変わる日常
「うーん」
僕は、ゆすり起されて目を覚ます。
「ほら。朝よ。起きて」
かなり強めにゆすられてしまい、目を開けると、そこにはくりっとした目の黒髪の少女が立っていた。
「ああ。おはよう」
「おはようじゃないの。遅刻するわよ」
かわいらしい顔が少し怒っている。
時計を見ると、7時を回ったところだった。
「朝ごはん、きちんと食べて来なさいよ」
そう言って、バタバタと家を出て行くミホ。
そういえば、ミホは柔道部だった気がする。
朝練でもあるのかも知れない。
俺は、ゆっくりと体を起こして。。。
そのまま、目を閉じていた。
「な、ん、、で、、ち、こ、く、す、る、か、な!」
授業の途中で入ってきた俺を見つけたミホは、授業が終わると同時に、俺の前で叫んでいた。
いや。やっぱり、2度寝って最高だし。
そんな事を思っていると。
「二度寝したんでしょ?絶対そうでしょ?なんでそうなるのよ!」
机をバンバン叩きながら叫ぶミホ。
あの襲撃の後。
もともとの教室は大穴が開いて壊れてしまったため、別の場所に俺達のクラスは移動したのだが。
事故後の登校初日。ミホは真っ先に女子に囲まれていた。
どうやら、首元にある赤い紋章を見つけられたらしい。
首元や、頬など。
相手となる、支配者を見つけた接続者は絶対に隠せない場所に紋様が出てしまう。
そして。支配者は何故か隠せる場所に紋様がついてしまう。
俺は胸にその紋様がついているため、服を着ている限り見えないのだ。
「ごめんね。言えないの」
そう言って、契約の事はごまかしていたのだが。
今まであまり絡んだりした事がなかった俺に対して、ミホが怒ったり、話しかけたりする姿を見て、クラス全員がミホが誰と契約したのか、自然と分かってしまった。
「クズが」
そう言われた事もあったし。女子からは、「最低野郎」と噂されている。
あの事故のどさくさまぎれに、ミホに襲い掛かり、無理やり契約したと思われているのだ。
「君にはほんとうに失望したよ」
などと、ユウキにまで言われてしまう始末だった。
あながち間違いでないため、強く否定する事も出来ない。
女子全員からは、「犬にかまれたと思って、解約したら?」
と言われ。
カンパをしようかなどと解約費用を集めようとする女子までいた。
しかし、そんな女子たちにミホは笑いながら。
「ダメ人間を一流にするのも楽しそうじゃない?」
そう笑っていたのだった。
「で、どこまで進んだんだよ?やっぱりヤッたのか?」
ミホのお叱りタイムの後。
同級生が笑いながら聞いて来る。
どういうわけか。ミホは、契約後、次の日から僕の事をかいがいしく世話をしてくれるようになっていた。
朝ご飯の支度をして、毎朝起こしに来てくれる。
なぜか、合いかぎを持ってたりしている。渡した覚えは無いから、ケイトさん辺りが渡したのだろうけど。
強引に、契約したのに、にこにこと笑っているミホを見ていると、なんとも言えない気分になる。
そういえば、この前成長を測る意味で、戦闘力調査を進学以来、再び行ったのだが。
俺の時だけ数値がバグっていたらしい。
その時の数値が、¥©ぇ80ぃ だったため、9から、80に俺の戦闘力表記が変わっていた。
それすら、ミホと一緒になったために、俺の数値が伸びたのだと、クラス中でミホの評価が爆上がりする結果だった。
何の因果か。それ以来、俺を避けていたクラスメイトが良く声をかけてくれるようになったのは不思議だと思う。
「いや。まったく。手も触れてない」
首を振って同級生に答えてやる。
ミホが俺の家の鍵を持っている事は一応秘密であるし、時々泊まりに来ている事も教えてやる必要は無かった。
「ぼら、授業を始めるぞ!」
ざわざわと話をしていると、先生が教室に入って来る。
僕らは、慌てて会話を切り上げるのだった。
「で、あるからして、千年続くこの戦いの始まりは、神々の戦いであったと・・・」
歴史の授業は、本当に眠たくなる。
歴史と言っても、千年間戦い続けてきたこの世界では、ずっと戦いの歴史である。
何処が、どこを攻め落とし。
何処が何処を取り返した。
ずっとその繰り返しなのだ。
しかも、その歴史は、軍の実験室で頭に叩き込まれてしまっている。
何処が、強いのか。国の特色まで叩き込まれている。
その戦争の歴史の中、最適化された武器の強化版を実験として毎日扱わされているのだ。
全ての武器に、血みどろの戦いの歴史がある事を嫌顔でも、覚えさせられてしまう。
先生の言葉を覚える気も無い僕は、何気なく外を見る。
少し赤かみががっている空は、戦争初期に、使ってはならない武器を使ったかららしいのだが、良く覚えていない。
ぼーっとしていると、隣から手紙が飛んで来る。
横を見ると、ミホが少し怒っていた。
その顔は、『ちゃんと聞きなさい』と言っていた。
ミホの戦闘力は、今まで100だったのだが、何故かこの前の測定で、150まで上がっていた。
神血の子の戦闘力が跳ね上がるのはなかなか無いため、先生方も驚いていた。
生血の人間は体を鍛えれば戦闘力は100から120くらいまでは上がる事が分かっているのだが。
神血の人間は、その体が機械というか、生体ナノマシンが9割以上なので体を鍛えたりして、戦闘力が上下する事は無い。
あるのは、魔力の上昇だけなのだが、生まれつきとも言われている、魔力が上昇する事もほとんど起こる事ではない。
はずなのだが。
ミホの戦闘力上昇は確実に起きている。
何が起きたのか、知りたがる先生方に、
「軍機密に触れますよ?」
とにこやかに笑っていたミホを見る限り、ミホも今の状況を楽しんでいるようにも思える。
したたかな。可愛い彼女に少し振り回されて、それでも日々を楽しんでいる自分がいた。
学校の帰り。
服などを、俺の家に置いているミホとは、自然と一緒に帰る事になる。
少し一緒に歩いていると、目の前にいつもの車が止まる。
今日は、何故か、オープンカーの天井をきちんとかけていた。
「にいちゃん。いい場所知ってるんだけど、行かないかい?」
「金髪から、さらに輝くような金色にしたんですね」
「似合ってるだろ?これから、ちょっといいところへ付き合わないかい?」
「間に合ってます」
明らかな下心満載なナンパに、冷静に返す。
ミホは、その間、俺の裾をしっかり握って離さない。
緊張しているらしい。
「また振られたかぁ」
「彼女連れの男の子を誘う方が間違っているのよ」
突然、後部座席の窓が開く。
「許可が整ったわ。お待ちかねの起動実験の準備に取り掛かるわよ。来なさい」
それだけ言うと、後部座席の扉を開けるケイトさん。
俺達は、仕方なく車に乗り込むのだった。
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