ミホという神血
「ありえん!ありえるはずがない!」
800体という、とんでもない数の自動機構兵器を出して、今帰って来たのは、400体のみ。
しかも、ほとんどが爆散と言う、修理も何も無い、回収すら出来ない状態での破壊。
本来なら、相手に機体の引き渡しをかけて停戦協定など結び、一回時間を稼げる所なのだが。
「全て爆散となれば、それも不可能ではないか、、」
頭を抱えるしかない。
「あの、、、お茶が入りましたが、、、」
少年が、おずおずと差し出したお茶をそのまま、少年へとぶちまけ。
熱さで悶える少年を見る事で、少しだけ自分のイライラを抑え込む。
「生血、、許さん、、」
それだけ言うと、机を激しく叩く。
「神機など、、、神機など、、あってはならぬのだ!」
持たぬ者の怒りは、まだまだ収まりそうには無かった。
「えーと」
困惑しているミホ。
基地に帰ってから、ミホの身体検査が入った。
「どう見ても、ミホさんの様子がおかしいの」
アカリが、小さく呟く。
「うん。僕もそう思う。ずっと敬語と言うか、よそよそしい話し方しかしていなかったから」
ユウキも暗い顔でうなずいていた。
「で、、、スーツ化が出来ないの、、よね」
「・・・」
僕は、ケイトさんが話しかけてくれているにも関わらず返事が出来ないでいた。
何故、そうなっているのかすら分からない。
けど、スーツ化しようとしたら、ミホを完全にはじいてしまう。
「あれは、、、昔を思い出すわね」
ケイトさんは、暗い顔をしている。自分がシュウのスーツになろうとして、はじかれた時の事を思い出していた。
「けど、、それよりも、、、」
モニターに表示されたその数値に、ケイトさんは茫然としている。
ミホ カンナギ
戦闘力 200
魔力 500
血液結合率 0%
身体的な特徴は、全て以前のミホのデータと寸分違わない。
しかし。
「これを、どう見るのかしら。シュウ君は」
ケイトさんは目の前に表示されたそのデータに悩むのだった。
「・・・」
僕は、目の前のデータを見て、何も言えなくなっていた。
魔力が。
自分の魔力に浸されていた全ての魔力が無くなっていた。
「正直、、これは、、ね」
「大丈夫です。契約する前のデータ、、いや、契約直後のデータ、、ですね」
思わず僕は敬語で返事をする。
「正直、私も見た事のない事で、何と言っていいか分からないのだけど、、」
「記憶喪失、、、」
「違うわね、、時間退行、、、もしくは、若返りと言ってもいいかもしれないわね。
ここ、、見てみて」
ケイトさんは言いよどみながらも、一つのデータを指ししめす。
そこには、年齢、、13歳相当 と記載されていたのだった。
「正直、、これは神機の影響、、としか言いようがない症状よ。今まで聞いた事も、見た事も無い症状だわ。今までの全てがリセットされるなんて」
「でも、料理は同じ物が出来ていましたよ」
不思議に思いケイトさんを見ると。
「言い難いのだけれどもね、私たち神血は、生血みたいに、脳という物が無いの。
だから、全ての行動記憶、経験して来たものは、生体ナノマシン一つ一つが全て覚えているのよ」
「生体ナノマシンそのものは、変化がないから、、」
「覚えた味付けとか、料理は出来ると言う事ね」
僕は、小さく震える。
なんだよ。それは。
記憶も、心も13歳まで戻っている、、いや、13歳くらいに時間が巻き戻っているのに、行って来た事は体が覚えているなんて。
そんな、ちぐはぐな、、。
「気がついていると思うけど、あまりいい状態ではないわ。体は19歳で、今までの経験も行って来た事も全て覚えているのに、心が、正確には気持ちが13歳まで戻っていると言う事。その差は広がって行き、やがてミホさんの心を少しずつ壊して行くわ」
「だからって、、、どうしろって言うんだ、、」
やり場の無い怒り。やり場の無い悲しみが、僕を包み込む。
どうしようもなくなって、僕は力いっぱい目の前のコンソールを殴りつける。
その瞬間。
壁ごと部屋の一画が吹き飛んだ。
「え、、、、」
全員が茫然とする中。
「シュウ君!すぐに、検査室に入って!」
ケイトさんの叫び声が響き渡った。
「これは、、、」
「報告、、するっすか?」
「信じてもらえるはずもないでしょ、、、」
ケイトと、カイダは二人で目の前に流れるデータに頭を抱える。
人用の検査機では、魔力測定が出来なくなるので、シュウ君に対しては、自動機構兵器用の検査サーチを使うのだが。
目の前のデータに、二人は茫然とするしかなかった。
シュウ モリキ
戦闘力 36万2千8百8十
魔力 20万
「自動機構兵器かよ、、、」
「そう言われても仕方ない数値、、、ね。どうして、こんな数値が出ているのかは、不明だけれども、、今までの9 が、、」
「9の、階乗だったとすれば、納得、、っすか」
二人は目の前の数字に、動けなくなる。
「でも、今までこんな数値、一度も出なかったすよ」
「封印、、抑制、、もし、神機が、自分を乗りこなせるまで、能力を抑え込んでいたとしたら?」
「いや、それでも、ありえないっす。この数字は、絶対に、、」
人の姿をした自動機構兵器が、二人の目の前で、寝ていたのだった。




