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ゼウスの教え

目が覚めると、真っ白い天井だった。

かなり高いドーム型の部屋の中で寝かされていたらしい。


隣を見ると別の男性も気持ちよさそうに寝ている。


「お目覚めですかな」

突然声をかけられ、僕はびっくりして体を起こす。


そこにいたのは、優しい微笑みを浮かべ、ゆったりとしたローブを身にまとった老人だった。

老人と分かったのは、その人の髪が真っ白な長髪であったのと、どう見ても60歳は超えていそうな風貌だったからだ。


「突然で、びっくりされましたかな。申し遅れました。私はここゼウスにて、司教を務めさせていただいております、アズーエルと申します」


にこやかに笑う老人に、思わず警戒を解いてしまう。



「ここは、、、?」

周りを見るけど、真っ白い高い天井に、真っ白い壁。


コンクリートのような壁しか無かったユダとは全く違う壁。


「ここは、ゼウスの国でございます。あなたは、私たちに選ばれたのですよ」

にこやかな笑顔を崩さないアズーエル。


「ここでは、あのような巨大な兵器に乗る事はほとんどありません。ましてや、戦う事もほとんどありません。争いなど、何も生まない。1000年も戦い続けて、その事に誰も気が付かない」


ゆっくりと、水差しを持って、コップに水を入れてくれる。

コップも、すぐに割れてしまいそうなくらい、真っ白い物だった。


「戦いからは、何も得る物など無い。当たり前の教えに賛同してくだされた者たちが集まるのがこの国なのです」


すごく納得できる。できれば、今もミホとのんびり生活したいと思っているのに。

ただ、それ以上に、アズーエルさんの言葉の中で、僕の中でひっかかる事があった。


「でも、どうして僕が・・・」

選ばれたのか?

そう尋ねようとすると。

「あなたは、あの戦場に置いて、ほとんど殺していなかった。空へ逃げたのも、殺したくなかったからでしょう。あそこで空に逃げていなければ、あなたの自動機構兵器にとりついた者は全員、自爆していましたが」

その微笑みに、背筋がぞっとする。

「私たちは、私たちの生活を脅かすものにのみ、断固として抵抗します。命を武器として」


アズーエルさんは、そう言うと、ゆっくりと水差しを置く。

「私たちの教えを知りたければ、またごゆっくりとお話をしましょう。今は、ゆっくりと体を休めて下されれば。それで良いと思います。 神の平穏をあなたにも」


それだけ言うと、アズーエルさんは部屋から出て行く。

隣の男性は、まだ、気持ちよさそうに寝息を立てていたのだった。





「どうだったかね?アズーエル殿」

捕虜の部屋を出ると、ふいに声をかけられ、アズーエルは立ち止まる。


「これは、これは。ラファー司祭殿。ごきげんよう」

「ごきげんよう。アズーエル殿。それで、彼がやはりそうだと思うか?」

司祭は、アズーエルの顔を覗き込むように、見つめる。


「少しお話しただけですので。まだ、彼の事も聞いておりません。この私のちっぽけな願望を彼に伝えただけですので」

「そうか。上部は、彼が【神の子】であると思っているらしい。実際、あの部隊の中であの機体だけが、圧倒的に動きが違ったからな」


「戦争の事は良く分かりませぬが。彼は、まだ幼い子であろうとは思いますよ。平和を問うと、目が輝いておりましたから」


柔和に微笑むアズーエルに、司祭は微笑みを返す。


「ならば、懐柔してみせよ。情報を引き出してみせよ。出来れば、手荒な方法はとりたくない。彼が知らないと言うのなら、再び神の使徒を送り出さねばならなくなる。その事をゆめゆめ忘れる事の無いように。大司教様は、【神】の存在を知りたいと言われておられる」


「分っております。私のささやかな力で、何が出来るかは分かりませぬが、出来る限りの事は致しましょう。ところで、彼と一緒にいた、女性の方はどうされたのですかな?」


「そんな事はおぬしが気にする事ではない。もし、あの子が気にするようであれば、今は、寝ているとだけ伝えておけば良い。己の身分をわきまえ、己の宰務に励むように。アズーエル殿」


それだけを言うと、司祭は立ち去って行く。


その後ろ姿を見ながら、アズーエルは小さくため息を吐く。

「汚職、姦淫、組織は腐るのは分かっているのですが、何か嫌な予感しかしないのですがね」



司祭の後ろ姿を見つめるその目は、酷く迷いが見られるのだった。



「ここ、、は、、、」

私が目を覚ましたのは、ベッドの上だった。

硬いベッドの上で、周りには装飾も何も無い。

なのに。

「ちょっと!」

両手、両足が鉄の鎖につながれている事に、慌てる。


「ほう。なかなかの上玉」

「バラす前に、味見しても良いかもしれませぬな」

「人もどきと交わるのは、罪であるぞ」


「それを言い出したら、地獄の炎に、300年は焼かれる事になりますな」

「それもそうですな」

暴れる私を見て、うっすらと卑猥な笑みを浮かべる男達。


彼らの前にはモニターが浮いていて、私の検査結果が浮かんでいる。

「神血、、など、、、所詮は疑似人形」

「まだ、最終決定は送られて来ないようですな」

「楽しむのも、少し待った方が良いかと思われますな」


私は、その会話を聞きながら。

涙を流す事しかできなかった。

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