穏やかな日常。 水泳大会。
僕は、ぼーっと目の前の光景を見ていた。
皆は、楽しそうに水を跳ね飛ばして遊んでいる。
「相当暇そうだね」
突然、上から水をかけられて慌てている僕を笑いながら見ているのは、光の加減で金髪にも見えるユウキだった。
僕から見ても、イケメンだと思う。
「何を、、」
文句を言おうとした時。
「それ以上は、見逃せないです。ユウキさん」
長い黒髪の少女が、両手を腰に当ててユウキの前に立つ。
今は、長い黒髪を帽子の中でまとめていた。
「はは。ごめんごめん。でも、まさか、シュウ君が、泳げないというか、水が苦手なんて知らなかったよ」
ユウキが笑っている。
僕は、ちょっとスネて顔を横に向ける。
何故か、水に入ると体が硬直して沈んでしまう。
皆がぷかぷかと水に浮いているのが、信じられないくらいだ。
「大丈夫です。シュウ君が、水に入らないといけない事があったら、私が接続すればいいだけです」
黒髪の少女、ミホが、まとめてある長い黒髪を振りほどきながら怒っている。
僕がカナズチだって、しっかり言ってるよね?ミホ。
「いや、ちょっと違うのよ。だって、私、シュウ君の接続者じゃない?助けるのは当然というか」
その心の声が聞こえたのか、少し慌てた感じで返事をするミホ。
「じゃあ、ちょっと競争してみないかい?」
ユウキが少しいたずらっぽい目でこっちを見て来る。
「何の、、」
ミホが戸惑っている。そんなミホも可愛いなぁと思っていると。
「もちろん、クラス全員で、水泳大会だよ」
ユウキの言葉に、僕は泣きそうになってしまうのだった。
ユウキの言葉に、クラスメイトは全員乗り気になってしまった。
「学生らしい事が出来る!」
なんてはしゃいでいる皆を見ていると、どうしても反対なんて言えなくなってしまう。
中学1年から、高校卒業まで、5年間戦い続けた僕たちは、18歳になったというのに、戦争しかしてないのだから。仕方ないけど。
今、クラスメイトとなっているのは、戦争に参加した同級生や、そのサポートとして軍部に所属していた人ばかりだったりする。
生血と、神血が、10人ずつ。20名。
接続者や、支配者といった相手をみつけられなかった同級生は、そのまま普通に社会人となっていたり、上位の学校に進学していたりしている。
死んでしまった同級生も大量にいるけれど。
「じゃあ、最初にサポート組から行くかい?」
「いいぜぇー」
乗り気で、水に浸かって行く。
オサム ガイダ。 サポート専門の自動機構兵器に乗る彼の専門は、地形処理。
戦地の地形を確認して、有利な場所を見つけ出し、時には塹壕などを掘る、工夫専門だ。
「なぁ、接続者と同化するのはアリか?」
オサムが笑っている。
「もちろん、アリだ。でないとシュウ君が参加できないからね」
笑いながらOKを出すユウキを僕は少し睨みつけてしまう。
「じゃ、お願いしよっか。アヤメ」
「えー。恥ずかしいんだけどなぁ。水の中でならいいよ」
オサムの横にいた紫っぽい髪色をしている子が少し頬を膨らませながら返事をする。
「をを。じゃあ、俺達もやろうぜ」
他のサポート組の同級生も、同時に水の中に潜る。
全員が水から出た時は、接続者の髪の色のスーツを着込んでいた。
今までは、スーツの色は銀色の一色になっていたのだが、バルカン帝国の技術の中に、接続者の髪の色をスーツに反映させる技術というのがあり、皆がそろってその技術を取り込んだのだ。
銀色のスーツは、恥ずかしいと言うのが、接続者の全員の返答だった。
「よっしゃ!じゃあ始めるかぁ!」
「それでは、スタートしよう!」
ユウキの号令とともに、一斉にスタートするスーツを着込んだサポート組の4人。
その速度は凄まじく。
水しぶきすらあげずに、まるで魚のように水の中を流れて行く。
「みんな凄いね」
ミホは微笑みながらそんな光景を見ている。
「実はね」
ミホは僕を見つめると。
「私も、水が怖いんだ。前の戦いのせいかな?湯あみのお湯に浸かるのも、とまどうくらい」
気が付いていた?と言っているようなミホの頬にそっとキスをする。
びっくりした顔をしているミホが、むすっと膨れる。
「確かに、一緒に入ってくれるから、大丈夫だけどっ」
僕の心を読んだらしい。
そっぽを向いたミホは、嬉しさであふれていた。
「よっしゃーー!」
サポート組の結果が出たらしい。
オサムが、拳を突き上げているのが見える。
そういえば、オサムと、僕って、同じ名前なんだよな。
漢学字を使うと、二人とも同じ名前になってしまう。
修。
「ほら、始めるよ」
そんなしょうもない事を考えていた僕に、にこやかに声をかけてくるユウキ。
「ユウキ!決着をつけるぞ!」
向うで叫んでいるのは、ユウキと対抗していたゴウトだった。
彼も、黒いスーツを着込んでいる。
彼の接続者は、ラクシュミ。
ボブっぽい長さの黒髪と、少しピンクいろっぽい瞳をした少女だ。
はっきり言って、凄い美人である。
「ぐえ」
余計な事を考えていたら、ミホが思いっきり締め付けながらスーツ化してきた。
黒髪に、少し金色がまざった髪。
スーツも、黒色に流れるように金色の筋が入っている。
ミホの髪に金色がまざり始めたのは神機に乗ってからだった。
それに気が付いたのも、ベッドの上だったりしたけれど。
「ごめんって」
また余計な事を考えてしまって、ミホに体を締め上げられてしまう。
「じゃあ、始めるぞっ!」
戦闘組のレースが始まったのだった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
アカリが必死に謝っている。
「大丈夫」
ユウキは真剣な顔でそんなアカリを慰めていた。
レースが始まり。
結果は、一位がゴウト、ラクシュミペア。
二位が、ユウキ、アカリペアだった。
そして、僕はと言うと。
最下位だったりする。
泳ぎ方ってどうやったらいいんだろ。
ミホは、僕の横で笑っていたりする。
「今度、教えてあげるよ?」
そんな事を言うミホの顔がちょっと怖かったりする。
絶対、スーツ化して、僕の手足を動かして教える気だ。
全身が、筋肉痛になるか、捻挫するかが確定する教え方をする気だ。
僕は、必死に、そんなミホから逃げる方法を考え続けるのだった。




