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始まり

「戦争は、千年続き、、、、だから、、、、国として、、、、」


歴史を聞きながら、俺はあくびを押し殺す。

もらった資料。分厚いとは思っていたけど、まさか数百ページにも及んでいるとは思わなかった。


しかも、どこが攻めてきたのか分からないのか、敵国と言われている全部の諜報組織の名前、構成員とその特徴、自動機構兵器(オートモーター)の種類。全部書いてあるのだから、覚えれるわけがない。


「無茶苦茶だ」

僕はそんな事を思いながら、ページをめくっていたのだが。

『君が狙われて、死んだりさらわれたりしたら、僕たちの首が本当に飛ぶんだ。しっかり覚えて、自分の身を守ってね』

とえらく可愛い文字で書かれているのを見て、思わずぶん投げたくなった。


そんな地獄の過去を思い出しながら、教室の真ん中から、窓を眺める。


何気なく見つめていた窓の外に、何か光る物が見えた気がした。空中に。

僕はもう一度窓の外を見直す。


窓側に座っているミホが、僕の視線に気が付いたのか、僕の方を見て笑う。

いつもなら、少し嬉しくなる事なのだが。

今は、それどころじゃなかった。


「シュウ君。よそ見をしないように」

歴史の先生が俺を注意するが。


窓の外から見える、豆粒のような飛行物。

いや。

あれは。

何かを構えている。

それを見た僕は一瞬で理解していた。


僕は、激しく椅子から立ち上がると。


「みんな、伏せろ!!!!」

力いっぱい叫ぶ。


教室中が僕を見つめて、呆気に取られている。

豆粒のような飛行物が持つ、長い竿の先が激しく光るのが見える。


間に合わない。

咄嗟に、自分の魔力を全解放する。

自分の生体ナノマシンをフル稼働し、強化した足で、窓側へと一気に飛ぶ。

魔力全開ならグランドの端から端まで跳べる自信はある。


空から飛んできた光が教室の窓を貫き。魔法の網に受け止められる。

本来なら、着弾した瞬間、この教室ごと僕達生徒も、先生も消滅させたはずの魔法の光りは、僕の魔力で作った網に受け止められ、教室内に拡散し消滅する。

しかし、爆風まではとても抑えられない。


思い出したかのように、全ての窓ガラスと、外側の壁が爆散し、教室内の空気が吹き荒れる。

激しい爆発に、吹き飛ぶ机や椅子。

俺はと言うと。窓の真下にいたミホを押し倒してその爆風を耐える。

他の同級生は、、、ごめんだけど助けるのは無理だ。

無事でいてくれる事だけを祈るしかない。



激しい爆発の中。がれきが弾け飛び。教室内で暴れまくる。

窓の下にいたからか。壁やガラスのかけらが僕の上を吹き飛んで行く。

そんながれきの一個で、切れてはいけないところが切れたらしい。

ドロッとした物が、俺の顔を流れて行くのが分かった。

大量の僕の血が、流れ落ちる。

魔力を開放して、魔力の網を作っていたせいか、ナノマシンに送る魔力が不足しているのか。

少し傷の治りが遅い。

僕の下にいるミホの顔に、その口にぼたぼたと自分の血が落ちて行くのが見えた。


「大丈夫?シュウ君!?」

堕ちてきた血に、びっくりしたのか。

血を浴びて気持ち悪いだろうに、目を見開いて僕の心配をしてくれるミホ。


本当に優しい子だと思う。



「大丈夫」

ミホの顔を血だらけにしてしまったけど、すでに傷はふさがり始めていると思う。

痛みもそんなに無い。


まあ、ケイトさん曰く、、「痛みの許容量が高すぎるのよ、、、あなたは、、我慢しすぎなのよ」

なんて言われる事もあるけれど。

ケイトさんが心配のし過ぎなんだと思う。

高魔力のおかげか、魔力の回転も、充填も、人より早いし、魔力切れになった記憶もないし。

回復能力も他の人より高い自覚はある。

僕が大丈夫と、笑って見せると

「よかった」

ミホの顔がゆるんでいた。

安心したのか、ミホが、笑い返そうとした時。

「え、え、体が熱い」

突然、びっくりした顔になったと思うと、僕の下でミホが自分の体を抱きしめる。


「え」

僕も、何が起こったのか分からない。

「いや、いや、いや。変わる。私、変わっちゃう」

