平穏に刺さる楔。
真っ暗な部屋の中。
数人の人影が立っていた。
「というわけでして、、」
「そのまま、ゼウスから逃げ帰って来たという事ですか」
「結構、帰りも死にかけたんですけどね」
男性や、女性の声が響くなか、少し若い男が苦笑いを浮かべながら報告を行っていた。
「どうしますか?」
青い髪の男が、ふと、後ろを振り返る。
そこには、黒いローブを着た誰かが立っていた。
「どうもせぬ。黒い神機は、不安定なままなのだろう?ならば、今何かをする事もあるまい。それよりも、ゼウスの、金色の神機の方だ。あれは、とんでもないぞ」
フードを深くかぶり、その顔は全く見えない。
「あれも、、なんですけどね」
アズーエル神父と呼ばれていた少し若い男は小さく笑う。
足元には、60歳と言われても納得できる顔を創っていたマスクが転がっていた。
「それは分かっている事だ。だが、2体の神機を同時に捕獲するのは、確実に無理だ。金色の神機だけであれば、こちらに取り込めるのではないのか?」
「だが、黒い神機。あれが、金の神機の鍵を握っている可能性が高い。」
「再び、起こしますか?」
「起こせるものなら、起こしたいが。無理であろう。黒は、用心深い」
「ふむ。このまま、議論をしていても、何も始まる事はなさそうだな。やむをえまい。神機が動いている。それだけで、その国は最強であると言っているようなものだ。ゼウスと、ユダ。二つの国には、とりあえず滅んでもらうか。神機を手放してもらう必要がある。この世界の平穏のために」
「統一など、絶対にさせてはならぬ。統一などしようものなら、、」
「1000年の我らの努力が無駄になりますな」
「全ての未来のために」
「全ての未来のために」
暗闇にいた人影が消えて行く。
最後に残ったアズーエル神父は自分の頭を撫でる。
「全ての未来のために、、か、、その未来は、人のモノなのか、それとも、、、」
「神機が、人を取り込む。この事実は何処に売ればもうかるかな」
アズーエル神父だった男の言葉は、闇の中へと消えて行くのだった。
「ほら、シュウ君」
僕は、目の前にいる彼女に、ゆすり起こされていた。
「時間」
ミホが、怒っているのが分かる。
時計を見ると、すでに8時にさしかかっている時計の針が見える。
「えーと、、」
僕が、ミホと、時計を交互に見ていると。
「学校が始まってしばらくしたら、また起きれなくなるとか、どういう人なんですか?」
笑っているだけなのに。ミホが怖い。
「それは、やっぱり、」
僕が寝ぼけた頭で言い訳を考えていると、ミホは、大きくため息を一つつく。
「まぁ、戦いもないから、少しくらいは大目に見てあげます、それより朝ご飯、早く食べて欲しいんですけどね。冷めるから」
僕の頭を人差し指で軽くつつき、ミホは部屋を出て行く。
僕は、慌てて起き上がり支度を始めるのだった。
「時間ギリギリとか、嫌だっていつも言ってるのにっ!」
ミホがぶつぶつ言いながら、隣を走っていたりする。
遅刻ギリギリの中、全力で朝ごはんを食べて、支度をして。
僕たちは通学路を走っていた。
横で、黒髪と、一房の金髪が揺れている。
一度完全に壊されたこの町の再建はゆっくりと始まってはいるものの、学校は軍部が使っていた駐在所だったり、プールなんかも奇跡的に生き残っていた市民プールを利用していたりする。
「大分、出来てきましたね」
ミホが、嬉しそうに周りを見る。
「うん」
僕はそれだけ言いながら周りを見る。
崩れたビルは、再び半分程度作られている。
ただ、一つ前の町と違うところは。
「ビルの上に、砲台があるのは、嫌だけど」
ミホが少し顔を曇らせる。
そう。再び戦場になる可能性があるこの町は、要塞都市として再建され始めていたのだった。
「ほら!時間ギリギリだそーーー!」
学校代わりになっている駐在所の前で、叫んでいるのは先生か。
「急ぐよ」
僕は、その声に少し足を速めようとすると、ミホが困った顔をする。
仕方なく、僕はいつもの手段を取るのだった。
「はぁ。接続者と仲がいいのは分かるが、抱き上げたまま登校するのは、いい加減、辞めてくれないか?シュウ。独身の先生には、ちと目に重い」
先生が呆れた顔で呟く。
その前には、スーツ姿で登校して来た同級生が学校の中へと走っていくのも見える。
「スーツ化は、OKなのに?」
僕が呟くと。
「スーツ化は、まだ許せる所があるが、お姫様だっこの方が、見ていて辛いんだよ」
先生のため息はとてつもなく重かった。
「だから、時間ギリギリは、嫌だって」
ミホは教室へ行く廊下でも、少し前と同じ事を呟いている。
「よっ。見てたよ。相変わらず、お前ら仲いいよなぁ。さすが、トップ支配者と言ったところか?」
オサムが笑いながら声をかけて来る。
ふと見ると、ユウキまで笑みを浮かべて教室に入る僕たちを見ていた。
「トップ支配者って」
「それは、俺の事だからな!」
僕が困惑していると、同じクラスのゴウトが笑っていた。
その言葉に、少しだけムッとした顔をしているアカリ。
「自動機構兵器も、ろくに扱えないシュウ君がトップ支配者なわけないですから」
ミホが笑いながら、僕の手を取って教室の中に入って行く。
『下手に波風立てないで、流しましょう』
そんなミホの心の声を聞きながら、僕は席に着くのだった。
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