窮地
「ミホ!サポートよろしく!」
それだけ言うと、魔力をゆっくりと絞り出す。
「ちょっと、シュウ君?」
ミホが慌てる声が聞こえる。
『サポートシステムカット。魔力制御カット』
「ちょっと、?」
『自己修復システムフル稼働』
「ああ、、!もう!回復が間に合わなくなっても知らないからねっ!」
ミホが投げやりな返事をする。
「知ってるよ。だけど、、生き残るよ」
僕は、自分の手を握りしめる。
細く伸ばした魔力が、自動機構兵器の全身を駆け巡る。
「行くよ。ミホ」
「了解です」
僕の白い機体は、一気に地面を蹴り上げる。
「左から砲撃!魔力1万!」
「受ける!」
片手で、魔力盾を生み出し、その砲撃を受け止め開いている片手で隣の敵を切り裂く。
「5体目!」
ミホの声が聞こえる。
すでに、コクピットの中は、全て赤く染まっている。今の魔力盾で、また一つ増えた気がする。
「アラーム20個目です」
ミホの言葉は、呆れすら含まれている。
「まだ動けるか?」
「ギリギリ動けるようには修復してます」
「助かる」
それだけ言いながら、右足で敵を蹴り上げる。
「6体目、撃破」
敵のコクピットが潰れているのが見える。
「右足の装甲、潰れました」
「まだいけるよな?」
「全然、大丈夫です」
僕達は笑い合う。
かなり厳しいが。
生き残る。
その思いを強くした時。
「なんで!それは無理!」
ミホの焦りの声を聞いた瞬間。
凄まじい勢いで吹き飛ばされる。
ふと見ると、右手が無くなっている。
「ずいぶん、派手にやってくれるじゃないか。汚れた血の分際で」
めずらしく、声をかけてくる敵の自動機構兵器。
「敵、、戦闘力100万 A級自動機構兵器」
ミホの言葉が泣き声に聞こえたのは気のせいだろうか?
「A級とか、なんでこんな所にいるんだよ!」
カイダさんの通信が、遠くに聞こえる。
「十分好き放題やってくれたみたいじゃないか。だが、これまでだ」
相手の自動機構兵器が、実剣をこちらに向けて来る。
「やれるか?」
「かなり、、、厳しいです」
「そうか」
僕は震える体を押さえつける。
「だから、、死ね」
次の瞬間。
避けたはずなのに。
足首を見事に切り飛ばされる。
「ほう。足をもらう予定だったのだが。良く避けた」
褒められても嬉しくもなんともない。
「スピードも、反応速度も違いすぎます」
分かってる。
ミホの分析を聞かなくても。それが、戦闘力20万の違いというやつだ。
「くそっ」
僕が悪態をついた瞬間。
再び吹き飛ばされていた。
「これで、戦闘不能だろう。後は、的にすればいい」
左手まで吹き飛ばされ。
敵の自動機構兵器20体が、一斉に攻撃してくる。
無数の魔力砲にさらされる。
「おまえらやめろお!!!!」
ゴウトが叫びながら、助けに入ろうとするが。
「練習の邪魔だ」
一撃で、その首を跳ね飛ばされていた。
「助けれない」
「どうしよう!ねぇ、ユウキ!どうしたらいい!?」
アカリが必死に叫ぶ。
けど、何も出来ない。
あの中に突っ込む事も、動かなくなったゴウトの黒い機体を踏みつけている相手に勝てる気もしない。
何も出来ない。
目の前で、みるみる崩れていく白い機体。
コクピット部分だけ、当たる前に赤い光がはじけとんでいるのが見える。
最後の抵抗が、ひどくはかなく見える。
「くそぉ!シュウ!」
ユウキの叫びは、祈りは誰にも届かない。
激しい衝撃の中。
「シュウ君。ごめんなさい。ありがとう。好きです」
突然、ミホの言葉が聞こえ。
白い機体が弾け飛ぶ。
死んだと思った。しかし、僕たちは、黒い光の球の中に浮かんでいた。
全ての魔力砲の光りはその光の中に吸い込まれて消えて行く。
「ミホ、、ミホ、、」
僕が手を伸ばすが、、届かない。
黒い光は、一瞬で小さく僕の身体の中に入って行き。
黒い小さな機体が、その場に出現する。
『ルシフェル、起動。魔力値20万、、状況把握。敵戦力殲滅に、必要魔力不足。支配者の能力制限を解除。全力発動を許可』
ミホの声なのに。違和感しかない、感情がまったくない声が響く。
シーツを締め付けてくる事も無い。
『空間統制を、支配者と同期』
僕が右手を動かす。
黒い機体が、右手を上げ。手を開いたり、握りしめたりする。
『ルシフェル、通常起動』
ミホが呼んだのだ。
この機体を。
やめろと言ったのに。
「ミホ、、、、」
僕は泣いていた。
ミホの声が聞こえない。
ミホの心が分からない。
一緒にいるのに。
ミホを着ているのに。
遠く、遠く離れている。
ただ、、一つ。
『あなたを、、守ります』
その一言だけが心に強く残る。
「ミホ、、、行くよ」
僕は、答えのない言葉を発して、目の前の大群をにらみつけるのだった。




