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素体

「まさか、一回戦敗退とはねぇ」

呆れたといわんばかりに呟くセムヤザの前で、僕はお茶を飲んでいた。


「どうみても、素手で戦った方が強いよね。君は」

同じようにお茶を飲みながら、工事中の壁を見る。

「そんな事より、何の用事なんですか?一応、講義もいくつか出ないと、単位が取れなくなるんですけど」

「そんなに、機嫌を悪くしないでくれ。私としては、君と特待生として迎え入れると言っただろう」

にっこりと笑うセムヤザ。

何か嫌な予感を感じる。


「突然呼び出した理由は、あってね。とっても大事な用事なんだ」

隣に座っているミホが、僕の腕を掴む。

僕はそんな彼女を見ながら、少し前の事を思い出していた。




「首都に呼ばれる可能性がある?」

「うん。どうしても、何回考えても、その未来しか出て来ないの」

少し不安そうな顔で、こちらを見て来るミホ。

二人で寝ていたベッドは少し乱れているけど、まあ仕方ない。

「この前の、モータースの襲撃事件。シェミさんの、神機の件」

ああ。そういえば、こんな所にも神機があったんだった。

しかも、シェミがその支配者(ローダー)に選ばれたんだった。

「どちらも、原因は、私たちがここに来たから起こった事。そして」

「どちらも、この国の人間なら無視できない出来事、、」

「この国の人間じゃなくても、無視できない事よ。世界を滅ぼせる神機。一触即発で、全面戦争になってもおかしくない、モータースの事」

ゆっくりと、僕の身体に密着して来るミホ。


「シェミさんが、実質、シュウ君の恋人として扱われている事」

自分で言っておいて、つねってくるのは止めて欲しいと思う。

「全部、まとめて結論としては」





「この国の首領でもある、パズス様が君の事を本当に気にしているんだよね」

セムヤザの笑顔が、全てを物語っていたのだった。


「首都へ行くのは、実は初めてなんです」

シェミが、嬉しそうに笑っている。

人道国家アモンの首都、マモンは、人口700万という、超巨大な都市だ。

戦争ばかりしている中で、アモンは辺境という事もあり、長らく戦火から逃れて来た。

その中で、世界中から戦災に会った人たちが流れ込み、巨大化していったらしい。


「平和都市と言われているらしいですし。少し興味はあったのです」

シェミが目を輝かせている。


「マモンは、全ての経済の中心。通貨の基礎とも呼ばれている都市です。何十年も戦争に巻き込まれていないので、経済、文化、全てが世界最高水準との事です」

ミホが、脳内辞書を引いてくれたらしい。

「まあ、楽しんでくれたら私としても嬉しい限りだよ。アミーも自慢の街だけど、首都にはかなわないからね。ただ、入り口がね、、嫌いだけど」

「なんで、セムヤザさんまでいるんですか?」


低空飛行をしている飛行機の中。

僕とミホ。シェミ、ロネ、そして、セムヤザさんが乗っていた。


「連れないねぇ。何故かと言われれば、君を引き入れたのが私だからだよ」

笑顔で僕を見てくれるけど。

セムヤザさんの目が笑っていない。


「首都なんて、ほんとうは行きたくないんだよ。本当に。どれだけ私が、頑張ってあの町から出て来たと」

ぶつぶつと言い出したセムヤザさんを無視して。

首都に向かって、セムヤザさんの専用飛行機は飛び続けるのだった。






「着いたよ」

飛行機は、とんでもなく広い広場に着陸する。

「えっと、先が見えないのですが」

シェミが困惑するのも分かる。

あちらこちらに、僕たちが乗って来たような飛行機が止まっているのに。

周り全てが真っ平の広場なのだ。

そこが、荒れ地などでは無く、飛行場である事を示しているのは、地面に魔力を帯びた何かが埋まるように敷き詰められ道を作っているからだ。

ただ、それを見たミホは、僕の胸に顔を埋めてしまったし、ロネは今も吐きそうな顔をしている。


なんでだろうと思っていると、ミホから流れてくる感情と、ミホと共通化しているミホ辞書がその原因を教えてくれる。

その理由を聞いて、僕までその場で吐きそうなほど気分が悪くなる。


「私もね、、納得できない部分はあるんだよ。この建築はね」

セムヤザさんが苦い顔をする。

「綺麗な人形は側に置いて、鑑賞するのが一番だと思うんだけどね」

歪んだ性癖だけど。

セムヤザさんは、まだ僕たちに近い感性を持っていると思えた。

そんな事を思っていると、車が走って来る。


「これも、嫌いなんだよ」

セムヤザさんの言葉は、本当に苦い物だった。


『ポートまでご案内します』

5人が乗ってもまだ数人ほどは乗れそうな少し大きめの車に乗った途端、車自体から声が聞こえる。

ミホが、真っ青な顔をして僕の腕を掴む。

いや、片腕を紐化して、僕の服の下で絡みついていた。

完全に僕とくっついているため、周りからはそこまでは見えていないけど。


相当、ショックを受けているのが分かってしまった僕は、そっと彼女を抱き寄せるのだった。


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