巨大決戦兵器
「目標まであと、5分」
ミホが報告してくれる。
先行している2機も明かりを落としてスピードを下げて移動している。
時々、ユウキの機体はバランスを崩していたりする。
「ケイトさんの方が処理能力高いね。やっぱり」
2機の動きを見ながら、そんな事を呟くミホ。
やっぱり気になるのかなと思っていると、
「同じ神血だもの」
そんな返事が返って来る。
「私たちの方が、索敵は早いと思う」
ミホの言葉に、頷いて僕は戦車の足を速める。
2機の横を通り過ぎて、先行しようとしたとき。
ユウキの自動機構兵器が、大きくバランスを崩して、倒れてしまう。
「バカ!」
ミホの叫び声が聞こえる。
自動機構兵器が倒れる派手な音と、砂煙の中。
辺りに設置されていた、敵のサーチライトが、点灯する。
砂煙の中、倒れているユウキの自動機構兵器が照らされる。
「見つかった!全力で、突破する!」
カイダさんの焦った通信が入る。
「ミホ!索敵!」
「出来てる!」
とっさに叫んだ僕の頭の中に、全部の敵の位置がミホから送られて来る。
魔力統制と、時空間統制の二つが合わさった時、僕がミホで、ミホが僕になれる。
魔力砲が、ユウキを狙っているのが見える。
「こんな状況で、無理だからっ!」
僕は叫びながら、魔力を送り込み、限界までスピードを上げたまま、魔力砲を打つ。
「ヒット!」
ミホの声を聞き流しながら、魔力砲の反動で向きを変え、次の標的を狙い打つ。
ギシッという鈍い音が車体から聞こえる。
敵の戦車のような自動機構兵器の頭が吹き飛ぶのが見える。
続いて、2機目の魔力砲を構えていた自動機構兵器を撃ち落とす。
ユウキはやっと体制を立て直し一気に走り始めた。
「すまない!」
そんな通信が入るが、無視する。
アカリが凹んでると、ミホから報告が来るが、気にしてはいられない。
ここは敵のど真ん中。
魔力盾で、第2波のほぼ全方向からの攻撃を全部受け止める。
「戦車が盾役とか、何年前の戦いだよっ!」
思わず僕は叫びながら、魔力砲で反撃を試みる。
目の前の敵の頭を吹き飛ばしながら走る。
「目標まで、後3分!」
ミホの声が流れる。
「目標、高魔力感知!起動してる!」
ミホの声が高い。
焦り。そして。
「全機!停止!戦車の後方に待機!」
僕は叫んでいた。
「魔力砲!来る!」
「魔力盾!全力で行く!」
僕の声と、ミホの声がかぶる。
目標としていた、超巨大な自動機構兵器の胸部分が光り。
超巨大な魔力砲が放たれる。
一気に視界が真っ赤に染まり。
光りがおさまった時、僕たちの周りには何もなくなっていた。
「魔力砲、5万。耐えきりました」
ミホが小さく呟く。
「けど、被害は甚大だよ」
僕は小さく呟く。
余りに強力な魔力砲は、周りの建物も、道路も全てを消し飛ばして巨大な一本の道を作り出していた。
そして、それを耐えた魔力盾は、今も浮かんでいるのだが。
「両輪のベルト破損。大砲1門破損。前方装甲、60%損傷」
ミホの状況報告がひどく遠く感じる。
言われなくても、目の前の装甲が剥がれ落ちているのが分かってしまうくらいの損傷。
「ギリギリだよ」
僕は小さく呟く。
魔力盾を作るための魔力放出の余波でこれだけ自分が動かす物に被害が出てしまう。
「ありえない、、味方を、、、」
ユウキが茫然と呟やいているのが遠くに聞こえる。
そう。
敵の圧倒的な魔力砲は、味方の機体を何体も巻き込んだのだ。
敵の巨大自動機構兵器は、再び動かなくなっていた。
魔力感知をするまでもなく、一時的な魔力切れになっているのが分かる。
「今なら接近できます!」
僕の声に、カイダさんが、突撃命令を出す。
僕も戦車を動かすが。
ベルトが破損してしまった戦車ほど遅い物はない。
カイダさんの命令で、再び進撃を始めたユウキの後ろ姿を見ながら、動かない戦車を何とか進める。
「ダメ!」
目標に味方の2機とりついたかと思った時。
再び巨大な自動機構兵器が再起動する。
両方の腕から。
胸から。
無数の魔力砲が放たれる。
その攻撃を受けて、カイダさんの自動機構兵器の腕が吹き飛ぶ。
ユウキの自動機構兵器の足が吹き飛ぶ。
「なんだ!なんなんだよぉ!」
ユウキの悲鳴が聞こえる。
「あれは、何なんだ!」
カイダさんの声も聞こえる。
50メートルと思われていた自動機構兵器は立ち上がる。
「全長、100メートル。AA級自動機構兵器。。。」
ミホの解析報告が、絶望とともに耳に届く。
「戦闘力、150万8千」
「無理だろ。。。」
僕は思わず呟く。
「首都防衛用の自動機構兵器が、なんでこんな所にいるんだよ」
「まったく分からない。なんでこんな所に持って来てるの?」
ミホも混乱している。
再び魔力が充填されていく巨大兵器。
「退避っ!」
カイダさんの通信が響くが。
無理だ。
僕も連続で魔力盾を作れるわけじゃない。
ユウキは足が無い。
次に魔力盾を作った場合、前面の装甲がほぼ完全に損傷する。
大体、僕の戦車よりもはるか先に先行してしまった二人を助ける手段が無い。
焼石に水なのは分かっているのに、思わず数発魔力砲を打つが。
まったく届かない。
偶然に、足に当たっても、その装甲を破壊する事は出来ない。
「ダメ!威力が足りない!」
分かり切った事を報告するミホ。
巨大自動機構兵器が両手を広げる。
全身が魔力で赤く染まっていく。
全身に充填された光りが一気に解放される。
無数と思える魔力の光りが辺り一面に広がる。
建物を。命を。
敵の機体を。二人の機体を。
全てを巻き込んで、爆散させていく。
僕はその光景を見ながら、死を覚悟して目を瞑る。
その時。
僕の心に。頭に。
小さな声が聞こえた。
「契約者の危機を感知。魔力索敵完了。転送終了」
その言葉に僕が目を開けた時。
目の前には、大きな黒い穴が開いていて。
無数に辺り一面に伸びていた魔力の光りを全て飲み込んでいた。
いや。吸い込んでいた。
そして、僕が見ている前で。
黒い小さな数メートルの機体が出て来るのが見えたのだった。




