ずっと見たかった薄青色の瞳
その瞳から涙がゆっくりとこぼれ落ちていた
イツキは左手をヒヨリの顔に伸ばした
「辛かったな…」
そう言ってヒヨリの目元を優しく拭った
「っつ!!」
ヒヨリは慌てて目元を拭うが涙は全く止まらない
次から次へと涙が溢れる
どうすればいいのかわからず戸惑っている様子だった
愛おしさがこみあげてくる
本当にヒヨリが好きなんだと改めて思い知らされる。
「大丈夫…大丈夫…」
ヒヨリを見て優しくイツキは言うと
ゆっくりとヒヨリを抱きしめた
華奢な体だった
あんなにたくさんの魔物を倒すことができる勇者だというのに
力を入れたら壊れてしまうのではと思えるほど細かった
だから優しく優しくその背中をたたいた
一瞬ヒヨリは固まるがそれをうけいれる
「幸せだったんだ…」
といって夢の中のことをつぶやくように教えてくれた。
それは故郷に戻り暮らす夢
ハナや大切な人たちとただそこで暮らすだけの夢だった
お金も名誉も関係ない、普通なら手に入る日常
ヒヨリが最も求めている幸せな世界
だけど現実は故郷は魔物に襲われ大切な人たちも失ったそして…
「ハナ…」
一通り話し終えるとポツリとヒヨリはハナの名前を呼んだ
1番大切なハナさえヒヨリの元にいない
誰に対して怒ればいいのか
こんなにハナを思っているヒヨリの側にいてあげないハナに対してなのか
叶わない思いをかかえ続け傷つくヒヨリに対してなのか
はたまた何もできずにいる自分に対してなのか
「俺じゃダメか…?」
だからつい本音が口から溢れた。
ずっと心に秘めていた気持ちが溢れる
今度は少しヒヨリから体をはなしじっとヒヨリを見つめた
「俺じゃだめか…?」
ヒヨリはなんのことを言っているのか分からないようで困惑している
「…俺は…ヒヨリが好きだよ、誰よりもヒヨリのことを…だから俺じゃだめか…?」
心臓が激しく鼓動する
高揚感と不安感、緊張感と幸福感
ごちゃ混ぜの感情が体を駆け巡っていった
「!?」
ヒヨリは目を丸くする
薄青色の瞳がまんまるにして驚いたようにイツキをみていた。
そして徐々に顔が赤くなっていったのだ
その反応にイツキの方が驚いた
「えっ?予想外の反応…少しは意識してくれてる?」
冷たくないと言われるか、申し訳なさそうに謝られるか、またはよくわからずしかめ面をすると思っていたのに
顔を赤くして目を泳がせて異性として意識されるような反応されるなんて思っていなかった。
「なっ!!」
ヒヨリは顔を赤くさせてなにか言いたそうに口をパクパクさせるがら言葉に出ない様子でただイツキを見ていた
嬉しさがら込み上げてきてヒヨリに微笑みかける
「はぁ、くそかわいいなぁ…それなら、これからは我慢しない」
そういうとイツキは真っ赤になっているヒヨリの額に唇を落とす
「おやすみ」
そういってヒヨリに眠りの魔法をかけた
するとヒヨリはゆっくりと瞼が落ちていき体から力が抜けていく
その体をイツキは受け止めてそっとベットに寝かせた
さて、目が覚めたらどう攻めていくか
いままで我慢していたから存分に甘やかしてたくさん思いを告げよう
覚悟しててよヒヨリ
眠るヒヨリをイツキは愛おしそうに見つめた。