暴走
「今回の実習は、コレに乗ってもらう。これは、作業用自動機構兵器であり、土木用として作られている。ただ、戦闘も出来るという便利な自動機構兵器だ」
講師として来ている男性が、指さしているのは、人型の自動機構兵器だった。ただその両手がスコップになっている。
コクピットも無く。操縦席がそのまま外から見えるようになっているのも特徴かもしれない。
「初めてなのですか?自動機構兵器が」
何台も並んでいるそれを見ていると、シェミが顔を覗き込んで来る。
「いや、、まぁ、、」
歯切れの悪い返事しかできない。生まれてこの方、僕は、戦闘用の自動機構兵器しか見てないから土木用なんて、確かに初めて見る。
作業用、特にこういった普段使いとして乗る自動機構兵器には、接続者がいなくても動かせるように、運転席そのものに、疑似接続者が接続されていたりする。
こういった部品として使われている所も、神血が人として扱われていない理由の一つなんだろうけど。
こうしてみたら、ユダの教育方針は、本当に潔いと思う。
強ければ、いいのだから。
皆がそろって自動機構兵器に乗り込んで行くのが見える。
どんどん、学園の同級生たちが、自分の目の前の自動機構兵器に乗り込んで行く姿をを見ていたのだが、シェミが、自動機構兵器の前で、そわそわしている。
「乗らないのか?」
僕がシェミの方を見ると。
彼女は、両手をしっかり握ったまま、震えているように見えた。
僕が疑問に思っていると。
「シェミはね、自動機構兵器、ニガテなんだ」
ロネが、耳打ちをしてくれる。
僕がシェミを見つめると。
「いや、、なんでもありません。乗れますから」
いやいやながら、乗り込むシェミ。
彼女が、操縦席に乗り込んだ瞬間。
シェミの自動機構兵器が、突然両手を振り回し始めた。
「ああっ!またっ!」
ロネが叫ぶ。
「また?」
「シェミが自動機構兵器に乗ると、結構な確率で暴走するの!」
ロネの言葉通り。
シェミの操縦する自動機構兵器は、両手を振り回しながら他の生徒の自動機構兵器をなぎ倒して行く。
「魔力がこんがらがっています」
ミホが正確に状況を確認している。
魔力制御も何も出来てない。
「シェミ!降りて!」
そんな声も全く聞こえていないのか。
シェミの自動機構兵器は暴走をしたまま。
「本気で?」
ロネの呆気にとられた声が後ろから聞こえる。
慌ててロネの前に立った僕は、ロネをはじきとばそうとしていた、僕の身体の2倍はあるスコップを片手で受け止めていた。
手の平に、魔力盾を発生させているとはいえ、その光景はあきらかに異様だったと思う。
だって。人が、片手で機械の動きを止めているのだから。
どうみてもおかしい光景だけど、作業用自動機構兵器なんて、せいぜい、戦闘力3000程度。
僕は、、、36万だ。
片手で受け止めるくらい、全然余裕だったりする。
ギシギシと音を立てて暴走し続ける自動機構兵器を片手で完全に抑えているが。
「このままじゃ、ちょっと面倒かも」
僕が小さく呟く。
「シェミ!シェミ!」
ロネが必死に叫ぶ
けど、シェミは、、明らかにパニックになっていて、操縦席で、訳の分からない動きをしているのが見えてしまった。
「はぁ」
僕は一つため息を吐くと。
「ミホ」
「はい。分かりました」
するするとミホが紐状になり、僕の身体にまとわりつく。
今まではここで、はじかれていたが。
するりと体全体を包み込み。
素直にスーツとなるミホ。
スーツ化したとき。
少しだけ右手が締まったような気がした。
『魔力が混線しているようです』
「ハッキング、、できるか?」
『可能です。しかし、全員に認識されてしまいます』
「今更だ」
『了解しました』
ミホの返事とともに。
作業用自動機構兵器が、震えて。活動を止める。
「え?え?」
動かなくなった自動機構兵器に、さらにパニックになるシェミ。
その顔を、僕は直接両手で包み込んでいた。
「へ?」
シェミが気の抜けた返事をする。
「降りるよ」
僕の声に、顔を赤らめながら大人しく操縦席から降りるシェミ。
「そのまま、シュウ君が乗ってくれ」
突然、そんな事を言われてしまう。
ちょっと、待って。ミホがスーツ化している状態で、疑似接続者が乗っているシートに座るなんて、無茶苦茶だ。
大きなパイプに、穴を開けてそこにホースをつなぐような物だから。
意味すらないし、絶対魔力がおかしな風に流れる。
そんな事を思っていると、するりとスーツ解除を行うミホ。
「ハッキングついでに、一部の調節を行っています。500くらいで動きます」
隣に立ったミホがささやいてくれる。
それを聞きながら、先生の言う通りに自動機構兵器に乗る。
乗った瞬間。
「これは、、、そういうことか、、」
乗って分かってしまった。
「魔力が、、そうか、、」
魔力統制。
その流れが、暴走の原因をあっさりと見つけてくれていた。
「だとしたら、、シェミも?」
僕はハラハラした顔でこちらを見ているシェミを見つめ返すのだった。




