日常はゆったりだ
「今日は、魔法銃の実践練習となる!模擬弾とはいえ、怪我もするし、死人が出る事もある!絶対に、人に向けて撃たないように!」
次の日。
また遅刻して行った僕は、銃発射の実践授業の見学をしていた。
「戦闘力9のやつが、使える銃などない!」
先生にまでそう言われてしまえば、どうする事も出来ない。
見学するだけの授業である。まぁ。何もしないでいいのは、嬉しいけど。
銃なんて撃って何が楽しいのか分からないが、クラスメイトのみんなは、必死に受け取った銃を持ち替えたり、的に向かって構えたりしていた。
僕はと言うと、あくびをしながらその光景をただ見ているだけだ。
両親には悪いけど、さらさら、戦争に出る気もないし。
人を殺すつもりもない。
だから、戦闘訓練なんて、やりたくも無い。
なのに。あいつらと来たら。
「真夜中まで、付き合わすんだからな」
巨大なライフルの起動実験だけのはずだったのに、発射実験までさせられてしまい、夜中までやっていたので、明らかに寝不足である。
今日も、今日で10時くらいまで寝ていた。
あくびをしながら、ぼーっとクラスメイト達を見ていると。
順番が来たのか。ミホが、おっかなびっくりの姿で銃を構えていた。
「危ないなぁ」
僕は小さく呟く。
巨大ライフル実験をさせられる前には、銃の発射実験ばかりしていた。それこそ、何千回もさせられている。
ほぼ、軍が扱う全部の銃を試してみたと言っても良かった。
ほぼ全部の武器が自分が全力で魔力を込めてやると暴発してしまうのだが。
今、彼女が構えているのは見た感じ、威力の低い、低反発型魔法銃だ。
射程も短いし、威力もないが扱いやすさと、魔力の充填効率が高く、発射までの時間が少ない、
取り回しの良さと、連射性から、本当の初心者用の銃とも言える。
それなのに、彼女が一発銃を放つと、両手が上に跳ね上がっていた。
可愛い悲鳴も聞こえる。
くりくりした目が怖さからか、しっかりとつぶられていた。
「そうじゃない!しっかり足を踏ん張るんだ!目をしっかり開けて!」
先生の声が聞こえて来る。
「あの銃は、後ろへの反動が低い分、発射時に銃口がブレやすいから、ああなりやすいんだよな。練習用には向かない銃なんだけど」
小さく呟く俺の声はもちろん皆には届かない。
数人のクラスメイトが、目標の的に魔力弾を当てて、ガッツポーズをとっていた。
「とっても暇そうだね?」
そんな光景を見ていると、そんなクラスメイトの一人が声をかけてくる。
確か、彼は、生血だった気がする。
「おや。せっかく声をかけたのに、無視かい?連れないね。」
ああ。思い出した。
生血で、支配者候補のユウキだ。
確か、戦闘力300という、脅威の数字を出していた気がする。
その戦闘力の全部を力で表すなら、総量180キロを持てるという事。
12歳にして、世界大会に出れるレベルの力を持っていると言う事で、先生方からの覚えは良かったと思う。
「ん?まさか、ミホを見てたのか?あー。やめといたほうがいいよ。僕ですら振られたんだから。なんか、思う人でもいるのかねぇ。君みたいな、実力が無い人は相手にもされないと思うよ」
そう言って笑う ユウキ。
少し、プライドは高いが、こいつはいい奴なんだよな。
「ほっといてくれよ」
そう思いながら、ぶっきらぼうに返事を返す。
「ユウキ!そんな奴、相手にするんじゃねぇよ!こっちに来て、勝負しようぜ!」
的の前から、そんな声がし始める。
アイツも、生血で、支配者候補だ。名前は、ゴウトだった気がする。
ユウキよりも戦闘力が高く、350だったはずである。
今年は、天才が二人もいると言って、先生方が大騒ぎしていたのをしっかりと覚えている。
「いいよ!やろう! すまないな。シュウ。ちょっと行って来るね」
そう言って走って行くユウキ。
