恋人
「この演習が始まった理由は、みなさんも知っている通り。世界情勢が大きく関わっています。世界は戦いに満ちています。だからこそ。力を磨いて、この世界を生き残っていって欲しいと思います。この学園の生徒が、生きる礎になる事を願います」
セムヤザの挨拶が穏やかに響く。
「よっしゃ!やるぞぉ!」
剣など、格闘戦に参加する学生たちが勢いよく駆け出していく。
「自動機構兵器の対戦に参加する者はこっちだぞー」
「行きましょうか」
シェミが、僕の手を取ると、そのまま引っ張ろうとする。
「ん?二人ともこっちの方が早いよ」
ミホは笑いながらその手を取っていた。
「近道はこっちだから」
自然とシェミが繋いでいた手を外すと、さらりと自分の手を絡めてくる。
「えっと、、」
「何か?」
ミホがちょっと怖い。
「おお。やっと恋人さん達の到着か。待ったぞ」
会場に到着すると、笑いながら、ラハムが手を振っていた。
横で小さくなっているラフムが見える。首の赤いスカーフは絶対に外さないらしい。
「こ、、、恋人ですか、、まだ、そこまでは、、、」
シェミが、顔を赤くしているが。
そんなシェミを後目に、さらにしっかりと腕を絡めて来るミホ。
「私たちの事。理解は、してくださいね」
優しい顔をしているのに、目が笑っていないミホを見て、思わず震えてしまうのだった。
「次!シュウ対、ラッケン!」
ラッケンと呼ばれたのは、大学2年生の先輩だ。
自動機構兵器の機構構築を専行にしている人だった。
「各自、準備を!」
審判役の先生がその手を上げるのを確認してから、僕はゆっくりと、目の前に置いてある、作業用の自動機構兵器に乗り込む。
「ねえミホ。シェミに、当りがきつくないか?」
コクピットが閉まった時、僕はミホに語り掛ける。
しかし、返事はなく。
スーツが少しきつめに締まって来る。
「ミホ?」
もう一度、スーツ化したミホに話しかけた時。
「開始!」
試合が始まった。
ラッケン先輩の乗った作業アームが襲い掛かって来る。
そのアームを受け流しながら、足元を滑らし、その横へと機体を動かす。
ショベルカーのバケットのようなアームで相手を吹き飛ばしながら、自分の機体を回転させる。
「だって、、寂しいというか、、羨ましいから」
ミホが小さく呟くように返事を返して来る。
「分ってるの。あの時の私の判断も、正しいと。今の私も、同じ答えを出すと思うから。でも」
態勢を整え直した先輩の機体が、アームを振り上げる。
「どうしようもなく、イライラするのっ!最近、彼女と一緒にいる事が多くて、二人っきりになれないしっ!悪いっ!?」
叫ぶように怒鳴るミホ。
一気にミホの感情が流れ込んで来る。
その全てを受け止めて。僕は思わず微笑んでいた。
「大丈夫。ミホは、僕の大事な人だし」
アームを受け止める。
ミシッと音がするのが聞こえる。
「僕の、一番の恋人は、ミホだから」
瞬間。
僕は、スーツ姿のまま、自動脱出装置で、空中に飛び出ていた。
綺麗にバラバラになっている作業用自動機構兵器。
「ミホ、、魔力調節、、間違えたでしょ」
「勝者!ラッケン!」
先生の声が会場に響く。
「いいでしょ。間違えただけだから」
負けたと言うのに、返事をするミホの声は、とても嬉しそうだった。
「絶対に、シュウ様の仇はとります!」
これでもかと意気込みながら、作業用自動機構兵器に乗り込むシェミ。
圧倒的な速度でほんろうしながら、相手の自動機構兵器を倒して行く。
「シェミさん。強いですね」
ミホが、感心した声を出す。
「ねぇ、、ミホ?」
「魔力調節も、適切です。ロネさんも、凄い接続者なんですね」
「ねぇ、、僕は心地いいからいいけど」
僕の言葉に、全身がギュッと締まるのを感じる。
「試合終わったから、スーツ解除してもいいと思うけど」
「さすが、私たちが認めた人達ですね」
僕は小さくため息を吐きながら。
自分の胸に手を当てる。
ゆっくりと優しく締め付けてくるスーツは、まるで甘える子共が抱き着いているようだった。
「作業用自動機構兵器、格闘部門、勝者シェミ!」
表彰台に立っている彼女は、僕を見つけて、全力で手を振っている。
シェミに手を振り返しながら。
「ミホ」
スーツ化を解除しようとしないミホに、大事な恋人に。大事な一言をかける。
「おかえり」




