負担
「成功だと!」
軍総本部。その指令室の中でびっくりした声を上げたのは、デイ准将だった。
A級の兵器がサイファに置かれた事を極秘に知った彼は、無茶苦茶な作戦を立てて、実行させた。
独断で。
彼が命令したのは、サイファに侵入し、A級自動機構兵器を破壊する事。
失敗を叱責され、もう後が無い彼にとっては、最後の賭けでもあった。
その賭けに使ったのは、大量の隊長機を捕虜にした第2隊。その命。
そして、その自分の命すら賭けた賭けに勝った彼は、半分信じられない顔をしていた。
その報告を受けると同時に、彼に本部から命令書が送られて来た。
「特殊任務、大儀であった。この任務成功は、我が国にとって、大きな反撃の第一歩である。よってかねてより、名君と名高い貴殿を筆頭にバルカン帝国への全面進撃を命ず。その手腕をもってバルカン帝国に自分の身の丈を思い知らせてやって欲しい」
その命令文をディスプレイで見たデイ准将は、口をあけ、茫然とする。
そう。彼に命じられたのは。
最前線の指揮官だったのだ。
「デイ准将を送り込みましたが、よろしいので?」
総統の部屋。
大将は、この国を動かす男を見る。
「かまわん。というか、よくやってくれた。デイ准将もな。たった一つの過ちを別にすれば、、だが。彼の功績は凄まじい。討ち死にしてくれた方が、美談で終わろう」
総統は笑いながら、目の前の資料を片付ける。
「残存自動機構兵器200体を動かしての電撃戦だ。負けてもらっては困る」
笑顔を無くし。
目の前の一番の側近を見る。停戦条約すら無視して、AA級自動機構兵器の破壊を行ってしまった以上、もう後には引けない。
だがそれ以上に。
「あれの存在を確実に知られてしまった。次は全力で来るだろう。ならば、その前に叩きのめすしか手はない」
総統は苦い顔をする。
「出ますか?」
大将の言葉に、首を振る総統。
「君の部隊が出てしまえば、誰がこの首都を守るというのだね。今、一番の功績を上げている第2隊はボロボロと聞いた。修理はひと月はかかるだろう。別機体を渡すという愚策などしたくないしな」
苦笑いしか出ない状況で。
真剣な顔をするのだった。
「バルカン帝国へ一斉の反撃に出るらしい」
軍基地の中。
カイダさんが真剣な顔をしていた。
「だが、今回は、俺達の部隊は居残り。この基地の防衛に当たれとの事だ」
「なんで!僕たちも!」
ユウキが声を荒げるが。
カイダさんは、ゆっくりとユウキの自動機構兵器を指さす。
そこには、大量のチューブにつながれた自動機構兵器が座っていた。
「足は完全に取り換えか、自動修復を待つかの状態との事だ。私の機体も一緒で、右手はまだ再生途中で無いままだ」
それに。。
「ユウキ。君は、自分の相方をもう少し労わってやったらどうだい?」
カイダさんはゆっくりと目を細めてユウキに話しかける。
その言葉に。思わず下を向くユウキ。
そんな二人を無視して、整備兵でもある、神血の人達がとてつも無く大声を上げながら、その声に押し出されるように次々と出撃していく自動機構兵機。
そんな騒ぎの中。
「ごめんね。本当にごめんね」
ずっと謝りながら、膝の上に座ったまま動かないミホ。
手は僕の首にずっと回されたままで、下手をしたらトイレまでついてくる始末だった。
ミホ曰く、「ずっと沈んで行く感覚と、戻れない気がして、すごく怖かった。シュウ君に何度も話しかけたのに、海の底から叫んでるみたいで。本当に怖かった」
神機に乗っていた時、そんな感覚だったらしい。
生きているのに、生きている事を分かってもらえない恐怖。
それは、シミさんとの特訓中でも感じた事の無い感覚だったらしい。
「本当に怖かった」
そう言うミホは、スーツになる事すら怖がってしまっている。
何が原因だったのかは分からない。
けど、ただ一つ、ずっと前に乗った時と違ったのは、僕が魔力統制を使えるようになった事と、ミホが時空間統制を使えるようになっている事。
索敵、予測、戦略的空間把握。
それを超最適化しようとしたら、神機に飲み込まれたらしい。
その恐怖からか、軍の基地に戻ってからは、ミホはずっと僕の傍から離れなくなってしまった。今も僕とくっついているけど、さらに、僕の魔力をひどく欲しがるようにもなっていた。
「魔力中毒ですね。治すのは、、、困難なので、常に傍にいてもらうしかないです」
医者には、そう言われてしまい、治療は無理と言われてしまったくらい。
今ミホの魔力は2万まで跳ね上がっている。
その大半ば僕の魔力が溢れている状態で。
「ごめんね」
謝りながらも、僕の魔力を欲しがるミホを、僕は抱きしめ返す事しかできないのだった。
「私、、ユウキの邪魔になってない、、、かな」
ユウキが自室に戻ると。
ベッドの上に横になっていた少女が目を覚ます。
泣いていたのか。
顔はぐしゃぐしゃなのだが、枕は濡れていない。
神血は涙を流せない。
しかし、その顔は、泣きはらしたと言ってもいいくらいのひどい顔だった。
その顔を見る事が出来ず。ユウキは目をそらす。
「僕だって、、、むしろ、ダメな事ばっかりだ」
「そんな事ない!」
必死に否定するアカリに、ユウキはやっと彼女の顔を見る。
二人は顔を見合わせた後。
ゆっくりと抱きしめ合う。
「もう少し強かったら、助けられるのに」
アカリはユウキを抱き絞めながら、小さく呟く。
せめて、ミホほどナノマシンの比率が高ければ。
もう少しユウキの為に働けるかもしれないのに。
そんな思いを胸に。アカリはユウキを抱きしめるのだった。




