次の戦場へ
「へぇーー。文化祭みたいなものっすか」
「学園祭ね」
カイダさんと、ケイトさんは、周りを見ながら笑っていた。
学園とは名ばかりの、駐屯地ではあるが、生徒たちが作ったいろいろな食べ物や、景品くじが並んでいる。
「パンケーキとか、美味しそうね」
「太るんじゃないっすか?」
「コーヒー、丁度熱いのがあるから、買ってこようかしら」
「いや、それは、勘弁っす。熱いのは嫌いっす」
ぶっかけられるかも知れないと、カイダさんは思わず自分の顔を手でかばっていたりする。
「仲いいですよね」
そんな二人を見ながら笑っているミホ。
「「ぜんぜん!」」
まったく同時に叫ぶ二人を見ながら、思わず僕も笑ってしまう。
「まあ、みんなが楽しそうにしているのが分かって良かったわ」
ケイトさんは、小さく呟きながら笑っている皆を眺めている。
そう。ここにいる生徒はみんな従軍経験があり、さらには、数組は、ゼウス神国の戦争に参加していたのだ。
あの時の戦いを思い出し、人を殺す怖さと、神機にミホを取られそうになった事も思い出してしまう。
「顔色悪いよ?大丈夫?シュン君?」
ミホが僕の顔を覗き込むようにして心配をしてくれる。
「うん。大丈夫。ちょっといろいろと思い出してしまって」
僕の言葉に、ミホは少し暗い顔をしたのだった。
「おや、あなたは、、」
突然後ろから声をかけられて、振り返るとミホと同じ年齢と思われるくらいの黒髪の女性と、後ろに髪をくくった男性が立っていた。
「パパ、ママ」
ミホが、嬉しそうな顔をする。
そう、神血は年を取らない。
寿命も、200年はあると言われるくらい長寿で、病気もしないのでいつまでも若いままだ。
「ああ。神薙の。お嬢様にはいつも助けられています」
ケイトさんが、二人に頭を下げる。
「いえいえ、私たちは娘が何をしているのか、何に乗っているのかすら知らされていないですし、知る権利もありませんので、気になさらないでください」
ミホのお父さんがそんなケイトさんに頭を下げ返す。
「そういえば、ミホの両親って、なんで接続者にならなかったの?」
僕がミホにこそっと聞いて見る。
「うーん。知らないけど、一族の誰かが接続者になったら、一族の誰かは、他の神血と結婚して、血筋を残すのが習慣なんだって。だから、私が接続者になったから、妹は、普通に結婚してるはずだよ」
そんな習慣があるのか。
僕は、ちょっと古い家のありえないしきたりを聞いて、旧家の闇を見た気がしたのだった。
「こちらが、ミホが関わった出し物なの?」
ミホのママが見ているのは、固定ライフルを使った射的。
ただ、的がめっちゃ動く。
ミホの演算結果をふんだんに使っているため、ほぼ当たる事の無い起動をしている的には誰一人当てる事は出来ない。
いや、さっきユウキが当てて行ったんだったか。
景品は、二人でお金を出し合って買ったゲーム機と、ぬいぐるみだったりする。
ぬいぐるみは、ミホの部屋に別の物があったりするけど。
「あーー。当たらないわねぇ。私も、演算には自信あったんだけどなぁ」
「そりゃ、私の最高傑作だもの」
ミホのお母さんが悔しそうな顔をする。
実際、ミホの能力は最初から高かったから、お母さんの力を受け継いだんだろうなと思っていると思っていると。
突然、アラームと共に、目の前にモニターが強制表示される。
僕だけじゃない。
生徒、親、さらには、カイダさん、ケイトさんの前にも表示されていた。
「シュウ君、、、、」
ミホが、泣きそうな顔をする。
僕も泣きたくなる。
そのモニターには。
『緊急招集』
のみが赤い文字で光り続けていたのだった。
「集まってもらったのは、他でもない」
学校の広場に全員集められ。
そこに舞い降りて来たのは、星のマークが着いた自動機構兵器。
「第3隊」
ケイトさんが呟く。
「緊急招集!ご苦労である!今さっき、遠国である、機構国家モータスから宣戦布告がなされた!モータスは、停戦及び、間戦協定に参加していない国であり、規約違反ではないのだが」
その説明に、全員がざわめき出す。
機構国家モータス。
自動機構兵器の保有率が全世界トップの国だ。
今、ユダが保有している自動機構兵器は400体から500体くらいだと思われるのに、機構国家モータスは、3000体近く保有している。
「いま、800体からなる大部隊が接近中であるという報告が来た!これは、ほぼ敵にしてみれば全戦力である!」
皆の顔色が悪くなっているのが見える。
「迎撃にあたるため、全部隊の出撃命令が下される!この学生部隊の指揮は、、、」
「カイダ中佐!ケイト少佐!二人に任命する事にする!」
「うそでしょ?ゴウダ君とか、中央所属じゃない!」
ケイトさんが叫ぶが。
「学生は、一時的に、全配属を解かれている!今から再編成している時間も余裕も無い!全機、調整を済ませた上で、1800時に、荒野前の基地に集結する事!以上だ!」
それだけ言うと、自動機構兵器は、飛び立っていく。
「マジかよ、、、」
「また、戦いなの、、」
「嫌だよ、、、」
皆の声が暗い。
「シュウ君、、、」
ミホが泣きそうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫」
僕はそんなミホを抱きしめるのだった。
絶対に、神機には乗せない。そんな気持ちを込めて。




