足音
「あの子たちの様子はどうかね?」
「以前と変わらず、学校生活を送っているようです」
「なら良かった。カウンセリングの方も十分なようなだな」
「はい。ぜウスとの戦争に参加した全員の心理的負担はほとんど無いようです」
その報告を聞いて、一息つく、初老の男。
ぜウスとの戦いは、いつも気を遣う。
自動機構兵器同士でも、殺し合いの後は、うなされる支配者が多いのに、人が襲ってくるゼウスとの戦いは、廃人になる者も出るほど辛い戦いだ。
「精神負担がひどすぎて、使えなくなるなど、あってはならぬ事だからな」
「はい。我が国の支配者は、それほど多くありませんゆえに」
その報告を聞いた男は、一つ大きなため息をつくと、ゆっくりと視線を外へと向けるのだった。
「だからっ!いつも言ってるでしょ!」
朝起きると同時に、何故かミホに怒られる
「あのプリント!出しておいてって、昨日言ったじゃない!何処にしまったの?」
いや、だから、その辺に置いてあったと思うんだけど、、
そんな事を言おうとした瞬間、目の前にミホの顔がある。
「きちんと書類関係は、片付けてって、いつも言ってるでしょ_」
その威圧感に、思わず何も言えなくなってしまう。
あったはずの、プリントが無くなっていたのだ。
「データ送信でいいじゃないか」
そう思ってしまうが、何故か、時々、プリントが配られてしまう。
そこに書いてあるのは、家の人を呼んでみようといった趣旨の学校行事のプリントだったはず。
両親はいないので、僕は気にもしていなかったのに。
「ちょうどいいから、ケイトさんと、カイダさんに来てもらったらいいじゃない」
ミホがそんな事を言い出して、その気になってしまったのだ。
「あの二人は、親じゃないから、、」
「あら。でも、小さいころから見てくれていたんでしょ?」
「そうだけどさ」
僕の返事に、にっこりと笑うミホ。
僕は小さくため息をつくだけだった。
「いいよ」
ミホが連絡を入れると、あっさりと了承してしまうカイダさん。
「ちょうど、そちらへ行く用事があって、明日からそっちの町にしばらくいる事になったの。
だから、丁度良かった感じかしら」
ケイトさんも笑っている。
「じゃあ、お願いしますね」
ミホが笑いながら、モニターへ返事をしている。
「あと、シュウ君の体調管理は、お願いね。ミホさん。特に、野菜をしっかり食べさせる事」
「大丈夫です!無理やりでも口に放り込んでますから」
そんな、物騒なやりとりすら聞こえて来る。
「口移しで食べさせて欲しい?」
なんて言われたら、恥ずかしすぎて食べるしかないでしょ。
思わず顔が赤くなっている僕に。
やり取りが終わったのか、空中に浮かんでいたモニターが消える。
「だって。良かったね。シュウ君」
「いや、どうでも、、」
言いよどんでいると。
「ダメ。私が嫌だから」
ミホが少し、怒った顔で僕を見つめている。
「だって、私の方は、両親とも来てくれるのに」
小さく呟くミホの声を聞いて、僕は思わず彼女の頭を撫でていた。
「神機、、、か、、、それを使ってこちらを侵略するというのか?」
「実際、バルカン帝国は、神機を潰すためにユダへと侵攻したにも関わらず、返り討ちに在っています。ユダにとっては、想定内だったでしょう」
「AAA級とも言える、首都防衛自動機構兵器を、瞬殺する、、か」
「勝てますか?」
「無理だな。あれほど巨大で、あれほど兵装を持った自動機構兵器は、バルカン帝国にしか存在していなかった。それが瞬殺とは」
しかし、、
男は、目の前のデータに目を通す。
「この状況で、本当に攻めてくるのか?」
どう見てもユダは連戦にて疲弊している。
戦争が出来そうな状況ではないのだが。
「この状況だからです。相手は神機一機あれば、国を亡ぼせる」
「たしかに、、な」
ゼウスでの戦いのデータを見せられては、納得するしかない。
国を一撃で滅ぼすとも言われた、神の雷を、あっさりと止めてしまった黒い神機の実力は、ゼウスの神機よりも上という事になってしまう。
ユダにとって、ゼウスに手出しが出来なかった理由が無くなってしまったのだ。
「なら、、ば、、か」
だが、ゼウスを叩くには、戦力が足りない。足りないのならば。
「はい。世界で、一番自動機構兵器を保有している、この国。モータスを狙ってくるのは確実かと。自動機構兵器の確保のために」
「生血の思い上がりがっ!」
思った事が同じであった事に。
激しい憤りを覚える。
「思いあがった、馬鹿に、思い知らせねばならぬのか。我々の、いや、神血の本当の力を」
「はい。それこそが、私たち、神に選ばれし生命の役目かと。そして、愚かな生血が持つには強すぎる力を、保護する事は我々の宿命であるかと」
小さく頭を下げる男。
その姿を見ながら、椅子に座ってデータを見ていた男が立ち上がる。
勢いよく立ち上がったため、テーブルの上にあった飲み物が落ち。
床の上で割れてしまう。
それを慌ててふき取るのは、12,3歳くらいの少年。
「痛っ!」
少年の手から、割れたコップで切ったのか、血が流れるが見える。
だが、そんな少年を全く視界にも入らないといった風に無視しながら、男は入り口に向かって叫ぶように指示を送る。
「全員を集めろ!押し寄せてくる前に、相手の全ての自動機構兵器を回収してやる!」
「了解しました。全幹部に、招集命令を送信します」
その声を拾い、入り口近くにあったAIが反応する。
「生血。思いあがるな」
男はそれだけ言いながら、流れる血を舐めている少年の頭を踏みつけるのだった。