ミホが小さく、はっきりと呟く。

自分の体をしっかり抱きしめているのに。震えているミホ。


その呟きが終わるか、終らないか。

ミホの体から、いや、手から帯のような肌色のヒモが出て来る。

まるで、ほぐされた糸のように、腕から伸びて行くヒモ。


それは、しばらく空中で揺らめいた後。突然に俺の胸を貫いた。


「え?」


驚いたけど、痛みは無い。何故か痛くなかった。

その帯の中がうっすらと赤く染まるのが見える。

ヒモを通じて、俺の血がミホに流れて行くのが見える。


「まさか」

俺の体の中に入ったミホの一部が切れ、残ったヒモは俺の胸に吸収されて行き、紋様のように痕が残る。

破れた制服から、不思議な幾何学模様になった傷が見える。


ミホはと言うと。

真っ白い肌の首筋に、赤い紋様が浮かび上がっていた。


僕の胸にある紋様と同じ物。

茫然としている俺を前に。


「バカ、バカ、バカぁ!」

突然泣き出す、ミホ。


どうしたらいいのか分からず、慌てている僕を後目に。

学校のグランドに、茶色い自動機構兵器(オートモーター)が着地する。


僕達のクラスを狙い打った、巨大な魔法ライフルが再び僕たちに向けられる。


二発目が今にも発射されようとした瞬間。

その腕が吹き飛んだ。


「ちょっと、派手にやりすぎかもねっ!」

そんなチャラい声と同時に、空から落ちて来た青い自動機構兵器(オートモーター)が、切り取った腕を掴んでいた。


茶色い自動機構兵器(オートモーター)は、慌てたように、空中へと逃げていく。

「逃がすわけないっしょ」

そんな声と一緒に、落ちてきた蒼い機体は、逃げる自動機構兵器(オートモーター)を追いかけて行く。


その姿を見送った後。

「大丈夫か!?とりあえず、全員避難すること!」

血相を変えた先生方が、教室に駆け込んで来た。



がれきと、傷だらけの生徒たちがうずくまる地獄絵図の中。

見通しが良くなり過ぎた、壁だった残骸の前で女の子を押し倒している光景が先生の目に入る。

本気で泣いているミホを先生は見てしまった。

「シュウ!!!!!!」

これ以上ないくらいの音量で僕は怒鳴られたのだった。




結局、先生に連れられて皆とは別の場所。教育室と言われるいわば懲罰室に連れてこられた僕とミホ。

女の先生に、肩を抱かれて、震えているミホの横で。


僕は、思いっきり顔を一発殴られていた。


「何をしたのか分かっているのか!」

先生に怒鳴られる。


何が起きたのか、分かってはいた。

いたけど、本当はミホが受け入れるとは思わなかったと言うのが本音だった。


「もう少し、ムードのあるところでやって欲しかった」

本当に小さく呟くミホの声がしっかりと分かってしまう。


「まさか、契約してしまうとは」

「学生同士の契約は、今まで無かったとは言えませんが、まさか、1年生同士とは」

「とりあえず、保護者に連絡を」


先生たちも心なしか、慌てているように感じる。


「とりあえず、この事態をどう収めるのか」

先生が顔をゆがませる。

「退学も」

「仕方なしだと」

そんな話が出て来た時。


懲罰室の扉が突然勢いよく開かれる。


全員が扉の方を見ると。

一人のスーツ姿の女性が立っていた。


「失礼します。その子たちの処遇は、すべてこちらで預かります。学校側に何の非もありません。また、この子たちの処罰も、こちらで行います」

呆気にとられる先生方を無視して、はっきりと言い切る女性。


「え、、ケイトさん?」

僕は思わず呟いていた。


そう。車に乗るたびに俺の血を取って簡易検査をしていた女性であった。

「君は、誰だね!」

「これは学校の問題で!」

騒ぐ先生方に。


立てていたスーツの襟をひっくりかえすケイトさん。

そこには、何かバッジが大量に付いていた。


「は?中佐?」

先生たちがあっけに取られていると。

「この件は軍部がすべて取り仕切ります。了解しましたか?」


有無を言わせず、畳みかけるように言い切るのだった。




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