協議
少し前。
軍事国家 ユダの指令室の一室。
「何で勝てない!」
「武器の格差が大きすぎるのかと、、、」
「そんな事は知っている!だからこその軍事部だろう!」
大声で喚き散らしている男達。
その男を横目に見ながら、中央に座る男がゆっくりと口を開く。
「その辺にしておいてくれるかな。ディブロ中将。あまりわめくと君を最前線に送りたくなってしまう」
その言葉に、次の言葉が出なくなり、パクパクと口だけを動かし始める。
「で、、現状は?」
その一言に、全員の背筋が伸びる。
総統。そう言われる彼は、この国のトップである。
「前線は頑張って維持しておりまして、なんとか押し戻せる可能性を見出している最中だと、、」
一人が汗をかきながら報告するのだが。
「希望的観測や、君の意見は聞いていない。事実を教えてくれないかな」
にこやかな笑みでその報告を断ち切る。
まったく笑っていないその目に震えながら、自分の資料に目を落とす。
「西の、、前線ですが、2年の間で、緩衝地帯となっていた荒れ地と、湿地地帯が飲み込まれました。現在、最前線と化している都市、サイファにて戦闘が行われていますが、町そのものはほぼ壊滅。
敵の最前線基地の構築を許してしまっている状態です」
「完敗、、かね」
「押し込まれていますが、我が軍は、確実に敵機を落としており、、」
再び言い訳をしようとした将校を押さえ。
総統の横に座っていた男が口を開く。
「不器用な言い訳はやめたまえ。デイ准将。全ての責任を君に押し付けたくなる」
その言葉に再び口を閉じてしまう。
「大将。報告を」
総統の言葉に、デイ准将を黙らせたヒゲ面の男はデイ准将を見たまま口を開く。
「わが軍の自動機構兵器の損傷は110機 敵の拿捕数は、30機。しかも一般兵だけという、歴史的な惨敗だという事だ」
その言葉に、デイ准将を見たまま総統が呟く。
「この結果の責任は君でいいのかね?デイ大佐」
足が震え、顔を真っ青にしたデイ准将はとりあえず資料に目を落とす。
圧倒的な武器の差が大きい。
こちらの射程外から、精密射撃をしてくる敵。
こちらの魔力剣を断ち切って、さらに機体まで真っ二つにしてしまう、魔力斧。
空中であるにも関わらず、右へ左へと簡単に移動してしまえる魔力ブースター。
どれも自分たちの国では作れない武器や装備である。
そんな時。
一人の兵士が指令室に入り、大将の耳に何かを耳打ちする。
その話を総統に耳打ちする大将。
しばらく総統は考え込み。決断をしたかのように顔を上げる。
その顔を見て、大将は小さくうなずく。
「敵が、休戦の打診をしてきた。第2隊が拿捕した隊長機と、隊長、その部下の機体と支配者を返して欲しいとの事だ」
全員がざわつく。
「捕虜にした隊長は、よっぽど慕われていたらしい。あと、その部下も最高支配者の二人だったようだな」
その言葉にさらにざわめきが大きくなるが、その流れを片手を上げる事で押し黙らせる。大将。
「さらに、相手が拿捕したこちらの100機を返す代わりに、サイファの残り半分を寄越せと言ってきた」
「何を言う!」
「ふざけるな!」
そんな怒号が飛び交い出すが。
「この休戦に同意しようと私は思う。これ以上戦っても、こちらの被害が大きくなるだけだ。
自動機構兵器は、あと400機しかいない。2年で100機以上失っている以上、後5年も戦えないと言う計算になる」
その言葉に、全員の口が止まる。
「異論のある物は?」
総統のその言葉に、全員が下を向いてしまう。
「一時休戦だ。私たちは負けた。バルカン帝国という、小国にだ。これを教訓として欲しい」
総統はそれだけ言うと、席を立ち会議室から立ち去って行く。
大将もその後に続く。
「大将将軍。相手の狙いは、、、やっぱりアレか?」
「だと思われます。相手が特に欲しがっている範囲は学校を中心としているようです」
「神機、、、やはり欲するか」
「でなければ、これほどの電撃戦と大量の精鋭を送り込んでは来ないでしょう」
将軍の言葉にうっすらと笑う総統。
「しかし、あれはまだ私たちの手の中にある」
「はい。その通りです」
総統と将軍は、少し笑みを浮かべながら歩き続ける。
停戦協定の紙を見るために。
「お風呂くらい、なんとかしたいなぁ」
僕は部屋の中でぼそりと呟く。
トイレ、お風呂が共同という事で、ゆっくりとお風呂に入る事が出来ない事に少し嫌気がさしていた。
「スーツ化してあげるよ?」
ミホがにこやかに笑うけど、そっぽを向く。
いや、ミホと一緒にゆっくり入りたいんだよ。
そんな思いがミホにも分かったのか。
顔を真っ赤にして、彼女は僕の胸を押していた。
「変態」
そんな事を呟きながら。
停戦から1週間。
周りはまだ、悲しみにくれている。
今日も、大量の葬儀が行われている。
カイダさんから渡された名簿にいたっては、一目見てみるのを辞めてしまった。
なぜなら、僕たちがいた、特級クラスのざっと2,3割の名前に斜線が入っていたからだ。
「ご飯出来たよ」
ミホは笑顔で声をかけてくれる。
ミホもその名簿を見たのだが、すごく悲しい目をしていた。
「戦争、、、か」
棚の中に放り込まれたままになっている名簿を見ながら、僕は心底嫌気を覚えるのだった。




