戻る日常(問題あり)
「ちょっと、頑張ってみたの」
目の前にあるお弁当を見ながら、僕はため息をついていた。
ミホお手製のお弁当は、嬉しい。嬉しいんだけど。
ミホの目が笑っていないのは、隣でいつでもあーんをしようとしているシェミの存在だと思う。
「大丈夫ですよ。これも、おいしいですから」
ふーふーと息をかけて覚ましたドリアをこちらに差し出してくるシェミ。
何故ドリア?と思うけど、シェミがドリアを持って僕の横に座った時を狙ってミホがお弁当を出して来たのだ。
しかも、かなり頑張ったというだけあって、開けるのが恥ずかしいくらいのハートキャラ弁だった。
お弁当を、渡すミホと、ドリアを、スプーンに準備しているシェミの後ろに何か見える気もするけど、気のせいだと思いたい。
襲撃事件があった日から一週間がたっていた。
あれだけ派手に、街は壊されたのに、誰一人死ななかった事もあり、事件そのものの事を口にする人はだんだんといなくなっていた。
街は今も、瓦礫の処理や、建て替えが行われている。
学校の寮は全て解放されて、家を失った人を受け入れていた。
まあ、寮に入れるのは、学校関係者や、学生の家族限定ではあるけれど。
そんなこんなで、今までと変わらない日常が続いている。
「ご飯の心配は、もう大丈夫ですよ」
「いつも、同じ味だと、飽きてしまう事もあると思いますよ」
「シェミ様、、、私の味に飽きてしまわれているのでしょうか?」
何か、横の会話がカオスになって来ている気がするけど。
ミホの感情が戻って来てからというもの、講義の合間や、休み時間、暇さえあれば、ミホは僕の膝の上に乗ってきたり、もたれかかって来る。
それを見て、シェミが変な対抗心を燃やしているのだ。
「シュウと、シェミって付き合ってるの?」
「いや、あれは、シュウが、人形にべったりだから、苛立ってるんだろ?」
そんな声すら聞こえて来る。
この国は人道主義と言う名の、生血優先の国だ。
神血は、人形と言われたり、生血の持ち物として扱われている事が多い。
だから、周りから見たら、僕とミホが恋人だという考えにはならないのだけれど。
「私は、13歳からシュウ君の世話をしてるんだから。あなたは引きなさい」
ミホが怖い。
「この国じゃあ、神血と生血の結婚は、認められていないのです。諦めるのはミホさんです」
「なら、別の国に行けばいいだけじゃない」
だんだんと雲行きが怪しくなってきている。
「えっと、えっと、、」
ごめんロネさん。
「やりますか?」
「やります?」
「はい。そこまで」
シェミの魔力が膨れ上がった所で。
二人の頭を押さえて止める。
本当に、僕をはさんでそういう事をやるのは止めて欲しいと思う。
とりあえず、シェミのドリアをぱくっと食べると、なかなか恥ずかしいミホのお弁当の処理にかかるのだった。
「ほんと、お前リア充全開だな」
ラハムが、苦笑いを浮かべたまま声をかけて来る。
ラハムは、あの事件の後、心を入れ換えた。そう思えるほど、明るくなっていた。
「俺は、シェミ様を見ていられるだけで幸せだがな」
そう言いながら、奥でまだミホと喧嘩をしているシェミを眺めている。
「それはそうと、、お前、今度の大競技に出る競技決めたのか?」
ラハムの何気ない一言で思い出してしまった。
このアミュエル学園には、年に一度。
一週間かけて行われる、全校生徒同士の対戦があるのだ。
模擬銃、剣、槍、何でもありだ。
また、情報戦もあったりする。
基本、中学生、高校生、大学生と近い年同士での戦いとなるのだけれど、とんでもないほど強いと高校生と大学生との決勝があったりする。
「んー。多分、出るけど、棄権するかな」
僕が返事をしていると。
「今年は、作業用自動機構兵器を使った格闘対戦なんてのがあるらしいぞ」
その言葉に、思わずラハムを二度見する。
それは、、練習も出来るなら参加したくなる。
通常なら、36万の戦闘力相手に戦える相手なんていないけど。
作業用自動機構兵器となれば、話が変わって来る。
魔力の制御。とくに、魔力500だけ取り出す訓練は常にしたいと思っているのに、なかなか自分一人ではできない事だし。
「俺は、それに出ようと思っている。ちょっとラフムの訓練もしたいと思っていた所だ」
笑う赤紙の男を見ながら、僕はその競技に参加する利点を考えていたのだった。
「私も、作業用自動機構兵器の方へ出ようと思ってます」
シェミは笑って答える。
「魔力制御。出来るようにならないとです」
そう言いながらも、今僕の手を握って、魔力の流れと閉じ込めを僕にしてもらっているのだから、あまり説得力はなかった。
「シュウ様は、それに出られるのですか?」
満面の笑みのシェミの横で、ミホはじっと目を瞑っている。
ミホがやっているのは、ある意味索敵に近い。
夕方、ゆっくりする前にかなり広範囲の索敵をするようになったのだ。
ミホ曰く、「もし、二人でゆっくりしている時に、襲われでもしたら神機で更地にしそうだから」だそうで。
「うん。出ようかなと」
僕の答えに満足したのか、シェミはさらに顔を明るくして「楽しみです」
と笑うのだった。




