悩み
それからしばらくして。
学校の廊下の前で、2,30人の生徒が集まっていた。
学校に張り出されているのは、今回の試験結果の結果順位。
この順位が、上であるほど次の試験や、授業の技術練習の順番に関わってくるため結構大事であったりする。最下位だと、ほとんど実技の練習が出来ずに授業が終わってしまう事もあるのだ。
「で、、何か言うことは?」
そんな中、僕はその順位を見ながら、隣にいる相方にジト目で話しかける。
「ま、、まぁ、こんなものじゃない?」
そう言って苦笑いをしているが、ミホの順位は、1位。しかも、10科目の中、980点という、脅威の点数だった。
「え、、っと、、、ほら、シュウ君も、おめでとう」
ミホが引きつりながら順位を指さす。
僕の順位は、970点で、2位だったりする。
返って来た答案用紙に、小さく『習っていない所は気にしなくてよろしい』と書かれてあったりしていたけど。
「お前ら、ほんとうに、凄いんだなぁ」
ゴウトが、心底感心した様子で話しかけて来る。
その後ろで、ユウキは少しだけきつい顔をしている。
ゴウトは、16位、ユウキは、6位。
そして、、そのさらに後ろで、アカリは、順位を見ただけで走ってその場からいなくなってしまったのだった。
「なぁ、アカリを知らないか?」
テスト結果発表の次の日。ミホと二人で話をしていると、ユウキが暗い顔で話しかけて来る。
「え?」
僕たちが疑問の表情を浮かべていると、ユウキはゆっくりと顔を上げて真剣な顔をしていた。
「あの、今日、学校に来てないんだ。いつもなら、休むなら休むで連絡してくれるのに、それも無い。というか、、」
言いよどむユウキの顔を見て、いろいろ察してしまった。
「連絡が付かないとか?」
ミホの一言を聞いて、すぐに両手を合わせ謝るしぐさをするユウキ。
「頼む!アカリを探してくれ!」
その真剣な声に、僕たちは顔を合わせ。
頷いていた。
「分かる?」
「ん-。なんとなく把握できそう。けど、ちょっと遠いかも」
魔力統制を全開で使い、アカリの魔力を探索する。
僕が見つけた魔力と、魔力の残滓をミホが処理し、座標を合わせて行く。
ミホの時空間統制は、僕の見つけた魔力をこうして座標に起こす事も出来る。
そして、ミホの中で、地図と一致していくのだ。
「見つけた、、けど、、、」
ミホの声が暗く感じる。
「西のスラム区画の方だよ」
「あのバカっ!」
ユウキが、初めてと言ってもいいほど、怒鳴るような声を上げて、教室から出て行く。
その姿が消えるか消えないか。
僕は手を勢いよく引っ張られていた。
「シュウ君!」
必死な顔をしているミホを見ながら、僕も頷いて走り出すのだった。
なんで、こんな所に来たんだろ。
私はトボトボと壊れた町の中を歩いていた。
もう、どうでもよかった。
私じゃ、ユウキの役に立てない。
どこかで絶対にミスをしてしまう。
自動機構兵器を動かせば、足を滑らせてしまったし。
水泳大会では、ユウキ君の動きについていけなかったし。
「ミスばっかりだ。私」
思わず涙がこぼれ落ちてしまう。
テスト結果を見て、本気で自分が許せなくて。
耐えきれなくて。
逃げ出してしまった。
そこからずっと歩いていた気がする。
ふと足を止める。
「もう、、どうでもいいや」
そんな事を呟いて顔を上げると。
にやけた顔をした、男の人達がこちらを見ていた。
「どうした?迷子か?案内してやろうか?」
「ちょっと落ち着ける場所があるから、そこで話でも聞こうか?」
そんな声をかけられて、私は思わずうなずいてしまう。
男達に手を引かれ。
暗い家の前まで来た時。
私の足が止まってしまった。
恐怖に? ううん。ユウキ君の顔を思い出して。
「ダメ!」
私が立ち止まり、抵抗しようとする。
「今更かよ!」
男達が私の手を強く引っ張る。
けど、幸いに、男達の力は私ほど強くない。
まったく動かない私に、男達がイライラし始めてるのが分かる。
引っ張っても動かない私に対して、手を引っ張っている方とは違う一人が拳を振り上げた時。
「俺の相方に、何してくれてるんだ?」
その拳が掴まれていた。茶色の目が真剣に怒っている。
その襟には、キラリと支配者である印である印章が光っている。
「ちっ。まさか、支配者さんの接続者かよっ!」
男達は、それだけ言うと慌てて逃げて行く。
ほっとした私は、ゆっくりと顔を上げる。
そこには、怒っていると思っていたユウキ君の、今にも泣きそうな顔があった。
そんな顔をしているとは思わず、ぼうっとしていると、突然抱きしめられる。
「バカが。お前は、俺の接続者だろ。勝手にいなくなるな」
ユウキ君が、痛いくらいに抱きしめてくれる。
「でも、、私、、」
口から、否定の言葉を出そうとしたら、その口を塞がれる。
「いいか、居なくなるな」
口を離して。それだけ言われる。
私はぼーっとした頭のまま、小さくうなづいていたのだった。
「どうして、あんな所にいたの?」
抱きしめられていた時に、ミホと、シュウ君が来てくれていた。
そして、今は、ミホと並んで歩いている。
前では、シュウ君と、ユウキ君が歩いているけど。
何故か、ユウキ君がシュウ君に謝っていた。
その後ろ姿を見ながら、私は小さく呟く。
「だって、私、ミホほど、出来ないもの」
テストの点も。
自動機構兵器の操縦も。
でも、その言葉を聞いたミホは、本当に泣きそうな顔をする。
「私はね、、うらやましいのよ。アカリが。だって、アカリなら、なんとかできるじゃない」
私が、そんなミホを思わず足を止めて見つめてしまう。
「私はね、、どうにもならないの。何も、出来ないの」
ミホは、歩きながら呟くように、吐き捨てるように声を出す。
私には、ミホが私よりも傷ついているように見えるのだった。
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