ミホはと言うと、そのゴウトに話かけられ、二人の射撃を見て、他の女生徒と一緒にはしゃいでいる。
他の女子も、二人が的に当てるたびに、黄色い声を出していた。
なかなかの命中率だ。
「すごいなぁ。二人とも」
僕はそんな二人を見て、ただ感心していた。
その後は、機構構造の授業。
まぁ。自動機構兵器の構造の話である。
そこで話される事は、軍の施設でとことん聞かされた事ばっかり。
自動機構兵器の単独起動実験までさせられた事もあるし、はっきり言って構造は頭に叩き込まれている。
いや、むりやり詰め込まれたと言ってもいいかも知れない。
支配者の魔力を添加剤として、接続者の魔力と合わせ自動機構兵器のエンジンを稼働させる。
中心に入っているのは、循環魔力石といわれるもので魔力の力で巨大な機械の体を動かす仕組みになっている。
ただ、その魔力燃焼の度合いも、継続戦闘能力も支配者次第なのだ。
どうしても、知っている事ばかり言われてしまうため、あくびが止まらない。
眠気と戦いながら、授業を受ける。
本当は受けたい授業じゃないんだけどな。戦争嫌いだし。
そんな事ばかり思っていたのだった。
家に帰って、今日は、すぐ布団に入り。
次の日。
「だぁぁぁぁl!」
またしっかり遅刻した俺は、別室の格闘場に入るなり、投げ飛ばされていた。
格闘術の授業。
投げ飛ばされながら、僕は心の底から来るんじゃなかったと後悔するのだった。
3時間も、投げ飛ばされ、蹴られ、殴られ続けた後。
やっと授業が終わって解放された。
ほっと息をつく。
そんな時。ユウキが俺の傍に来ると。
「いつも思うけどさ、シュウって、格闘技の授業、わざと弱い振りしてない?」
そんな事を言われる。
俺は、全力で首を振る。
しかし、ユウキは、首をかしげながら。
「いや、他の奴を投げた時よりも、軽いんだよな。シュウを投げた時。まるで、わざと投げられてるような。しかも、他のやつを蹴ったときより、硬い気もするんだけど」
と不思議がっていた。
いや。気にしないで欲しい。
本当に。
僕は、戦闘は一切やりたくないだけなんだから。
そんな姿を見たのか。
授業の帰り、移動時間にミホが声をかけてくる。
「シュウは、ユウキと本当に仲いいね」
「いや、相手が絡んでくるだけだから」
気になってる子に話しかけられて、ちょっと心の中で嬉しく思いながら。
ぶっきらぼうに返事を返す。
少しミホは笑っていたように思えた。
相変わらずの眠たい座学を終えて、帰る最中。
「よぉ。おかえりかい?どう?今からお茶でもしないかい?」
普通に歩いていると、金髪の男にチャラく声をかけられる。
「だから、そういうのは、女の子にしたらどうですか」
「連れないなぁ。もう少し、口調も馴れ馴れしくしてくれて構わないんだよ」
「一応、私の上司に当たる方ですから」
その返事に、肩をすくめるカイダさん。
その後で、いつも通り真剣な顔になる。
「シュウ軍曹。軍機密の情報だ。隣国からの潜入部隊が入って来た可能性がある。今、この町は臨戦態勢にある。もちろん、軍所属の君もだ。くれぐれも、唐突に姿をくらましたりしないでくれよ」
真剣な顔で、俺に告げて来た。
「軍から、君への宿題だそうだ」
にこやかに笑いながら、分厚いレポートを渡して来る。
「今の時代に、紙ですか?なんで、データじゃないんですか?」
僕は思わず愚痴を言うが。
「データは、途中で改ざんできる可能性と、ハッキングの可能性があるからな。軍機密の最重要機密文書だ」
バラバラとめくると、国の名前、部隊名、自動機構兵器の名前と種類が書かれてあるのが分かる。
「町に入った可能性のある、自動機構兵器と、その組織の詳細だ。頭に叩き込んどけ」
「そうそう。読んだら絶対燃やせよー」
それだけ言って、手を振りながら、歩いて去って行くのだった。